ここは都会の喧騒から少し離れた、穏やかな街の外れにポツンとたたずむ、とある研究所。

拙者はここで飼われている豆柴“マロ”でござる。ここでは“しょちょー”を中心に、何やら不思議でわけのわからぬ研究を、日々忙しそうにしているでござるよ。
それでも“しょちょー”は一日一回、必ず拙者を散歩に連れて行ってくれるのでござる。拙者はこの散歩を毎日楽しみに待っているのでござるよ。
女性の自立が非モテを増やす?

今日の散歩コースはたしか隣町の公園でござったな…
ということはムフフ…ルルちゃんに会えるかもしれないでござるな…!
やあマロ。今日も散歩日和だな。じゃあさっそく隣町の公園まで一回り、行ってみようか…お? なにやら嬉し気な表情じゃないか…さては…ルルちゃんだな?

しょ、“しょちょー”、何を言っているでござるか!
そ、そんなことないでござるよ!!
ハハハ、照れるな、照れるな。この間だってルルちゃんに気に入られるためにダイエットをしたんだろう?

まあ…そうでござるが…そんな面等向かって言われると、恥ずかしいでござるよ…
ごめんごめん。でもマロはルルちゃんのどういったところが好きなんだい?

ルルちゃんはすごくしっかりしたコで、仕事もできる自立した女性なのでござるよ。
でも気取らなくて優しいのでござる。そのギャップがたまらないのでござるよ…♡
そうか、自立しているのに気取っていない女性か…って


!!…な、なぜでござるか、“しょちょー”!
いいかい、マロ? たしかにルルちゃんはとても魅力的な女性ではあるけど、自立した女性が増えれば増えるほど、モテない男性も増えることを忘れてはいけないよ?

モテない男性が増える…⁉ そ、それはどういったことでござるか?
ちょうどいい。いま来ている研究依頼が、女性の自立と非モテ男性との相関性についてなんだ。
今回は橘玲氏の著書『無理ゲー社会』を参考文献に研究しているので、それについてマロに話してあげるよ。とりあえず散歩に行こうか。

単刀直入に言うとだな、“女性が自立すると男性を選ぶ選択肢が増える”ということさ。要は“女性がより男性を選ぶ時代”になった、という感じかな。

女性が恋愛の主導権を大きく持つ、ということでござろうか?
まあそういうことだね。じゃあなんで女性が自立すると非モテ男子が増えるのか、その理由を教えてあげるね。
恋愛結婚文化がもたらした事実
ところでマロはやっぱり結婚願望とかあるのかな?

そりゃあ…まあ…ゆくゆくは結婚したいでござるよ…💦
なるほど。で、結婚相手はルルちゃんがいいと。

な…! いや、その…そりゃあもちろん…
フフフ、かわいいな、マロは(笑)。でも…もしマロの結婚相手をボクが選んできて“この娘と結婚したらいいんじゃない?”と薦めたら、マロはどう感じるのかな?

それは嫌でござるよ。やはり結婚は自分が好きで選んだ人としたいでござる。
なるほどね。マロは自由恋愛主義者であり、リベラルを重んじるんだね。

そんなのみんな同じではないでござろうか?
まあね。現代社会はそうかもしれないね。でもこの自由な恋愛環境が“非モテ男子”を生み出す大きな原因だとしたら、マロはどう思うかな?

自由に恋愛ができるのだから、逆に多くのカップルができるのではないのでござるか?
そう思うだろう? でも実際は逆なんだよ。この統計を見てもらえるかな?

これは1920年からの日本人の未婚率のグラフなんだ。昭和後期の1985年までは、男女ともに未婚率が5%を下回っているのがわかるかな?
そして1990年以降、急激に未婚率が増えていき、現在では男性が30%、女性が20%に迫るいきおいなんだよ。
簡単に言うと、平成が始まってから急激に未婚率が上昇した、という感じかな。昔は95%の男女が結婚できたのに、現在は4人に1人が結婚できないんだ。

本当でござる! でもなぜ平成からこんなに急激に未婚率が上がったのでござるか?
その大きな原因は下のグラフを見ればわかりやすいかな。

これは“恋愛結婚”と“お見合い結婚”の割合の推移を表したグラフなんだ。
これを見ると、1965年を境に“お見合い結婚率”と“恋愛結婚率”が逆転しているのがわかるよね? そしてその差はどんどん広がり、1990年以降、上下に張り付いた状態が続いているんだ。
個人的には『グラディウス』に登場する“オプションハンター”みたいだと思っているんだけどね(笑)。


本当だ! オプションハンターでござる!
これを見る限り、未婚率が増えたのはお見合い結婚の減少、そして自由恋愛結婚の増加に大きな要因があることがわかる。
つまり世の価値観は“恋愛の自由”にシフトしたんだけど、その代償として“結婚できない人たち”を増やしたことになるわけだ。

自由に結婚できるのだからその数は増えると思っていたけれど、まるで逆なのでござるな…
そうなんだ。それは言い換えると、結婚という文化が“パートナー獲得競争”にチェンジしたことを表しているんだよ。
お見合い結婚とは何か
となると、そもそも“お見合い結婚”とは何だったのか、ということをもう一度考え直してみる必要があると思うんだ。
マロは“お見合い結婚”については、どんなイメージを持っているのかな?

