【認知のゆがみ】ケーキの切れない非行少年たちの話。

オレ流研究所
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 ここは都会の喧騒から少し離れた、穏やかな街の外れにポツンとたたずむ、とある研究所。

 拙者はここで飼われている豆柴“マロ”でござる。ここでは“しょちょー”を中心に、何やら不思議でわけのわからぬ研究を、日々忙しそうにしているでござるよ。

 それでも“しょちょー”は一日一回、必ず拙者を散歩に連れて行ってくれるのでござる。拙者はこの散歩を毎日楽しみに待っているのでござるよ。

非行少年の更生は反省と再教育あるのみ?

犬玉市の中学男子生徒、同級生に対して刃物で傷害事件を起こす、か…こわいでござるなぁ、まだ少年なのに…何があったでござろうか…あ、“しょちょー”。

 やあマロ。今日も散歩日和だな。じゃあさっそく海辺まで一回り、行ってみようか…お? ずいぶんと物憂げな表情じゃないか…。

 なるほど、年端もいかぬ少年が凶悪な事件を起こしたことを知って、気持ちが沈んでしまったわけか。

そうなのでござるよ…こういう事件は、見るたびに哀しくなるでござるよ。

 …まあそうだな。罪を犯した少年にどんな事情があったかはわからないけど、あまりそういった事件は起きてほしくないよな。

でも少年院できちんと教育を受ければ、少年も反省し更生してくれると信じているでござる。

 なるほど、きちんとした再教育で更生か…って

!!…な、なぜでござるか、“しょちょー”!

 いいかい、マロ? たしかに更生に向けた再教育をすることはとても大事だけど、罪を犯す少年たちの多くは、教育以前に“認知のゆがみ”を治す必要があることを認識し、解決すべきであることを知らないといけないよ?

に…認知のゆがみ…⁉ 認知のゆがみとはなんでござるか?

 ちょうどいい。いま来ている研究依頼が、非行少年の更生方法についてなんだ。今回は立命館大学産業社会学部教授・宮口幸治氏の著書『ケーキの切れない非行少年たち』を参考文献に研究しているので、それについてマロに話してあげるよ。とりあえず散歩に行こうか。

 単刀直入に言うとだな、“認知のゆがみ”というのは“認知能力が未発達”ということさ。要は“見る力、聞く力、想像する力がとても弱い状態”かな。

認知能力が弱い…でござるか…

 そう。普通ならば年齢とともに発達すべき認知能力が、何かしらの原因で著しく成長を停滞させる場合があるんだよ。

 そうなると、一般的な認知能力を持つ人たちのコミュニティに彼らが所属している場合、その能力の乖離が激しくて大きなひずみが生まれる場合があるんだ。

大きなひずみ…でござるか?

 そう。じゃあ“認知のゆがみ”について、わかりやすい例を出してあげるよ。

ケーキの切れない非行少年たち

 この図を見てごらん。これは何をあらわしているか、マロはわかるかな?

なんでござろうか…円グラフでござるか? 過半数を得た、みたいな。

 いや、違うんだ。これは凶悪犯罪に手を染めていた少年たちに、円形が記された紙を渡して

この丸いケーキを、平等に3等分してください。

と問題を出した結果なんだ。

えっ!? これでは3等分ではないでござるよ!!

 そうなんだ。普通ならば

こういった、120度刻みで割った線を引くよね。ベンツのマークみたいな。

 しかしその少年たちはどうしてもその分け方が思いつかず、他にも下図の①のような3等分をつくったり、

今度は5等分してください。

という問いに対しては、②や③の回答をしたんだ。

ちょっと…厳しいでござるな…

 そうなんだ。このような切り方は、小学校低学年の子どもであれば、時々見られることなんだけど、問題は凶悪犯罪を犯した中・高校生の年齢でこのような切り方をした、ということなんだよ。

 他にも日本地図を見せて九州を指さし

ここはどこですか?

