ここは都会の喧騒から少し離れた、穏やかな街の外れにポツンとたたずむ、とある研究所。
拙者はここで飼われている豆柴“マロ”でござる。ここでは“しょちょー”を中心に、何やら不思議でわけのわからぬ研究を、日々忙しそうにしているでござるよ。
それでも“しょちょー”は一日一回、必ず拙者を散歩に連れて行ってくれるのでござる。拙者はこの散歩を毎日楽しみに待っているのでござるよ。
世界有数の長寿国というけれど?

日本人の平均寿命、男性が81.64歳、女性が87.74歳で、ともに過去最高を更新でござるか…喜ばしいことでござるな。拙者も負けないようにしないと…あ、“しょちょー”。
やあマロ。今日も散歩日和だな。じゃあさっそく高台の公園まで一回り、行ってみようか…お? ずいぶんと穏やかな表情じゃないか…なるほど、日本人の平均寿命が過去最高を更新したから、マロも触発されたわけか。

そうなのでござるよ。拙者はまだ1歳だから、あと80年も生きられるでござるよ。
…まあマロは犬だから、人間の平均寿命を当てはめるのはちょっと微妙だけどな(苦笑)…。

平均寿命だから、1/2の確率でそうなるでござるよ。ちょっと安心もしているでござる。
なるほど、確率1/2というのは乱暴だけど、統計的な裏づけがあるからたしかに安心だよな…って

!!…な、なぜでござるか、“しょちょー”!
いいかい、マロ? たしかに平均寿命は高い方が喜ばしいかもしれないけど、健康寿命との差が少なくないと、あまり幸せだとは言えないよ?

け…健康寿命…⁉ 健康寿命とはなんでござるか?
ちょうどいい。いま来ている研究依頼が、病気を寄せつけない習慣についてなんだ。今回は順天堂大学医学部教授・小林弘幸氏の著書『病に好かれる人 病に嫌われる人』を参考文献に研究しているので、それについてマロに話してあげるよ。とりあえず散歩に行こうか。
単刀直入に言うとだな、“健康寿命”というのは“健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間”かな。要は病気の心配が少なく、キビキビと生活できる期間さ。

キビキビと生活できる期間…でござるか?
そう。ほら、年をとると病気で寝たきりになったり、認知症になったりと、生活するのに介護が必要になる人がどうしても多くなるだろう? そんな期間を寿命からひいた期間が健康寿命なんだよ。
仮にAさんが平均寿命近い80歳まで生きたとしよう。ところがAさんは60歳で大病をして寝たきりになってしまった。この場合、Aさんの“健康寿命”は
で、60歳だったということになるわけだ。
寿命としては平均近い80歳なんだけれど、この寝たきりの20年というのは、大きな制約が伴った20年だったわけだから、Aさんは健康寿命では60歳だった、という考え方なんだよ。

なるほど、そんな考え方があったでござるか。
もちろんAさんの寝たきりの20年も幸せだったかもしれないけどね。そこは個人の考え方だから何とも言えないな。
ただ“人の手を借りないで生きることに価値がある”という尺度で幸せを定義するならば、Aさんはもう少し寝たきりの年数を少なくできた方が幸せだったともいえるわけなんだよ。

たしかに…80歳で寿命を迎えるのなら、その前日まで元気でいられるのが一番うれしいでござるよ…。
そうだろう? つまりマロは
のような、平均寿命と健康寿命の差が限りなく少ない人生を希望しているわけだね。いわゆる“ピンピンコロリ”という生き方だ。

そうでござるよ。
なるほどな。でもマロのような考え方を持つ人は、かなり多いと思うよ。
そしてこの考え方を提唱したWHO(世界保健機関)も、健康で豊かな生活期間が長いことに価値を見出いしていて、それは同時に医療費の面で、国家のお財布に優しいという相乗効果をもたらすと考えられているんだよ。

たしかに…多くの人がギリギリまで健康だったら、医療費も少なくなるでござるよ。
しかしながら日本の平均寿命と健康寿命の差は、2016年の調査では男性で8.84歳、女性で12.35歳と、ややギャップがあるんだ。
単純計算だと、10年くらいは寝たきり期間が普通だということだよね。

