寄り道もムダにしなければ本道になる
一息つけたかな? じゃあそろそろ研究所にもどろうか、マロ。

しかし…嶋田先生にそんな低迷期があったなんて知らなかったでござるよ。
そうだね。ジャンプで『キン肉マン』の連載が終了したのが1987年。『キン肉マンⅡ世』が始まったのが1997年。
つまりこのまるまる10年の間、嶋田先生はマンガ家としては鳴かず飛ばずだったんだ。“ゆでたまごの暗黒期”なんて揶揄されることもあるくらいさ。いやホント、出す作品、出す作品売れなかったんだから。

なにやらいつもより“しょちょー”の言葉に熱があるでござる。
ああ、ゴメン、ゴメン。ボクはその当時をリアルタイムで実感してきた世代だからね。嶋田先生が低迷している姿は、子ども心にも辛かったんだよ(苦笑)。
ただ嶋田先生が言うには、この10年間は、さまざまな情報やネタを仕入れることができた10年間だったそうだよ。

え? そうなのでござるか?
うん。というのもデビューしてからの10年は、激戦区の戦場で毎週のようにマンガを描いていたわけだ。それこそ休み知らずでね。
だから実際の所、この時期にアイデアが枯渇していたことも否めなかったんだ。そりゃそうだよね、延々とアウトプットを繰り返していたから、当然インプットとのバランスは崩れてくる。
そこで嶋田先生は不本意ながらも増えた自由な時間を、さまざまなジャンルの人たちと交流することに使ったんだよ。それこそプロレスラーから格闘家、お笑い芸人、アーティストといった感じでね。
その結果、嶋田先生はたくさんのスゴい能力を持ったプロフェッショナル達の取材ができたわけだ。それが何物にも代え難い、新たな財産になったという実感が湧いたそうだよ。

交流と言いつつ、取材になっていたのでござるな!
そうなんだよ。ただこのライフスタイルが有名になってきちゃったから、嶋田先生は“遊んでいる方のゆでたまご”なんて悪口を言われてしまう場合もあるんだけどね(苦笑)。
でもここで新ネタを山のように仕入れることができたからこそ、『キン肉マンⅡ世』の大成功があり、現在の『キン肉マン』でも、その面白さが息切れしないんだよ。

“ゆでたまごは今が全盛期”と言われる秘訣は、そこにあったのかもしれないでござるな。
おっ、いいこと言うね、マロ。

そ、そうでござるか? テヘヘ…
だから嶋田先生は、この10年間低迷期はたしかに本業ではパッとしなかったけれども、けっしてムダではなかった、と考えているんだ。
寄り道に見えたかもしれないけれど、実はこれも本道だったと。真にムダな事など実はこの世に存在しないと、教訓にさえしているらしいよ。
だからマロも、仮に“犬フェス”の企画がうまくいかなかったとしても悲観せずに、それも本道への寄り道だったと思えばいいんじゃないかな?

なるほど! そう考えたら、なにやらプレッシャーが軽くなった気がするでござるよ!
おっ、ずいぶんと前向きになってきたじゃないか。
ひとつを頑張る事でさまざまなものが手に入る

そうなのでござる。散歩中に嶋田先生の話を聞いていたら、いくつかアイデアが浮かんできたでござるよ!
じゃあさっそく“火事場の仕事力”を実践してみようか。アイデアが浮かんだらどうするんだったっけ?

“アイデアは人に伝える事で膨らんでいく”でござる!
だね。ボクでよかったら聞くよ? 話してごらん。

ええ~っとでござるな…
①嗅覚選手権Q‐1GP
②どこまで“待て”るか!? 限界レース
③マーキング陣取り合戦
なんてどうでござろうか。
おお~っ、なにやらあふれ出てきたね。ただあれだね、方向性がそれぞれ違うから、今回はそのうちのどれか一つに的を絞って、アイデアを膨らませた方がいいかもね。

そうなのでござるよ。でも思いついたら、あれもこれも全部やりたくなるのでござる。
なるほど。嬉しい悲鳴だね。そういえば嶋田先生もやりたいことがたくさんあって、気持ちが浮ついた時があったそうだよ。それこそマンガ家を辞めてもいい、くらいの。

え!? そうなのでござるか!?
ほら、嶋田先生というのは“相手を喜ばせたい、びっくりさせたい”、ということが生きがいなんだ。だからその目的達成の手段が、必ずしもマンガでなくてもよかったんだよ。それこそお笑い芸人でもいいし、映画俳優でもよかったんだ。

なんと…それは知らなかったでござるよ…
だから嶋田先生は『キン肉マン』の連載が始まってからも、コッソリと俳優養成学校に通ったり、集英社の執筆室でカンヅメになっている中井先生に

なぁ、今からでもふたりで漫才師始める気ないか?
と真顔で提案して、大ひんしゅくを買ったそうだよ(苦笑)。『7人の悪魔超人編』が始まった頃らしいけどね。

中井先生も返答に困ったでござろうな…
結局そのすこし後に『キン肉マン』がテレビアニメ化となり、作品が大ブレイクしたためマンガ家に専念せざるを得なくなり、それらの未練は断ち切れたらしいんだ。
ただ本業一本に打ち込んでいると、不思議な広がりが起きたらしいんだ。まずアニメ化により、映画版『キン肉マン』において、声優を経験することになった。他にも
- テレビ番組出演でタレントのようにトーク
- 『必殺仕事人』にゲスト出演
といったように、以前思い描いていた他の夢が現実になったんだよ。