とたずねると、

外国です。中国です

と答えたり、もっとひどいと

これは何の図形ですか? 見たことないです。

と、日本列島すら認識できない少年もいたんだ。

し、信じられないでござるよ…

 これ以外でも、非行少年たちには共通して

  • 簡単な足し算や引き算ができない
  • 漢字が読めない
  • 簡単な図形を写せない
  • 短い文章を復唱できない

という傾向が顕著だったんだよ。

反省以前の子どもたち

 マロはびっくりしたかもしれないけど、これが現実なんだよ。

 罪を犯した少年を再教育し、まっとうな人間に更生させることは重要なことなんだけど、彼らはそれ以前にこういった“認知のゆがみ”がある可能性が高いので、その状態で教育プログラムを実施しても、効果を得ることは難しいのさ。

ど、どういうことでござるか?

 だって考えてもみなよ、マロ。更生をするには、犯した罪と向き合い、被害者のことも考えて反省をする必要があるわけだ。

 しかし彼らは“認知のゆがみ”から、そういった自己洞察ができない。つまりは犯した罪の原因を客観的に探ることもできなければ、その理由を答えることもできないし、結果として反省にいたることすらできないんだよ。

 非行少年の再教育というのは反省を前提としているから、反省にいたらない…というか、反省をする能力が欠如した少年にいくら高尚な教育を施したとしても、それは右から左に流れてしまうだけなのさ。

たしかに…前提が崩れているのでは、あまり意味はないでござるな…

 そう。だから著者の宮口氏は、まずなすべきこととして、この“認知のゆがみ”を治すための“認知機能向上のための治癒教育”をあげているんだよ。

認知機能向上のための治癒教育、でござるか…

認知のゆがみが見せる世界

 この“認知機能向上のための治癒教育”は、少年院での更生教育に有効であるのと同時に、学校教育に取り入れることで、子どもの非行化を予防する効果があると、宮口氏は言っているんだ。

通常の学校教育で取り入れる、ということでござるか?

 そう。というのも、非行少年に“認知のゆがみ”が多い傾向があるということは、この“認知のゆがみ”こそが子どもの非行化を助長している原因だとも言えるだろう?

たしかに…そうでござるな。

 “認知のゆがみ”があるということは、見る力、聞く力、想像する力が弱いということだから、そういう子どもたちにとって、それをケアされることなく勉強をさせられるということは、ひじょうに苦痛であると考えられるわけだ。

 例えばマロ、これから話す話題に意見を述べてくれないかな?

時間は誰にとっても同じように流れる絶対的なものだと考えられていたが…

“光速度不変の原理”を前提にすると、時間は人によって流れ方が違う、つまり相対的なものだと判明したわけだ。

ということは、速く動けば動くほど、周囲に対する時間の流れが遅くなるはず…つまり光の速さにかぎりなく近づくと、ほかの人たちからはほとんど止まって見えることになる。

 じゃあマロに質問。これらの話題から、理論的には未来へのタイムトラベルが可能だと思うかな?

ちょ、ちょっと何を言っているのかわからないでござるよ…!!

 わからないか(笑)。これはアインシュタインの“相対性理論”に基づく話題さ。相対性理論が理解できている人ならば、苦もなく話が通じるのだろうけど…。

拙者はそーたいせい…りろん? なんてまったくわからないでござるよ!!

 まあそう怒るなよ、マロ。ようは“認知のゆがみ”を持っている子どもたちは、小学校の段階から毎日のようにそういった気分で授業を受けているってことさ。

……!! これは…つらいでござる。地獄でござる!

 そうなんだよ。彼らは“認知のゆがみ”によって、相当に生きづらい学校生活を送っている可能性が高いんだよ。そしてこのことは、学業習熟度のみの問題ではないんだ。

学習面だけの話ではない、ということでござるか。

 そういうこと。“認知のゆがみ”が大きい子どもたちは、見る力、聞く力、想像する力が弱いから、

  • 周りの同級生が見えている風景が見え(認識でき)ない
  • 先生や同級生が話したことについての理解力が乏しい
  • “これをしたらどうなるか”という結果を想像した行動ができない

