【現代のアヘン】SDGsだけでは環境破壊は止められない、という話。

オレ流研究所
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 ここは都会の喧騒から少し離れた、穏やかな街の外れにポツンとたたずむ、とある研究所。

 拙者はここで飼われている豆柴“マロ”でござる。ここでは“しょちょー”を中心に、何やら不思議でわけのわからぬ研究を、日々忙しそうにしているでござるよ。

 それでも“しょちょー”は一日一回、必ず拙者を散歩に連れて行ってくれるのでござる。拙者はこの散歩を毎日楽しみに待っているのでござるよ。

すでに始まっている環境破壊

しかし昨日のどしゃ降りはすごかったでござるなあ…おかげで“しょちょー”との散歩ができなかったでござるよ。今日は大丈夫でござるかな…あ、“しょちょー”。

 やあマロ。今日はどうやら散歩日和だな。じゃあさっそく波止場まで一回り、行ってみようか…おや? なにやら不安気な表情じゃないか。

 なるほど、散歩中に昨日のようなどしゃ降りを心配しているのか。

そうなのでござるよ。でもよく考えたら、あんなどしゃ降りはそうそう起きるものじゃなかったでござる。拙者は少し考えすぎのところがあるでござるよ。

 考えすぎ…か。なるほど、マロは前向き思考なんだな。

そう褒められると照れるでござるが…まあ自然現象なんていちいち気にせずに、その時に合わせて行動するしかないでござるよ。エッヘン。

 自然現象を気にしない…か…って

!!…な、なぜでござるか、“しょちょー”!

 いいかい、マロ? たしかに自然には逆らえないかもしれないけれど、すでに致命的な環境破壊が起きている最中であること、そしてそれを引き起こしているのがわれわれであることをよく認識して行動しなければいけないよ?

ち…致命的な環境破壊…⁉ それはどういうことでござるか?

 ちょうどいい。いま来ている研究依頼が、どうやったら地球の温暖化を防げるかについてなんだ。

 今回は大阪市立大学大学院経済学研究科准教授である斎藤幸平氏の著書『人新世ひとしんせいの「資本論」』を参考文献に研究しているので、それについてマロに話してあげるよ。とりあえず散歩に行こうか。

 単刀直入に言うとだな、“致命的な環境破壊”というのは、“地球温暖化による気候変動がもたらす悪影響”ということさ。

 要はこのままだと地球は住めない星になるよという警告かな。

ち、地球に住めなくなるのでござるか!?

 このままほっとけばね。ある研究者の試算では、2100年までに地球の気温は3.5℃も上昇するらしいんだ。

? 3.5℃…でござるか? それくらいだったら拙者ガマンするでござるよ。エアコンもあるし…。

 …だからマロはおばかだって言われるんだよ。いいかい? 地球の気温が3.5℃も上昇するなんて、とんでもないことなんだよ。

 でもどうやらピンと来ていないようだから、実際にどんな弊害があるか教えてあげるよ。

おそるべき近未来の環境破壊とは

 まず大前提として、地球の温暖化が起きている大きな原因は何か、マロは知っているかい?

それは“しょちょー”、拙者をバカにしすぎでござるよ。二酸化炭素が増えたからでござる。

 その通りだね。生産活動や経済活動が活発になった“産業革命”以降、二酸化炭素の排出量が激増したんだ。

 この二酸化炭素が地球をコーティングして、地表から放射された熱を吸収してしまうから、気温が上昇するモードになってしまったんだね。その結果がさっき話した3.5℃の上昇さ。

そういう仕組みでござったのか…

 じゃあ話を戻して、地球温暖化がすでにもたらしている悪影響や、将来的に地球の気温が3.5℃上昇した場合の悲惨なシナリオなどを、いくつかあげてみるね。

  • 100年に一度といわれるような異常気象が毎年世界各地で起きている。
  • 北極圏の永久凍土が溶け、閉じ込められていたメタンガスが大量に放出され、気候変動がさらに進行する。
  • 海水温上昇によるサンゴの死滅や、漁業への影響がでる。
  • 熱波や干ばつにより、農作物の収穫に影響がでる。
  • 海水面の上昇により、海に沈む都市や地域が出てくる。
  • それにより億単位の人々が移住を余儀なくされる。
  • 災害により27兆ドルとも試算される損害が、毎年のように続く。

それ以外にも…。

ちょ、ちょっと待ってほしいでござる。もうお腹いっぱいでござるよ、“しょちょー”。

 どうだい? 今現在、われわれが生きている環境が、いかに危機的状況への入口にいるかがわかったかい?

それはもう、十分すぎるほどにわかったでござる。拙者、3.5℃を甘く見過ぎていたでござるよ。

 ずいぶんと堪えたようだね(苦笑)。でもこの環境破壊のドミノ倒しの最初のドミノを倒さないように、全人類はもっと真剣にこれについて考える必要があるんだよ。

SDGsは現代のアヘン?