結婚相手を他人から押し付けられた感じがして、なにやら後悔しそうでござる。
なるほど。でも昭和の後半まではそれが普通だったわけだ。ということは、このシステムに有用性があったからだとも言えるよね?


確かに…何か利点があるから、このような文化が生まれたのでござるからな。
そうなんだ。“お見合い結婚”というのは、人間が生み出した知恵なんだよ。

知恵?
そう。お見合い結婚、もっと範囲を広げて言えば、親が決めた結婚もその中に入るかな。このシステムの最大の長所は、端的に言えば
なんだよ。

こ、殺し合い⁉ 話が物騒すぎるでござるよ!
ははは、ちょっと刺激的すぎたかな? でもこれはあながち間違いではないんだ。というのも生物学的見地でみると、男と女では性愛に関する考え方が大きく違うからなんだよ。

子孫を残すために、できるだけ多くの相手と交わりたい

自分と子どもに尽くしてくれる男と長期的関係をつくりたい
多少極端かもしれないけど、まあこんな感じだよ。

う~ん、たしかにその通りかもしれぬでござるが…男の方が少し露骨でござるよ…💦
かもね。でも間違いではないよな(苦笑)。
ただこれに沿って考えると、男は女を得るために激烈な競争にさらされ、女が男を選択する、という構図が見えてくるんだ。
それは競争力のない(≒性的魅力がない)男には女が分配されない、と言い換えることもできるよね。要は“モテる男が女を独り占めする”という厳しい現実だよ。


それは不公平でござるよっ!! 納得がいかないでござる!!
ほら、そうなるだろう? その“納得がいかない感情”が極まると…女を巡る男の殺し合いに発展するんだよ。

まさか!
いやいや、これは決してオーバーな表現ではないんだ。
そしてマロは“それは不公平だ”と言ったよね? そんな“不公平の是正”と“殺し合いの回避”を合理的に解決するために考え出された知恵が“お見合い結婚”であり、“一夫一妻制”なんだよ。

あっ!! 一理あると思ってしまったでござるっ!!
だろう? 男女の比率というのはだいたい1:1なわけだから、それらの知恵を徹底して利用すれば、理論上1組のカップルが高確率でできあがるわけだ。

それは“お見合い結婚”が盛んな頃の、ひじょうに高い婚姻率がそれを完全に証明しているよね。

なるほど…お見合い結婚もあながち捨てたものではないのでござるな…
リベラルな恋愛は自己責任?
そうだね。世の平和を願うのならば、とてもいい文化なのかもしれないね(笑)。これを聞いてどうだろう? マロ。お見合い結婚は選択肢にならないかな?

う~ん、悩ましいでござるが…やはり…相手は自分で見つけて決めたいでござるかな…
なるほど。やはりマロはリベラルな恋愛結婚という軸はズラしたくないんだね。ただ…その道はなかなかにいばらの道かもしれないよ…?
選択の自由があるということはとても素晴らしいことかもしれないけれど、その結果に対する責任はすべて自分にかかってくるわけだからね。

ど、どういうことでござるか?
つまりどんなに女性を強く求めても、その想いが成就する保証はないということさ。モテない責任は自分にあるし、そのせいで結婚できずに生涯独身という寂しい人生を送ったとしても、それを受け入れるしかないんだよ。

う~ん、それもなかなかシビアな現実でござるな…
さらに言うと、その非モテの寂しさや劣等感をこじらせると、とんでもない行動を起こす場合もあるんだ。

とんでもない行動…?
“非モテ”のテロリスト
そう。“非モテ”というキーワードで、無差別殺人を起こしたテロリストもいるんだよ。

む、無差別殺人でござるか! ずいぶんと恐ろしげでござるな。
一人はアメリカのエリオット・ロジャー。当時22歳の大学生で、2014年に同じアパートに住む男子大学生を3人刺殺し、その後女性を2名銃殺。その後も通り魔を繰り返し、死者6名、負傷者14名の無差別殺人事件を起こしたんだ。
もう一人は日本の加藤智大。彼は2008年の秋葉原通り魔事件を起こしている。休日の歩行者天国に2tトラックで突っ込んだ後、刃物を振り回して死者7名、重軽傷14名の被害を与えた事件だ。

この二人に共通しているのは、その動機に“非モテ”という要素が強い、ということなんだよ。

モテないとそんな事件を起こすまでになるのでござるか…?
そう思うだろう? でもロジャーは自伝のエピローグに
子どもの頃、私の全世界は無垢だった。それは私が思春期に達し、女たちを求めるようになり、それが私の全人生を生き地獄にするまでだった。私は女たちを求めた。だが女たちが私を求め返すことはなかった。そこにはなにか、とてつもなく間違ったものがある。それが罰せられることがないのは不公正だ。この(無差別殺人の)シナリオなしに、私が幸福な人生を送る方法はない。
My Twisted World: The Story of Elliot Rodger:By Elliot Rodger より引用
と記載している。
これを読むと、女性が自分にあてがわれないことに対する強烈な不平・不満が事件を引き起こしているように感じないかい?