といったような学校生活を余儀なくされ、学習面以外の生活面においても、話を聞き間違えたり、周りの状況が読めなくて対人関係で失敗したりする傾向があるんだ。

 こんな感じで勉強についていけない、コミュニケーションがうまくとれない彼らは、友達にバカにされたり、イジメにあったり、先生からは不真面目だと思われたりするわけだ。

 そして学校に行かなくなったり、暴力や万引きなどの、さまざまな問題行動を起こし始めたりするきっかけになったりもするんだよ。

ゆゆしき事態でござるな…

気づかれない子どもたち

 こういった子どもたちをケアするための時間というのは、今の学校教育制度にはほぼないといっていい。

 それでも学校はstep by step式の学習指導要領で進むから、はじめの stepでつまづいてしまった彼らは、ずっと取り残されることになるわけだ。

 マロが好きな『ワンスターハンター』ってゲームがあるだろう?

“ひと吠え行こうぜ!”の『ワンハン』でござるな!

 そう。その『ワンハン』で例えると

プレイヤーA
プレイヤーA

よし、レベル3のクエストをクリアしたぜ!

 プレイヤーB
プレイヤーB

じゃあ次もこのパーティーでレベル4、いっちゃいますか。

 プレイヤーC
プレイヤーC

いいねぇ。今夜中にレベル10までいけんじゃね?

 プレイヤーD
プレイヤーD

ゴメン、まだ操作方法がわからないんだけど…

プレイヤーABC
プレイヤーABC

え…? この段階で…!?

こういう状態だよな。

う~ん、かわいそうだし、つらいでござるな…

 でもこういう子どもは、その“認知のゆがみ”のレベルは違えど、学校の中に一定数存在することは確かなんだよ。

 ただそれを数値的な根拠をもって発見できるような仕組みが学校にはないから、こういった子どもたちは

困った子どもだ

手がかかる子どもですな

やる気がないのか、この子は

というようなレッテルを貼られるだけで、それが“認知のゆがみ”という障害を伴ってのことであることに気づかれず、そのまま放置されてしまうんだよ。

不幸としかいいようがないでござるな…

 その結果、そういう“気づかれない子どもたち”が非行化していく可能性が高くなってしまう傾向があるんだね。

問題の解決法は

 そういった事実をきちんと考慮すれば、宮口氏が唱える“認知のゆがみ”を治すための“認知機能向上のための治癒教育”を、通常の学校教育にも取り入れることが大事だということが、よくわかるだろう?

そうでござるな、少しでも『ワンハン』の操作方法に慣れて、みんなと楽しんでほしいでござるよ。

 そっちかい(苦笑)。でもまあそういうことだよね。

 ただガチガチに確立されている現在の教育指導要領の中にこれをねじ込むのは、一朝一夕ではいかないんだよ。

 だから宮口氏は、朝の会の5分間にパズルやゲーム感覚でできる、コグトレ(認知機能強化トレーニング)を推奨しているんだ。

 細かいトレーニング例は宮口氏の著書を読んでもらうとして、これは朝数分のトレーニングの積み重ねでも、こういった子どもたちを救う手立てにはなるという、宮口氏による解決法の提案だね。

 塵も積もればなんとやらで、それが少しでも“気づかれない子どもたち”を救う手立てになるのならば、ぜひ学校は取り入れてほしいよね。

“しょちょー”、そのコグトレ、ひとつ教えてほしいでござるよ。

 ? どうしてだい?

3丁目の近藤さん家のブルは、いつも拙者に吠えてくるから、これをやらせて落ち着かせたいでござるよ。

 なるほどね…でもコグトレが犬にも効果的なのかは、ちょっとよくわからないな…お、話しているうちに一回り散歩してきちゃったな。今日の散歩はここまでだ。

 今話してあげたことをもっと詳しく知りたいのなら、宮口氏の書籍を読んでみるといいよ、マロ…って全然聞いてないな。だめだこりゃ(苦笑)。

今回の参考文献

著:宮口幸治
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次のお散歩も楽しみにしているでござるよ、“しょちょー”。それではバイワンでござる!

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