『3年B組金八先生』シリーズの最高傑作といわれる“第2シーズン”。
その大きな要因となったのが、加藤優という強烈なキャラクターでした。
嵐のように現れた存在感抜群の生徒役(直江喜一)に対し、主役の金八先生こと武田鉄矢も真っ向勝負で彼に相対します。
武田鉄矢とのガチンコ勝負
前回述べたように、完全に生徒サイドの中心人物となった加藤優(直江喜一)に対し、金八先生も負けてはいられません。
相手が“大人に裏切られた経験”があり、“大人を信用できない”と頑なに心を閉ざしているのならば、それを凌駕するほどの“お節介”と“正直で真摯な対話”で対抗します。
それはまさに金八と加藤の個性のぶつかり合いであり、ひいては武田鉄矢と直江喜一のガチンコ演技対決の様相を呈していました。

そしてさすがは武田鉄矢、圧倒的な個性と話術、さらに年の功ともいえる人間的な魅力で坂本金八を操り、直江の演ずる加藤の勢いを巧みに捌き、取り込んでいきます。
その姿はまさに、猛進する雄牛を華麗に捌くマタドールといったところでしょうか。
事実、金八先生は要所要所で加藤の突き上げを見事に包み込み、そのキャラの魅力を増すことに成功しています。

こう書くと武田鉄矢のしたたかさを強調してしまいますが、個人的にはそうは感じてはいません。
というのも、この金八先生と加藤優のぶつかり合いが化学変化を生み、相乗効果で両者のキャラクターの深みが増したと思うからです。“win-win”の関係性といってもいいかもしれません。
そしてそれは視聴者のドラマへの感情移入をより促す結果となり、この“第2シーズン”が“シリーズ最高傑作”と評価される大きな要因となったと思われます。
ですので、その一翼を担った加藤優の坂本金八へのガチンコ勝負は、結果として大きな成果を生み出すことになったわけです。
伝説となったクライマックスシーン
そして加藤優というキャラクターの強烈さが決定的となったのが、シーズン終盤でのクライマックスである『卒業式前の暴力』という物語です。

ストーリーを簡単に説明すると
- 前の中学(荒谷二中)時代の不良仲間が、元番長の加藤に卒業式のボイコットを手伝って欲しいと頼みにくる
- 理由は教師の自分たちに対する理不尽な扱いに抗議したいからである
- 金八先生とクラスメートとの交流で更生しかかっていた自分の立場を捨てるのは惜しいと葛藤しつつも、旧友との仁義を取ってそれに参加する加藤
- 加藤の立会人として、中立的立場で同行する松浦
- 荒谷二中の職員室に乗り込み、校長や生活指導教師を放送室に軟禁する加藤
- 校内放送をONにし、話し合いを開始する加藤
- 話し合いで感情が昂り、自分たちや親に対する理不尽な言動を謝罪しろと迫る加藤
- 校長が校内放送を通じて謝罪
- 大歓声で湧き上がる校内
- その瞬間待機していた大勢の警官が校内になだれ込み、事件に関わった不良を次々と逮捕していく
- 抵抗する素振りも見せず、なされるがままに手錠をかけられる加藤
- 護送車で警察に連行される加藤と松浦
- その護送車を必死に追いかけるも、息が続かず泣き崩れる加藤の母親
- 教育委員会やPTA、民生委員の尽力で釈放される加藤と松浦
- 金八先生に強烈なビンタを食らうも、抱きしめられる加藤と松浦
というような流れです。すごいでしょ? 若干荒唐無稽ですけど(笑)。
ただこの一連の物語の、彼の演技の迫力がものすごいんですよ。

“腐ったミカン”と色眼鏡で判断され、鼻つまみ者扱いされ、虐げられ、自尊心を傷つけられたという理不尽さ、そしてそれに対して納得できないという苛立ちを、見事なまでに演じ切ります。
そして逆に自分と真正面から真摯に向き合ってくれた金八先生を引き合いに出し、

教師とは本来、こうあるべきではなかったのか?
と問題提起を行い、自分を切り捨てた教師たちにその回答を迫るわけです。
暴力的な手法を伴った話し合いという選択肢は、けして褒められたものではありません。しかしながら、加藤の主張はいちいち筋が通っているんです。
そして心が震えるほどの迫真の演技は、彼の主張に対する説得力を、強烈なまでに後押ししているんですね。
ですので観ているこちらは痛快だし、その緊張感で背中がヒリヒリしっぱなしなんですよ(苦笑)。
そしてこんなに迫力のある臨場感を生み出した直江喜一は、この時点で加藤優というキャラクターをさらなる高みに押し上げたと思います。