10年は…ちょっと長いでござるな…
そう。だからこのギャップを可能な限り短くできれば、もっともっと活動的な人生が歩めるよね。そのための絶対条件は…

病気にならないことでござる!!
その通り。つまり病気から嫌われればいいんだ。

き、嫌われたいでござるよ! どうすればよいでござるか⁉ 健康食品やサプリメントをたくさん食べまくればよいでござるか?
ははは、そう慌てるなよ。健康食品やサプリメントもその一助となるかもしれないけど、小林弘幸氏の著書『病に好かれる人 病に嫌われる人』では、日常生活でちょっとした習慣をとり入れれば、病に嫌われる人になれると記されているんだ。
どれもこれも、やろうと思えばすぐに始められることさ。じゃあこれからそのいくつかを紹介してあげるよ。
病に嫌われる人になるための習慣
1.起床後コップ1杯の水を飲む
まず一つ目は、朝起きたらコップ1杯の水を飲む、ただそれだけ。

え? ただ水を飲むだけ…でござるか?
そう。簡単だろう? これはね、“胃結腸反射を促す”という点で有効なんだ。

いけっちょうはんしゃ?
要はまだ寝ている胃腸を、水を飲むことで起こしてあげるのさ。

グーグー、グーグー…

起きろーっ! 朝だぞーっ!!

むにゃむにゃ…まだ眠いんだよぉ、勘弁してくれよぉ…

若いのが何言ってるんだ! さっさと起きて体操だ! ほら、オイッチニ、オイッチニ!

(水さんはいつもテンション高いな…)お、オイッチニ、オイッチニ…
こんな感じでさ、水が目覚まし時計となって、胃腸に運動を促すんだ。この運動を“蠕動運動”というんだけどね。

なかなかスパルタでござるな…拙者は朝が弱いから、無理やり体操をさせられたら辛いでござるよ…
でも胃腸がアップを始めることによって自然な便意が誘発されて、スムーズな排便につながるんだよ。

つまり…ウンチが出やすくなるということでござるな。でも…ウンチって…
マロ、ウンチをバカにしちゃあいけないぜ。なぜならウンチを毎日定期的に排出して腸をベストコンディションにしておくことは、病気に嫌われる大きな要因となるからさ。腸がベストコンディションだと

ウンチも出し尽くしているから今日も体が軽いぜ! おっと、さっそく食物が到着したな。よお~し、栄養素を残らずゲットしてやる!
てな感じで栄養素をどんどん吸収して、それを質の高い血液に変えて体中に循環してくれるんだ。
100本ノックで例えれば、全キャッチのノーミスクリアみたいなものさ。しかし腸の動きが鈍いと

ああ~、部屋がウンチだらけだ…掃除しよう掃除しようと思っていたんだけど、後回しにしていたからなあ…部屋がせまくて動きづらいよ…
あ、食物がきたから栄養素をゲットしないと…ダメだ、動きづらくて取りこぼしが多いな…
となってしまい、100本ノックのスコアは無残な結果となってしまうのさ。

なるほど…ウンチも侮れないでござるな。
そうだよマロ。さらに水を飲むことで得られる利点は、副交感神経から交感神経への切り替えをスムーズにしてくれることなんだ。

ふ、ふくこーかん???
簡単に言うと、人の意思とは関係なく24時間働き続ける自律神経には
- 交感神経:いわゆるアクティブモード
- 副交感神経:いわゆるリラックスモード
の2種類があるんだ。
日中の活動時にはアクティブな交感神経が優位なんだけど、体を休める夜などの時間帯はリラックスできる副交感神経が優位になるんだよ。

ということは、寝ているときは副交感神経が優位なのでござるな。
そういうことだね。で、朝起きて活動を始めると、副交感神経優位から交感神経優位に変わるわけなんだけど…

よい睡眠がとれてよかったですね…それでは私はそろそろお暇しますか…

オラオラ朝だ! どけどけ、副交感野郎!

そ、そんなに急かさないで下さいよ、交感神経さん…!

うるせーっ、もうオレの時間なんだ! ほら、出てけ出てけっ!

なんという乱暴な…!! いくら温厚な私でも、ちょっと頭に来ましたよ…!

なんだっ⁉ やるのか⁉ オレはいつでもOKだぜっ!!

