【火事場の仕事力①】ゆでたまご(嶋田)先生の仕事術を覗いてみた、という話。

オレ流研究所
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 ここは都会の喧騒から少し離れた、穏やかな街の外れにポツンとたたずむ、とある研究所。

 拙者はここで飼われている豆柴“マロ”でござる。ここでは“しょちょー”を中心に、何やら不思議でわけのわからぬ研究を、日々忙しそうにしているでござるよ。

 それでも“しょちょー”は一日一回、必ず拙者を散歩に連れて行ってくれるのでござる。拙者はこの散歩を毎日楽しみに待っているのでござるよ。

火事場の仕事力?

そろそろ恒例の“犬フェス”の季節でござるな…でも企画アイデアが何も思い浮かばないでござるよ…あ、“しょちょー”。

 やあマロ。今日も散歩日和だな。じゃあさっそく中央公園まで一回り、行ってみようか…お? なにやら物憂げな表情じゃないか…なるほど、イベントの企画が思いつかないのか。

そうなのでござるよ。今年、拙者は運営委員の一人になっているので、イベントの企画をひとつ、任されているのでござる。

 …犬社会でもフェスがあること自体びっくりだよ(苦笑)。いろいろとあるんだね。

犬の文化祭でござるからな。でも…まったくいいアイデアが浮かばないでござるよ…トホホ。

 まったくアイデアが浮かばなくてトホホ…って

!!…な、なぜでござるか、“しょちょー”!

 いいかい、マロ? たしかにイベントのアイデアを考えるのは大変かもしれないけど、そんなピンチのときこそ、火事場の仕事力を忘れてはいけないよ?

火事場の仕事力…⁉ 火事場の仕事力とは何でござるか?

 ちょうどいい。いま来ている研究依頼が、仕事での発想力や逆境を跳ね返す力についてなんだ。

 今回は『キン肉マン』の原作を担当している嶋田隆司氏の著書『火事場の仕事力』を参考文献に研究しているので、それについてマロに話してあげるよ。とりあえず散歩に行こうか。

 単刀直入に言うとだな、“火事場の仕事力”というのは、“仕事が上手くいかないときの対処術”ということさ。

 要は“嶋田先生が長年活き活きと仕事ができる秘訣”かな。

活き活きと仕事ができる秘訣…でござるか!?

アイデアは人に伝えることで膨らんでいく

 そう。『キン肉マン』は40年にわたって連載されているんだけど、嶋田先生はずっと“創作”という作業を楽しんでいるらしいんだ。

そ、そんなに長い間、仕事を楽しめるものなのでござるか?

 まあそう感じるよね。しかもアイデアなんて湯水のごとく湧いてくるわけではないだろうから、そのような気持ちをいつまでも持ち続けるのはなかなか難しいと、普通だったら思うよね。

 ただ嶋田先生はアイデアを出す、広げる、という点において、“アイデアは人に伝えることで膨らんでいく”という持論を持っているんだ。そのアイデアというのは、ホントに断片的で粗いものでいいらしいんだけどね。

でも…粗いアイデアが的外れだったら、少し恥ずかしいでござるよ。

 なるほど。マロは羞恥心が強いんだね。そのような考え方もあるけど、嶋田先生は

嶋田先生
嶋田先生

人間がひとりでできる事なんて、限られている

と感じているんだ。まあマロの場合は犬だけどさ(笑)。

 だから思いついたアイデアは、どんな粗いものでもまずはどんどん人に話してみるそうだよ。当然その相手は編集者さんの場合が多いわけだけどね。

 ただそれをすることで断片的だったはずのアイデアのピースがつながって、だんだんとまとまっていく様を何度も経験しているそうで、結果嶋田先生はこの打合せの時間が大好きになったそうなんだ。

そ、そんなにうまくいくものなのでござるか?