もう一つ、加藤優というキャラクターが伝説と化したのは、押し入った警察に逮捕されるシーンがあまりにも印象的だったからでしょう。
校長から謝罪を引き出した加藤は、本懐を遂げた達成感からか、まるで抵抗する素振りもなく逮捕され、護送車に連行されます。

その一連の流れにおける彼の表情がまた、鳥肌が立つくらいに素晴らしいんですよ。それは目的を遂げた直後の、まさに抜け殻のような表情でした。
ただ“抜け殻”と言いつつも、それは目的を成し遂げた満足感と、犯した罪に対する罰を受けるための、静かな覚悟が入り混じったような、微妙で繊細な表情だったのです。
そんな細やかな心理描写を、彼は全身の脱力感と目線の演技だけで表現し、視聴者に強烈なインパクトを残しました。

また、彼ら不良軍団を逮捕する大立ち回り、そして護送車が走り出すまでの流れをスローモーションで表現し、そのバックに中島みゆきの『世情』をあてがった演出も、このシーンを視聴者の心により深く刻み込ませた一因と言えるでしょう。
これのおかげで『世情』が流れると、脳内にあのシーンが自動的に再生されるような体になってしまいましたからね(苦笑)。刷り込みという現象は恐ろしいものです。
そして事件の中心となった加藤と松浦が警察から釈放され、金八先生の下に戻ってくるシーンも、涙なくしては見ることができない名シーンとなっております。
この時加藤と松浦は、金八先生から一発ずつビンタを食らうのですが、これがハンパなく強烈だったんですよ。

おそらく私が今まで見てきたドラマの中では、群を抜いて強烈な一撃だったと思います。
そのあまりの激しさに、横にいたエキストラの不良役の役者さんが、素で驚愕していましたから(苦笑)。

ちょっ、ちょっと武田さん、マジですか!?
みたいな(笑)。
ただその直後、金八先生は加藤と松浦の二人を両手でがっしりと手繰り寄せ抱擁すると

お前たちはオレの生徒だ
と、噛みしめるように言い渡します。
この一言で加藤と松浦の二人は、堰を切ったように泣きじゃくるんですよ。もうね、ここで私も涙腺の堤防が決壊です(笑)。
しかもこのタイミングで主題歌である『人として』のイントロが流れ出すんですよ。あかん、これはあかんて(苦笑)。

恥ずかしながら私、自身の卒業式やその他感傷的なイベントごとでは、ほぼ泣かないんですよ。冷血・冷酷・冷徹の悪魔超人のごとく(笑)。
でもこのシーンだけはダメですね。何度観ても泣けます。何なんでしょうね、これ(笑)。
そしてこんな時でも坂本金八が、キャラクターとして加藤優を上から包み込んでくるんですね。
一連の流れで強烈なインパクトを残した加藤の存在感を、さらに上回るかのようなビンタ。そして力強く暖かい抱擁。ものすごい迫力と人間力です。
ここでも直江喜一に一歩も引かない武田鉄矢の、役者としての意地とすさまじさ垣間見ることができます。
トリを務めた卒業式
シーズン最大の山場を終え、物語はエンディングである卒業式を迎えます。
ここで卒業生代表として答辞を読んだのは、加藤優でした。

しかしながら、答辞というものは学年トップの優等生か、生徒会長が行うと相場が決まっています。
それを敢えて外し、武闘派の頭領にそれをやらせるというギャップが、なんともドラマチックでした。
もちろんここまでのインパクトと物語の貢献度からすれば、当然の人選と言えるかもしれません。
逆に言うと

彼以外の適任者はいない
と視聴者を納得させるだけのものを、彼が劇中で積み上げたことを象徴しているとも言えます。
そしてその答辞のシーンもまさに“加藤流”でした。
彼は巻物のように折りたたまれた原稿などは一切使わず、自分の現在の思いを、アドリブで語るという手法を取ります。