う~ん…犯した罪は許しがたいでござるが…思いつめた行動であったことはわからないでもないでござる…
加藤の方は“非モテの自虐キャラ”路線の掲示板の評判がよかったため、社会とつながるコミュニケーション手段としてそれに依存していったようなんだ。ある意味生きる糧だったんだね。
それが心無い“荒らし”によって荒らされて、それに抗議するという意味であの事件を起こしたらしいんだけど…でもその根底に“非モテ”というコンプレックスがあったことは想像に難くないんだよ。
この事件について取材し、著書にまとめた中島岳志氏の『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』においては
加藤は、不満をぶちまけはじめた。「やっぱり一人、寂しい」「一人はイヤ」「彼女がほしい」「彼女ができれば一人じゃなくなる」「生きている意味ができる」「彼女ができないのは、自分が不細工だから」――。
中島岳志『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』より引用
と、やはりパートナーができないことに対する強烈な寂しさと欠落感を感じ、悩んでいたことがわかるんだ。
これらを見ても、自由な恋愛ができる世の中だからこその、残酷な現実が見え隠れするんだよ。
だから先人の知恵ともいえる“お見合い結婚”や、“親が決めた家同士の結婚”、“一夫一妻制”といった文化や制度は、非モテに対するセーフティーネットのような役割を果たしていたとも言えるんだ。

なんだか…今後の拙者の将来が不安になってきたでござるよ…
そして競争はより激化方向へ
まあ…そう悲観的になるなよ。でも…マロをさらに不安にさせることを言ってしまうけど…この恋愛競争はより厳しく、激しくなることが予想されるんだ。

えっ⁉ もうお腹いっぱいでござるのに、これ以上の仕打ちがまだあるのでござるか…!
そうなんだよね。それが冒頭に話した
という予想なんだ。
最近は“女性活躍の時代”なんて言われて、今まで以上に女性の社会参画が期待されているよね? 男性と遜色のない労働環境、責任、収入。それらが国の経済を活性化させると考えられているんだ。
そんな国の期待通りに女性がより活躍する世の中に変遷すると、非モテ男子にとってはさらなる自由恋愛地獄が待ち構えることになるんだよ。

な、なぜでござるか?
うん、さっきも話した通り、女性は

自分と子どもに尽くしてくれる男と長期的関係をつくりたい
という性愛志向が顕著だったよね。
しかしこれは“結婚後に経済的な側面を男性に依存する”という考えありきで導き出された志向だから、“自立=経済的安定”を手にした女性はこの観点で男性を選ぶ必要がなくなるわけだ。
つまり自由恋愛社会においては、ただでさえ女性は“男性を選ぶ側”だったのに、経済力をも手に入れたことにより、“より厳しく男性を吟味する側”に変化していく可能性が高いんだよ。それこそ

男の人、特に必要ないかな…
なんて選択をする女性が増えることすら予想できるんだ。こうなると“モテと非モテの格差”は拡がる一方なんだよ。


ル、ルルちゃんは自立した女性だから…特にそのような判断をする可能性もある、ということでござるな…
いや、わからないよ? それはわからないって💦 自立した女性でも、案外家庭的な性格かもしれないしさ。あくまで可能性の話さ。だからそんなに落ち込むなよ、マロ。

いや、もう自信がまったくないでござるよ…ハァァ~…
…じゃあさ、自立した女性を射止めるとっておきの裏ワザを教えてあげようか…?

えっ⁉ そんな裏ワザがあるのでござるか⁉ ぜ、ぜ、ぜひ教えてほしいでござるよ! 早く、早く!!
わかった、わかった! 教えるからそんなに寄りかかるな、マロ! い、いつになく激しい寄りだな…。
あのな…女性が経済的に自立するということは、仕事に割かれる時間が増えるということだ。ということは…そんな女性を支える男性に需要がある、ということさ。
要は家事や育児で女性を助ける男性がモテる可能性があるということさ。今までと男女が逆転した世の中だね。


なるほど! なにやら希望が見えてきたでござるよ! よぉ~し、拙者も家事マスターになって、ルルちゃんのハートを射止めるぞ!
…なにやら元気がでてくれたようでよかったよ…お、話しているうちに公園にたどり着いたぞ。お目当てのルルちゃんは来ているのかな…?
まあ恋愛だけが人生のすべてではないからな。ただ自由な恋愛というテーマ以外でも、自分らしく自由に生きられる社会というのは、意外としんどいものなんだよ。
それらをもっと詳しく知りたいのなら、橘氏の書籍を読んでみるといいよ、マロ…って全然聞いてないな。だめだこりゃ(苦笑)。
今回の参考文献


次のお散歩も楽しみにしているでござるよ、“しょちょー”。それではバイワンでござる!

コメント
加藤については、細かい真実を知っているわけではもちろんありませんが、非モテが動機というのは否定されました
その話は初期に流布した話です
MEIJIさん、こんにちは。
そうでしたか。それは知りませんでした。貴重な情報、ありがとうございます。橘玲氏も知らなかったのかもしれませんね。