なんと…!! すごい引きの強さでござるな!
そうだね。でもその“引きの強さ”について嶋田先生は、

何かひとつに絞って、それを徹底的に頑張ってスバ抜けた結果を出せば、そこからいくつもの新しい展開が芽生えて、広がっていくこともある。
と分析しているんだよ。
だからやりたいことが多くても目移りすることなく、ひとつに集中して結果を出す方が、結局は他のやりたかったことにつながる、と言っているんだね。

なるほど…ひとつに集中した方が、結局は近道になるのでござるな。
自分の仕事の成果をしっかり意識する
そういうこと。ただそのためには、集中したひとつのことに対して、きちんと結果を出さないと難しいよね。
そのためには“自分の仕事の成果をしっかり意識する”ということも大事だと嶋田先生は言っているんだ。

仕事の成果、でござるか。一気にシビアな話になってきたでござるな…
ははは、そんなに構えなくていいよ。嶋田先生はプロだから、そのような振り返りがより必要だということなんだから。
ただプロ表現者だからこそ“反響”や“人気”、そして“売上”という結果はすごくシビアに突きつけられたらしいよ。それらの数字がいい時は、当然モチベーションも上がるけど、問題はその逆だった場合だ。
悪い反響だった場合は当然凹むし、もっと怖いのは“話題にもあがらない”という状態なんだそうだ。いわゆる“無視”だね。こうなると廃業の危機なんだそうだ。

は、廃業? 恐ろしい話でござるな…
まあそこがプロのシビアさだよね。ただ嶋田先生が言うには“このような評価をしているのは誰か?”ということを突き止めた方がいい、ということなんだよ。

嶋田先生の場合は…読者やファンでござるか?
そういうことだね。ただ嶋田先生の場合はわかりやすいんだけど、職業によっては複雑な場合があるだろう? だからそれをほぐすようにたどっていって、最終的な“評価者”を突き止めるんだ。
それがわかれば、自分のやるべきこともしっかりと見えてくる、と言っているんだよ。そしてそれが見えたら、その“誰か”に対するサービスの質を追求できれば、やる気も倍増するらしいんだ。

なるほど…拙者の場合は…フェスに来場する方々、でござるな?
そうだろうね。ただいろいろな来場者がいるだろうから、マロがどの層に喜んでほしいかをしぼったほうがいいかもしれないね。

となると…隣町のルルちゃんでござるな!
限定かい(苦笑)。もう少し広くターゲティングしてみたら?
いくつになっても先駆者でありたい
そして嶋田先生が“火事場の仕事力”で常に念頭に置いているのが、“いくつになっても先駆者でありたい”という信念らしいんだ。

嶋田先生は今までどのようなところで先駆者だったのでござるか?
一番わかりやすいのは“超人募集”だよね。今までマンガの主要キャラを、読者から募るなんて事例は皆無だったわけだからね。

なるほど。たしかに拙者の考えた超人が採用されたら、とても嬉しいでござるよ。
ただこの超人募集という企画は、忙しすぎてファンレターの返事が物理的に書けなくなった嶋田先生の、ファンへの返事という意味も込めたアイデアだったらしいね。発案自体はアデランスの中野さん(中野編集)らしいんだけど。

へぇ~っ、そうだったのでござるか。
そしてこの企画は40年経った現在も脈々と続けられていて、『キン肉マン』における文化となっているわけだから、確かに“ファン参加型マンガ”という新ジャンルを創った先駆者だといえるよね。その他にも
- キャラクター人気投票
- 超人強度(能力の数値化)
- キャラクターゲーム(ファミコン)
- 超人ごとのキャラクターソング(アニメ)
- “Ⅱ世モノ”リバイバルマンガ(キン肉マンⅡ世)
- 『キン肉マニア』というプロレス興行
- 作品の無料Web連載
といったような、先駆者企画があるんだよ。

すごい数でござるな…流行の“Ⅱ世モノ”の元祖は、嶋田先生でござったか。
そうなんだよ。でも当然のことながら“先駆者”という立ち位置は、前例がないから失敗のリスクも大きいよね。
しかしながら嶋田先生は、『キン肉マン』において“逆境に負けない不屈の逆転ファイター”を描いている自分自身が、失敗から逃げていては

読者にウソをついていることになる
と、その背信行為を許せないらしいんだ。

すごい覚悟でござるよ…嶋田先生自身も、奇跡の逆転ファイターなのでござるな。
そうかもしれないね。だから失敗を恐れず、さまざまなことにチャレンジし続けたい、と言っているんだ。
そしてリスクが大きいほど、チャレンジで成功した時の“してやったり感”も格別だそうだよ。これこそが先駆者としての特権、とまで言っているんだ。
だからマロもクヨクヨしないで、自分の思いついたフェスの企画を、自信たっぷりに思いっきりチャレンジすればいいんじゃないのかな?

なにやら自信が湧いてきたでござるよ! よぉ~し、拙者も先駆者を目指すぞ! そうだ、ターゲットを猫にしたら間違いなく史上初でござるな!
いや…犬フェスなんだから、それは…どうなんだろうかと…お、話しているうちに一回り散歩してきちゃったな。今日の散歩はここまでだ。
まあ今話してあげたことをもっと詳しく知りたいのなら、嶋田先生の書籍を読んでみるといいよ、マロ…って全然聞いてないな。だめだこりゃ(苦笑)。
今回の参考文献


次のお散歩も楽しみにしているでござるよ、“しょちょー”。それではバイワンでござる!

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