 それがうまくいくらしいんだ。話す相手がいるという意識が働くからか、話しているうちにアイデアの矛盾に気づくそうだよ。

 そしてそれを修正しようとさらに話すと、ぐちゃぐちゃだった頭がどんどんまとまってきて、アイデアがしっかりとしてくるから、毎回ビックリするそうなんだ。

話しているうちに、そんなことが起きるのでござるか!

 そうらしいんだ。実例をあげると、プラネットマンという、惑星をモチーフにした超人の例があるんだけど…

プラネットマン! 悪魔六騎士の一人でござるな!

惑星に由来する多彩な技を持っていたでござるよ!

 …意外と詳しいじゃないか、マロ(苦笑)。でもね、その多彩な技も“アイデアを人に伝えた”結果生まれたらしいんだよ。

え!? そうなのでござるか!?

 そうなんだ。嶋田先生が

嶋田先生
嶋田先生

惑星がつながった超人がいたら面白いと思うんだ。

というアイデアを出すと、当時宇宙に詳しかった担当編集さんが

編集さん
編集さん

木星の重力で相手を吸引してみたら?

編集さん
編集さん

海王星や冥王星で相手を凍り付かせてみたら?

といったように、アイデアをどんどん膨らませてくれたらしいんだ。

©ゆでたまご

『氷点下の首四の字』の誕生にはそんないきさつがあったのでござるか!

 そうなんだ。その流れから『魔技・惑星直列』などのさらなる広がりが出て、プラネットマン戦は個性豊かな攻撃を繰り広げることができたんだよ。

 これはまさに“アイデアを口に出す”、“人の意見に耳を傾ける”といったことによる成果なんだね。何も自分一人だけでアイデアをひねり出す必要はない、ということなんだよ。

なるほど…もっと他人を頼っていいのでござるな…

「ピン!」ときた瞬間を逃さない

 そういうことだね。あとアイデアを出すときに絶対必要なのが、“「ピン!」ときた瞬間を逃さない”ということらしいよ。

直感、のようなことでござるか?

 そうだね、直感は直感なんだけど「これはめちゃくちゃ面白い!」と、自分の心が躍るような直感のことかな。

 それを活かすために、他は多少辻褄が合わなくなっても気にせず、めちゃくちゃ面白いと思った“ピン!”を逃すな、ということらしいんだ。

でも…辻褄が合わないと、全体が破綻する可能性もあるから心配でござるよ。

 そういう考え方もあるよね。ただ嶋田先生は自分の長所と短所をきちんとわきまえているんだ。

長所:直感で閃いたシーンを最高の一場面にできる

短所:論理的な組み立てが苦手

 このように自己分析をして、短所であるところは切り捨てたり、人の力を借りて、長所を爆発的によくする、という創作方法をとっているんだよ。

 要は全体的にこじんまりとうまくまとめようとせずに、圧倒的なプラス部分を作って、マイナス部分を凌駕しよう、という考え方なんだね。

 30点の部分もあるけど、“ピン!”ときて頑張ったシーンだけは、100点どころか200点をとる。そして経験上、そのやり方の方が圧倒的に成果が出る、と言っているんだよ。

たしかに…『キン肉マン』は矛盾だらけと指摘されるけど、トータルで見ればとても面白いでござるからな。

 そういうこと。『キン肉マン』はいろいろとツッコミどころが多くて有名なマンガだけど、嶋田先生にとってはツッコまれることなんて百も承知なんだね。

 この方法で顕著な例が、『七人の悪魔超人編』における“ミートくんのバラバラ演出”なんだよ。嶋田先生は“ピン!”ときて、このアイデアを思いついたそうなんだ。

©ゆでたまご

 たしかにバラバラになったミートくんのパーツを一つずつアイドル超人軍が取り返し、それらを合体させて復活させるなんて、とても面白い仕掛けだし、ドキドキするよね。

悪魔超人は本当にひどい奴らだと思ったでござるよ。

おかげでアイドル超人をすごく応援したでござる。

 だよね。ボクもそうさ(笑)。でもマロも読んでいて思わなかったかな?