ヒイイイイ…
といった感じで、過度に副交感神経が低下すると、イライラの原因になるんだよ。

そういえば朝からイライラしている人は多いでござるな。
だろう? そこで副交感神経の過度な低下を防止するのに、起床後のコップ1杯の水が役立つんだよ。
胃や腸も副交感神経に属する臓器だから、水を飲んで胃腸を活発に動かすことで副交感神経を刺激することができ、その下がり方を抑えて自律神経のバランスを整えることができるんだね。

コップ1杯の水でイライラする人が減るのなら、みんな飲んでほしいでござるよ。
2.朝30分早起きをする
次は朝30分早く起きるようにする、だね。

さ、30分もでござるか!? 朝は5分でも長く寝ていたいでござるよ…
ははは。世の人はみんなそう言うよね。“できそうでなかなかできないことランキング”で、いつも上位に入りそうなのがこれだね(笑)。
でもな、マロ。これもさっき話した交感神経と副交感神経のバランス維持に、重要な役目を果たすんだよ。
特に朝ギリギリまで寝ていて、起きてすぐバタバタと慌てて会社や学校に行っているような人は、アクティブな交感神経が優位になりがちなんだ。

やばい、寝坊した!! 5分で準備して家を出ないと遅刻だっ!!
な~んていって、パンを口に咥えて通学路を走り出し、曲がり角でイケメン同級生と激突して恋が始まるような人(笑)の自律神経は

おおっ! 出動要請がきたぞ!! そ~れ、祭りだ祭りだ! 祭りの始まりだ~~っ!!

ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!! まだ私どものお片付けが済んで…ゲフッ!!
てな感じで、副交感神経が交感神経のラリアットを食らってぐちゃぐちゃの状態さ。

しゅ、修羅場でござるな…
そうなんだ。さらにコップ1杯の水を飲んだり、朝食をとる余裕もないから、交感神経が圧倒的に優位になってしまい、血流の悪い状態で一日を過ごすことになってしまうんだね。

それを予防するために、朝は余裕をもつべきなのでござるな。
その通り。理解が早いじゃないか、マロ。

テヘヘ…
マロが言う通り、朝30分早く起きて穏やかに朝の準備をするだけで、副交感神経と交感神経との切り替えもゆっくりと進み、その日の自律神経のバランスが整うんだ。
もちろん30分じゃなくて、1時間でも2時間でも早く起きるのは問題ないよ。
早く起きた時間でしっかりと1杯の水をとり、朝食をとり、さらにはウォーキングや読書をするなど、豊かな時間を使えるようになれれば、自律神経のバランスはバッチリさ。

そういえば研究所の黒田さんは、いつも遅刻ギリギリで、ダッシュして駆け込んでいるでござるよ。
あ~そうだね、黒田クンはまさにそのタイプだな。よし、今回の研究にかこつけて、ライフスタイルを変えるよう誘導してみるか…。
3.毎日体重計に乗る
次は毎日体重計に乗ることだ。

体重計でござるか?
そう。体重測定は健康のバロメーターと言えるんだよ。できれば朝夕の2回、体重計に乗ることをおススメするよ。

なぜ体重測定が、健康のバロメーターなのでござるか?
それはね、体重の増減を日々モニタリングすることで、腸内環境が把握できるからさ。
腸内環境が整っていれば、朝は夜より体重が1㎏くらい減っているはずなんだ。寝ている間にもエネルギーは消費されるからだね。
でも朝の方が夜より重くなっていた場合は、前日食べすぎだったことがわかるわけだ。それは腸に負担がかかり、腸内環境が悪いことを意味しているんだね。

腸内環境が悪いといい血液が作れない、と先ほど“しょちょー”は言っていたでござるな…
そうそう。で、体重が1週間前より2㎏以上増えていたら要注意さ。食べ過ぎや運動不足、もしくはストレスや不規則な生活習慣で、自律神経が乱れていることが考えられるんだ。
だから体重測定をトリガーとして体重が増えた原因を特定し、日々それに対する改善を行えばいいのさ。

なるほど…だから毎日の体重測定が重要なのでござるな…
そういうこと。これをやっていれば肥満も防げるから、肥満による病気にも嫌われることになり、まさに一石二鳥なんだよ。
4.エレベーター、エスカレーターを使わない
お? 高台にあがる道の横に、エスカレーターなんてできたのか。江の島のエスカーみたいだな…ん? どうした、マロ。

“しょちょー”、ちょっと疲れたので、恥ずかしながらエスカレーターに乗りたいでござるよ…
う~ん、それはやめたほうがいいな。

な、なぜでござるか!!
それはな、エレベーターやエスカレーターを極力使わないことも、病から嫌われる方法の一つなんだよ。理由は二つあるんだ。
まず運動不足になりがちな現代人にとって、こういったシーンは運動をする数少ないチャンスと言ってもいいよね。
すごく小さな運動なんだけど、毎日それが積み重なれば、体力に大きな差がつくんだよ。年をとっても自分の足で歩きたいのなら、とくにおススメさ。
もう一つ、交感神経が優位な日中を活動的に過ごすと、その反動で夜は副交感神経が優位になりやすく、自律神経が整って質のよい睡眠につながるんだよ。