つまり予定調和ではない、リアルな感情をそのまま式に参加している人たちにぶつけたわけです。
その内容は
- 大人を信じられず尖っていた自分を全力で解きほぐしてくれた恩師
- グレていた自分を受け入れてくれたクラスメート
に対し、深い尊敬と感謝の意を述べたものでした。言葉は荒いですけど(笑)。
さらにこのような頼れる大人や仲間が存在することを誇りに思い、

勝手に拗ねるな!
と在校生徒に力強く伝えることで、この答辞は終了します。
そして発する一言一言に全身全霊を傾けていることがよくわかるこの演説は、シリーズのトリとして十分なくらい、視聴者の心に響いたと思われます。
おわりに
以上、“腐ったミカン”の加藤優と、『3年B組金八先生 第2シーズン』における思い出でした。
ちょっと熱くなりすぎちゃったかな(苦笑)? でもそれくらい感動的で、面白いドラマなんですよ。書いていてまたウルウルしてきた(笑)。
もちろん荒唐無稽なストーリーであることは間違いないし、演出もクサイです。

んなわけあるか!
というツッコミ所も多数存在します。

しかしそんな枝葉末節な部分ではなく、ぜひ制作者サイドが表現したかった、物語の本質を読み取ってほしいんですよね。
今思うに『3年B組金八先生 第2シーズン』という作品は、各キャラクターがそれぞれの立場で旅立つ、社会への距離の違いをクローズアップした作品だったのではないかと感じています。
というのも加藤優というキャラクターは、3Bの生徒の中では限りなく大人のステージに近づいていたキャラクターでした。
それに対して他の生徒は、社会に出るまでにまだ数年のモラトリアムがある。ゆえにまだまだ親の庇護の元、甘えた生活ができるわけです。
しかし加藤にはそんな時間はなく、厳しい社会と現実が目の前に迫っていたし、彼もそれを望んでいました。

よって彼はクラスメートの中では早熟すぎるほどに大人だった。というか、彼の置かれている環境がそうさせた。
そんな大人びた彼を見て、ある者は恐れ、ある者は生き方に憧れ、ある者は頼りがいを感じたわけです。
そしてそのひとつひとつのリアクションこそが、この物語にとても深い人物描写を与えることになり、ドラマを高次元で成立させていたように感じるのです。
また、金八先生は大人への距離感を異にする生徒たちに対し、可能な限りの社会知識を生徒ごとに調合して処方し、それでも彼らがつまずいた場合は力強く手を差し伸べた。
『3年B組金八先生 第2シーズン』とは、まさにそのような物語だったと思うのですが、皆様いかがでしょうか。
その後の加藤優
『3年B組金八先生』で大ブレイクをはたした直江氏は、その後役者を辞めて建設会社に就職し、ご活躍されていたそうです。
ただ『金八先生同窓会スペシャル』的な特番ドラマには、たいていご出演されていましたね。やはり彼が登場すると、ドラマの盛り上がりが違うんですよ。
そして近年また役者活動を再開されたようで、直近(2021年)では『おいしい給食』に出演されていました。
そう、私が近年で一番推しているドラマ『おいしい給食』です(笑)。
そこでは主人公である市原隼人扮する甘利田を追い落とそうとする、教育委員会の一委員を演じています。
反権威のヒーローとして一世を風靡した役者が、今度は権威の権化的な立ち位置を演ずるところに、直江氏の役者人生の面白さを感じてしまいますね。
おそらくこの配役は『おいしい給食』のスタッフが『3年B組金八先生』を、そして加藤優をリスペクトしており、わざとギャップを求めて彼にオファーしたのではないかと、個人的には勘ぐっております(笑)。
そして今後も直江氏のご活躍を願ってやみません。それではまた。

コメント
就職先の社長がまた厳しくも温かい目で見守ってくれる人格者で、桜中学転校後の加藤は立派な大人との出会いに恵まれて人生好転しましたね。
金八が後の妻アマゾネス先生と距離を縮めるきっかけになったのが、加藤を説得するためのスナックZ同行でした。加藤は結果的に金八の恋のキューピッドになったわけで、意図せず大きな恩返しをしたことになります。
ワタルさん、こんにちは。
墨東工業の社長さんですよね。今の若い人にとってはとっつきづらい感じかもしれませんが(苦笑)、昭和的な面倒見の良い人情家です。
アマゾネスとの恋の橋渡し、という見方は気づきませんでした。たしかに加藤がいなければ二人の結婚はなかったかもしれないし、乙女や幸作も存在しなかったかもしれませんね。