バラバラになったら…そもそも論でミートくん死んじゃわない?

なんてことをさ。

…まあ正直言うと、心の奥底でうっすらと感じていたでござる。

ただ触れてはいけないと…

 そうだよね(苦笑)。さらにいうと、

体をくっつけたからって、普通…生き返らないよね?

というツッコミもあるよね。

 でもこのような杓子定規な正論について、嶋田先生は

嶋田先生
嶋田先生

そんなことは気にしません。なぜ死なないかは、詳しく考えたらダメです。

と、清々しいほどに割り切っているんだよ。

なんと…すごい開き直りでござるな…!!

 そうなんだよ。つまり嶋田先生は、整合性のない部分を敢えて切り捨てて、“ピン!”ときた、圧倒的に面白いアイデアを活かす方向に全力を割いて物語を展開させたわけだ。

 その結果がどうだったかは、読んだマロが一番わかっているだろう?

 このアイデアがあったからこそ、アトランティスの姑息な策略にロビンマスクが足元をすくわれ、あのキン肉マン史に残る衝撃シーンを生み出すことにもつながっているんだ。

あれは…トラウマでござったよ…

 そしてテリーマンが死線をくぐり抜けて腰のパーツを取り返し、大事そうにそれを抱えて

ただいま、キン肉マン。

とキン肉マンの下に帰ってくるシーンで、嶋田先生は初めてジャンプの人気投票で1位を獲得するという快挙も成し遂げるんだよ。

“ピン!”がとんでもない結果を生んだのでござるな…

 そうだね。まさしく“ピン!”方式の大成功例だね。

苦手な人ほど味方に付けたらメリットも大きい

なるほど、アイデアは人に相談することと、ピン! ときた面白さを大事にするべきなのでござるな…う~ん…

 どうしたんだい? まだ不安があるみたいだね。

実は…今回の実行委員長が、3丁目の近藤さんのところのブルなのでござるよ。

 ああ、通りかかると必ずマロに吠えるブルドッグか。

そうなのでござる。だから拙者、アイデアを思いついても、ブルにそれを話すのは嫌なのでござるよ…

 なるほどなあ。でも嶋田先生はこうも言っているよ。“苦手な人ほど味方に付けたらメリットも大きい”ってね。

え!! それってブルを味方に付けろってことでござるか!?

 まあ今のマロの立場だとそうなるね。

そんなことムリでござるよ!

 そう興奮しないで、とりあえず嶋田先生の話を聞いてみてよ。

 嶋田先生は赤塚賞の授賞式に出席するために上京し、当時少年ジャンプの編集長だった西村繁男氏と初めて会うんだけど、その時はあまりの外見的迫力にビビりまくったそうなんだ。

え…どんな外見だったのでござるか?

 嶋田先生曰く、“そのスジの方にも見える”外見だったそうだよ(苦笑)。

ブルと一緒でござる…

 だから嶋田先生は完全に西村氏に苦手意識を持ってしまったらしいんだ。

 そんな中、賞をとった嶋田先生が本格的に漫画家への道を志すと、親御さんには大反対されたらしいんだ。

 漫画家なんて売れなければ当然食っていけないし、なにせ嶋田先生はまだ18歳だったから、安定性のない職業に就かせるなんて、とても心配だったんだろうね。

 ところがそんな状況を知った西村氏は、反対する親を説得すべく、大阪の嶋田先生の実家まで挨拶に来たらしいんだ。

 そしてあの威厳ある声で

西村氏
西村氏

もしお子さんが漫画家に挑戦して芽が出なかったときは、私が責任を持って東京での就職のお世話をいたします。

と、キッパリと言ったそうだよ。これが決め手となって、嶋田先生は漫画家に挑戦することを親御さんに許され、『キン肉マン』が連載されるに至るわけさ。

じゃあ西村氏の説得がなかったら、『キン肉マン』は世に出なかったかもしれないのでござるか!