オレ様、日中は大活躍でフル回転さ! でも…夕方になってきてオレ様も少し疲れたかな…

やれやれ、交感神経さんはいつも後先考えませんね…まあいいでしょう。ここから夜にかけては、私が穏やかにフォローしてあげましょうか…
てな感じで、バランスのよいバトンタッチができ、ぐっすり眠れるわけだ。
質のよい睡眠がとれるということは、体の修復やホルモン分泌が正しく行われるわけだから、病を寄せつけないことにつながるよね。病に嫌われる人は、当たり前のようにこういったことを習慣にしているんだよ。

なるほど、ではここはがんばって坂道をゆくでござるよ、ゼイゼイ。
…まあ無理はよくないから、今日はエスカレーターに乗ろうか、マロ(苦笑)。

か、かたじけないでござるよ…
5.深い呼吸を意識する
う~ん、やはり高台は気持ちがいいな。どうだいマロ? 少しは息が整ったかい?

…もう少しでござる
じゃあ深呼吸をしようか。鼻から息を大きく吸って、口をすぼめてゆっくりと吐く。このときの時間は吸うのが4秒、吐くのが8秒、つまり1:2の比率が効果的なんだ。

やってみるでござる。スーーーー、ハーーーーーーーー
どうだい?

スーーーー、ハーーーーーーーー
なにやら落ち着いてきた気がするでござるよ。
それはよかった。この呼吸法は1:2の割合で行うことから、『ワン・ツー呼吸法』と呼ばれているんだ。『ワンワン呼吸法』じゃないよ。

…誰も間違わないでござるよ…
この呼吸法は、ゆっくりと呼吸をすることで副交感神経を刺激し、血管が開いて血流がよくなるのと同時に、筋肉が弛緩して体がリラックスする効果があるんだ。

なるほど…どれもこれも、自律神経のバランスを整えることが重要なのでござるな…
そういうこと。すべては自律神経のバランスを整え、それによって病気を寄せつけないという考え方なんだね。
もっとも大事なこととは
落ち着いたようだから、研究所に戻ろうか。どうだいマロ? 病から嫌われるための習慣をいくつか聞いてみて。

たしかにどれもこれも、ちょっと気をつければできそうなことばかりでござったよ。
そうだろう。だけどこの“ちょっと気をつければできそうなこと”を習慣にするのは、思いのほか難しいものなんだ。意識して続けよう、という意志が必要だからね。

やっているうちにいつしか忘れてしまって、そのうちまったくやらなくなる可能性も高いでござるな。
そうなんだ。だから歯を磨くくらい当たり前のことになるように日常生活に組み込むことが必要で、そうするにはある程度の工夫は必要かもね。
そしてもう一つ、病から嫌われるために、一番重要なルールがあるんだよ。

い、今まで以上に重要なルールでござるか!?
そう。それはね…
というルールなんだよ。

け、けっこう当たり前のことのような気がするのでござるが…?
そう思うだろう? だけど日々仕事で忙しい現役世代は特に、これを怠る傾向にあるんだ。その言い訳のほとんどが

仕事が忙しくてそんな時間はありません!
といったものなんだよ。

たしかに研究所で働いている人々も、毎日忙しそうにしているでござるよ…
だろう? ところがこの『病に好かれる人 病に嫌われる人』の著者である小林弘幸先生に言わせると、2週間以上続く不調や違和感の陰には病気が潜んでいる可能性が高い、とのことなんだ。
今まで数えきれないほどの患者を診てきた著者がそういうのだから、それは相当確度の高い相関性だと言えるよね。

たしかにそうでござるな…
マロが好きな刑事ドラマ『吠える大捜査線』でもよくあっただろう?

初動捜査の遅れが、第二の事件を引き起こしたんだ! 事件は犬小屋で起きているのではない! 現場で起きてるんだ!!
な~んて展開がさ。

犬島巡査部長の名言でござるよ!!
それそれ。要は具合が悪い2週間のうちに、初動捜査たる病院診察を受ければ、手遅れになる前に病気は防げることが多いってことさ。

よぉ~し、拙者も今日から病に嫌われる行動を一つ残らず実践するでござるよ!
ふふふ、マロもスイッチが入ったようだな…お、話しているうちに一回り散歩してきちゃったな。今日の散歩はここまでだ。
今話してあげたことをもっと詳しく知りたいのなら、小林氏の書籍を読んでみるといいよ、マロ…って全然聞いてないな。だめだこりゃ(苦笑)。
今回の参考文献


次のお散歩も楽しみにしているでござるよ、“しょちょー”。それではバイワンでござる!

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