でも“しょちょー”、世の人々だってそれなりに環境破壊について、気にし始めたように感じるでござるよ。

 ほう、なるほど。例えばどんな行動がマロにはそう感じたのかな?

例えば…レジ袋が有料になって、マイバッグを持つ人が増えたでござる。自動車メーカーも、ガソリン車から電気自動車にラインナップをシフトしつつあるでござるよ。

 あれれ、よく勉強しているじゃないか、マロ。

エヘヘ…あ、あとあれ。あれをよく聞くようになったでござる。SD…SD…ガンダム? でござったかな?

 …それは二頭身にディフォルメされたガンダムのことだろ(苦笑)。SDGs(エスディージーズ)な。調子に乗るとすぐに知ったかぶりをするんだから…。

誠にかたじけないでござるよ…

 まあいいや。たしかに最近よく耳にするよね、SDGs。簡単にいえば、“持続可能でよりよい世界をみんなで協力して創ろう!”という運動かな。

 国境を越えて、同じ目標・ベクトルで環境保護・保全他、様々なを向上を目指すわけだね。

素晴らしい運動でござるよ…!

 マロはそう思うかい。ただ…『人新世の「資本論」』の著者である斎藤氏は、このSDGsを“現代版大衆のアヘン”と、バッサリと斬り捨てているんだよ。

ア、アヘン!? アヘンってあの麻薬の…? なぜでござるか!?

 それはね、まず前提として斎藤氏はSDGsではこの環境破壊、とくに気候変動は止められない、という否定的な立場をとっているんだよ。

 だからこそ社会全体が意味のない(と斎藤氏は考える)SDGsに協力し、温暖化対策をしている気になって満足してしまうことを懸念しているんだ。

マイボトルにお茶を入れて、ペットボトルを利用していない私、環境に優しい!!

エアコンの温度を28℃設定で我慢できているオレ、エコロジー!!

よしっ、次の車は電気自動車にしよう! 排ガスを抑制するオレ、素敵!!

こんな感じでさ、ただの自己満足に浸ってしまうんだよ。でも斎藤氏は

斎藤氏
斎藤氏

それだと気候変動を止めるための、真に必要な行動にたどり着く前に終わってしまう!

と言いたいのさ。

 結果的にそれは、良心の呵責から逃れているだけのエコロジカルな行動にすぎなく、現実逃避しているだけだというわけだ。この現実逃避を揶揄して“アヘン”と言っているんだよ。

なかなか厳しいご意見でござるな…でもマイボトルもマイバッグも、素敵な行動でござるよ。

こういった小さな行動の積み重ねが、社会を動かすのではないのでござるか!?

 そうだね、ボクもマロの言う通りだと思うよ。

 ただ斎藤氏は小さな行動を起こすのならば、本当に効果があるべきことで行動をしてもらいたい、と言っているんだよ。

 つまりその行動のベクトルが、SDGsに則った方向ではピント外れだ、と言いたいんだね。

ピント外れ…でござるか…?

 そう。じゃあなんでSDGsでは気候変動が止められないのか、説明してあげるね。

なぜSDGsでは気候変動を防げないのか

カーボンニュートラルとは

 CO2を中心とした温室効果ガスの削減目標は、2050年までに100%、つまり排出量と吸収除去量をプラマイゼロにするのが世界的な目標なんだよ。

 マロは“カーボンニュートラル”なんて言葉、聞いたことないかな?

き、聞いたことあるで…ござるよ…

 無理しなくていいよ(笑)。2021年を最後にホンダがF1を撤退するとリリースされた時も

HONDA
HONDA

HONDAは2050年までのカーボンニュートラルを実現するためF1から撤退し、技術者をそちらの研究開発にまわします。

と、カーボンニュートラルはF1撤退の大きな理由としてあげられていたんだ。

大きな会社はさすがにすごいでござるな。

 うん、そうだね。ただF1が好きなボクにとっては残念な発表だったんだけどね(苦笑)。

 ま、それは置いといて、HONDAの宣言したことはたしかにすごい目標だし、社会的意義は大きなものだと思うよ。

 ただ斎藤氏に言わせると、それだけではとてもCO2は減らせないし、逆にそこで生じる負荷を弱い国に押し付けることになる、とのことなんだ。

?? どういうことでござるか?

電気自動車でCO2は減らせるのか

 わからないか。じゃあ質問。自動車産業がCO2削減をするためには、どんな経営方針を掲げればいいかな?

それはもちろん、ガソリン車から電気自動車への移行でござるよ。

 正解。CO2を排出しない、電気自動車のラインナップを増やすことが自動車メーカーの今のトレンドになっているんだったよね。

 では電気自動車に移行すれば、本当にCO2は減るのかな?