 まあそうかもしれないね。そしてそれ以外でも、西村氏は陰で日向で嶋田先生をいろいろとサポートしてくれていたらしいんだ。

 それを知った嶋田先生は、西村氏に持っていた苦手意識が、徐々に“頼もしい”というポジティブな感情に変わっていき、事あるごとにアドバイスを乞うようにもなったそうだよ。

 まあ口調は相変わらず怖かったらしいけどね(苦笑)。

なるほど…見かけと雰囲気だけで判断をしてはいけないのでござるな…

 まさしくそうなんだよ。この経験があるからこそ、嶋田先生は

嶋田先生
嶋田先生

苦手だと思っていた人でも、付き合ってみれば意外といい人だった、というケースが多い。

と言っているんだ。

 だからまずはぶつかってみて、もしそれで仲良くなれたらハッピーだよね、という考え方にかわったそうだよ。

なるほど…ブルとももっと話をしてみれば、案外イイやつなのかもしれないでござるな…

 そうだね。もしそれでブルが味方になったら、それこそハッピーじゃないか。

たしかに。やってみる価値はあるでござるよ。

ところで西村氏は、もし嶋田先生が夢破れたときは、どこに就職を紹介する予定だったのでござるのかな?

 それについては、嶋田先生が後に本人に聞いてみたらしいよ。そうしたら西村氏は

西村氏
西村氏

そんなアテなんて、ねぇよ

と、ニヤリとしながら言ったそうだよ(苦笑)。

なんですと!!

 ハハハ、もちろん照れ隠しだよ。本当はアテがあったはずだと、嶋田先生は感じたらしいよ(笑)。

現実から目を背けたら進歩はない

それでも…やはり企画が“つまらない”と言われたら、凹んでしまうでござるよ…

 まあ…たしか凹むよね。でも…一歩を踏み出さないと、何も進まないしな。嶋田先生も“現実から目を背けたら進歩はない”と言っているよ。

耳が痛いでござるな。

 だろう? でも嶋田先生なんて、マロが想像している以上の凹みを経験しているんだよ。

 マロは知らないかもしれないけど、ジャンプで『キン肉マン』が連載終了した後、嶋田先生はヒット作に恵まれず、鳴かず飛ばずだった時期があるんだよ。

そうなのでござるか?

 そう。そして連載が一本もなくなった時期に、道を歩いていたら後ろから“スパーン!”と頭をはたかれたそうだ。

ふ、不届き者がいるでござるな!!

 その不届き者の正体は自転車に乗った子どもで、はたかれた直後に

オマエ最近、つまんねーんだよ!

と暴言を吐かれ、走り去られたそうなんだ。

ひどい子どもでござるな!!

 その通りだね。ただそのとき嶋田先生は

嶋田先生
嶋田先生

ああ、そうか。たしかにあの子の言う通り。今のボクはつまらないんだ。

と思ったらしいよ。怒るどころか納得をしてしまったそうなんだ。

 事実だから否定のしようがないし、そんな暴言さえも受け止める冷静な態度こそ、今の自分には必要だと感じたらしいんだ。

ええっ!? 拙者だったら3日は立ち直れないでござるよ!

 そして嶋田先生は、残念だけれどもつまらないという事実は認めて、じゃあ何がつまらないのかをしっかりと考え直し、自分なりの答えを出そうとしたそうだよ。

 そうした行動をしないと、面白い新作など生まれるはずもない、とわかっていたんだね。そして

嶋田先生
嶋田先生

次に描く漫画こそは、絶対に面白くするからな!

と誓い、現在に至る活躍をされているんだよ。

すごい…精神力と向上心でござるな…

 そうだね。だからマロもやる前から“つまらなかったらどうしよう?”と思い悩むのではなくて、かりに“つまらない”と言われても、その現実を受け止めて、何がいけなかったのかを真剣に考えてまたチャレンジすればいいんだと思うよ?

 おっと、話しているうちに中央公園についちゃったな。続きは少し休憩をとったあと、帰りの道すがらで話そうか。(次回に続く

今回の参考文献

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