それは減るでござろうよ。なにせクリーンエネルギーでござるから。

 と思うだろう? 残念ながら、電気自動車の数が現在の200万台から2億8,000万台に増えたとしても、CO2の排出量はわずか1%しか減らない、という試算があるんだよ。

そ、そんなバカな!! 納得できないでござるよ!!

 たしかにちょっと意外な予想だよね。

 でも電気自動車が売れセン、という社会になると、それを製造する競争も激化するだろう? 

 特にバッテリーの大型化によって、その製造過程では大量のCO2が発生するんだ。だから車からのCO2排出を減らせても、トータルではあまり減らない、という結論になるわけさ。

 最終商品でどんなに逃げても、製造過程で排出量が追いかけてくる、って感じかな。

 また、充電池に必要なリチウムも争奪戦になり採掘が激化するだろうから、さらに環境を破壊する可能性が高いんだよ。

グローバル・サウス問題

それでは意味がないでござるよ…

ちなみに“負荷を弱い国に押し付けることになる”とはどういうことでござるか?

 今話に出たリチウムを例にすると、その産出地は南米のアンデス山脈沿いの、乾燥した地域が多いんだ。

 リチウムの採掘というのは、そんな地域の地下水を1秒につき1,700リットルもくみ上げて蒸発させ、それを取り出すという工程が必要なんだよ。 

た、たった1秒で1,700リットルでござるか!?

 そう。そしてこのような大量の地下水のくみ上げは、地域の生態系に大きな影響を与えるのさ。

 事実、くみ上げた水の中で生息しているエビを餌にしているアンデス・フラミンゴの個体数が減少したり、それこそ地域住民の飲料水が不足する、といった現象を生み出しているんだよ。

アンデスの方々には迷惑な話でござるな…

 そうなんだ。要するに先進国の気候変動対策のために、立場の弱い国の資源が激しく採掘・収奪されて、その環境をも破壊しているのさ。少しわかりやすく例えるとこんな感じだよ。

タケシ! なんだい、この汚い部屋は!! 母ちゃんが買い物から帰るまでに、きれいに片づけときな!!

ま、まずい! どうしよう…そうだ、のび太を呼ぼう!

いきなり呼び出したりしてどうしたの? ジャイアン?

おう心の友よ。いまからオレの部屋をきれいに掃除してくれ。

え? なんでボクが? 自分でやりなよ。

ほう…このオレがこんなに頼んでいるのに…? ホウ、フ~ン…

なんでボクがこんな目に…はい、きれいになったよ。でもゴミをまとめたこのゴミ袋は、自分で捨ててよね。

それはお前の家に持って帰ってくれ。

ええ~~~っ、そんな~~~っ!!

ただいま。タケシ、きちんと掃除したかい?

母ちゃん、見てくれよ。こんなにピカピカだよ。

お前もやればできるじゃないかい!

………………

どうだい、マロ? イメージはつかめたかな?

これはひどいでござるよ!!

これでは都合の悪い部分が全部、のび太くんに押し付けられているだけでござるよ!

 だろう? これがさっき言った“負荷を弱い国に押し付けることになる”という意味さ。

 そして似たような事例は、他の資源採掘や農業、アパレルといった生産分野でも起きているんだよ。

 このような形で先進国だけが数字上の結果で

CO2削減目標を達成しました!!

なんて高らかに宣言されても、なんだかな~って感じだろう? だってそれは立場の弱い国に、都合の悪い部分を転嫁しているだけなんだからさ。

 このような被害を受ける領域や住民のことを、“グローバル・サウス”と呼ぶらしいんだけどね。つまり先進国の裕福さというものは、このような弱い立場の国や人々の犠牲のもとに成り立っている、ともいえるんだよ。

何やら申し訳ないし、ゴミを見えない部分に隠しただけ、という印象が強いでござるな…

 上手いこと言うね、マロ。グローバル・サウスとは、まったくもってその通りなんだよ。

 だから斎藤氏は、本当に実のある気候変動対策というのは、このような理不尽な転嫁のない、平等で公正な対策でないと意味がないと言っているんだ。

 そしてSDGsではまだまだこのような“抜け道”ができてしまうし、そんな結果が続く以上、SDGsでは環境破壊や気候変動は止められない、という結論に至るわけだ。

先進国にも間近に迫る負荷

 そして見えない場所にゴミを隠し続けても、そこがいっぱいになれば、きれいなフロアにゴミがあふれてくるのは当たり前だよね?

 そしてそれは、グローバル・サウスに押し付けていた負荷を、とうとう先進国自身が被らなければいけない日が目前に迫っていることを意味しているんだよ。

 その結果、地球は破滅へと向かい続ける、ということなのさ。

これは…困ったでござるよ…

 困ったなあ。おっと、波止場に着いたぞ。ここで少し休憩しようか。この続きは帰りの道中で話そうよ。

 じゃあ飲み物でも買ってくるから、ここでちょっと待っててくれないかな。(次回に続く

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