メルセデスの秘蔵っ子、両手から初優勝がこぼれ落ちる。

オレ流F1
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 メルセデスF1の絶対王者、ルイス・ハミルトンの欠場により、その代役に俄然注目があつまったF1サクヒールGP。結局メルセデスは現在ウィリアムズにレンタルしているジョージ・ラッセルをそのシートに抜擢しました。

 ジョージ・ラッセルは“メルセデスの秘蔵っ子”と言われている逸材で、ジュニアカテゴリー時代から傑出した才能を披露してきたドライバーです。その将来性をかわれて2016シーズンよりメルセデスのジュニア・ドライバー・プログラムに参加し、将来のメルセデスF1ドライバー候補とみなされていました。

▲あっという間にジュニアカテゴリーを駆け抜けます。

 F1デビューは昨年の2019年で、メルセデスがパワーユニットを供給しているウィリアムズからそのF1キャリアを開始しました。しかしながら現在のウィリアムズはサーキットで一番遅いマシンといってもよく、常に最下位付近を争うチームと化しており、輝かしい経歴を持つラッセルにとってはなんともストレスのたまるレースが続いていました。

 その彼が、とうとう最終到達点としていたメルセデスF1に乗り込むことになったのです。最速マシンを前にし、秘蔵っ子がその真の実力を開花させるのか、それともやはり王者・ハミルトンや、相方のボッタスと比べると一枚落ちるのか。その真価が問われるレースとなったのです。

 ではここでジョージ・ラッセルの非凡な才能を列挙してみましょう。

  1. GP3シリーズ年間チャンピオン(2017)
  2. F2シリーズ年間チャンピオン(2018)
  3. F1予選、チームメイトに対して36連勝負けなし
  4. 圧倒的に戦闘力が劣るマシンで何度となく予選Q2進出
  5. ミスが少なく、完走能力が高い

こんな感じです。1、2は下位カテゴリーの実績ですが、ぶっちゃけ敵なしです。1年単位でポンポンポ~ンと飛ぶように通過していきました。もちろん簡単なことではないので、圧倒的な素質と能力、そして勝負どころできちんと勝つ勝負強さを兼ね合わせていることになります。

 3もすごいです。2019シーズンで21連勝、2020シーズンで15連勝、合計36連勝ということなのですが、速さの本質が問われる予選において、チームメイトをここまで圧倒するなんて、ただ者ではないです。マシンの性能は同じですからね。どんなレイアウトのサーキットでも「オレの方が速い」を実践してきたことになります。

▲予選でチームメイトに負けなしです。

 4、5はラッセルが一発の速さと、クレバーなレースクラフトを併せ持っていることを示しています。レーサーとしてバランスがいいんですね。これを持って彼はたとえ下位に沈んでいたとしても、関係者からはドライバーとして高い評価を受けてきました。

 どうですか。“メルセデスの秘蔵っ子”というキャッチフレーズも伊達じゃないでしょう。そんな彼がとうとう手にした最速マシン、その結果は…なかなかにドラマチックでした。結論を言うと、9割がた手にしていた初優勝を、自分に落ち度がないミスで取りこぼした形となってしまいました。時系列を追って解説しますね。

ベテランチームメイトにわずか0.026秒差で予選2位

 これすごいです。惜しくも相方のボッタスに負けましたが、相手はマシンを知り尽くしているベテランです。それに対してラッセルは操作方法も感覚もまるで異なるマシンに急に飛び乗り、しかも窮屈なシートに無理やり身体を押し込んで0.026秒差(限りなく同着)ですから。

 これによってラッセルの予選における対チームメイトリザルトは36連勝でストップしましたが、だから何? って感じですよね(苦笑)。そんなことよりも、彼の才能と適応能力の高さをあふれんばかりに証明した結果となりました。

▲あっさりとマシンにアジャストしました。

 負けたとはいえフロントロースタートですからね。立派です。もちろん自身最高位グリッドでのスタートとなります。

レースで見事なスタートを決め、トップに躍り出る

 これも見事でしたね。ポールポジションからスタートしたボッタスが、スタートをミスったのを見逃さす、見事トップに躍り出ました。

 このスタートも落ち着いたもので、ベテランのボッタスの方が焦ってバタバタしていた感じです。もうどっちがエースドライバーだよ、って感じでした(苦笑)。

ミスのないレースクラフトで、危なげなくレースを支配

 トップに出てからも、落ち着いた走りでレースを組み立て、中盤過ぎまで危なげない走りをしていました。ミスが少ないという彼の特性が存分に光った感じです。このあたりから彼の初優勝が現実味を帯びてきました。いやホント、見事なレース運びだったんですよ。ソツがないんだよなあ。

タイヤ交換時に相方ボッタスのタイヤを間違って装着される

 ここでドラマが起きてしまいました。タイヤ交換時に、クルーが間違えてボッタスのタイヤをラッセルに装着してしまったんです。そしてそのまま送り出してしまいました。

 これは重大なルール違反となるので、ラッセルは1周走ったら正しいタイヤを装着するために、もう一度ピットインしなければならなくなりました。およそ昨今のメルセデスではありえないような凡ミスが、こんな大事なときに起きたことになります。

▲このタイヤ交換をしなければ…楽勝だった?

 そもそも論ですが、実はここでタイヤ交換なんてしなくてよかったんですよ。しなくたってタイヤは十分もったはずです。ただセーフティカーが入り、タイムロスなくタイヤ交換ができるタイミングだったため、安全策をとってタイヤを交換したんですが…それが命取りでした。交換してなければたぶん優勝していたと思いますね。

翌周にまたタイヤ交換(およそ23秒のタイムロス)、5番手まで落ちる

 前述した通り、ルール違反を解消すべく、余計なピットインをもう一度行い、正しいタイヤに履き替えました。ただし、これで23秒もタイムロスが発生し、ラッセルは5位まで順位を落とします。ここまでかな…と思ったのですが、彼はここから恐ろしいリカバリーを開始しました。

ボッタスを見事にオーバーテイクし、怒涛の追い上げで2位まで浮上

 優勝がこぼれ落ちかけたラッセルですが、まだレースを諦めず、怒涛の追い上げをみせます。ボッタス、ストロール、オコンに対してオーバーテイクショーを行い、あっという間に2位まで復帰。「これは…自力でトップに復活するかも」という期待を抱かせる走りでした。

▲この直後、見事にボッタス(77番)を抜き去ります。

 特にチームメイトのボッタスを抜き去ったのは見事で、これによってボッタスは完全に面目を失った形になりました。もう若手にけちょんけちょんにされたという感じです。

しかしタイヤがパンクし、再びタイヤ交換

 ところがレースの神様はどうしても彼に試練を与えたいらしく、怒涛の追い上げをみせるラッセルにパンクが発生。4回目のピットインを余儀なくさせます。これにより15位まで順位を落としたラッセル、しかもレースは終盤。本当に可哀想でした。

15位まで落ちるも、鬼気迫る追い上げで9位入賞フィニッシュ

 それでも彼は鬼気迫る追い上げをみせ、レース終盤だけで5台をオーバーテイク。見事にポイントフィニッシュとなる9位でチェッカーを切りました。

 実は彼はこれまで入賞となる10位以上でフィニッシュしたことはなかったんです。ですので、本当にポイントフィニッシュを渇望していたんです。その望みを見事に得ることはできたのですが…なんか素直に喜べないポイントフィニッシュとなってしまいました。逃した魚はもっともっとでかかったですからね…。

 以上、ドラマチックすぎるレース展開の解説でした。いやほんと、中盤から終盤にかけてはジェットコースターのようなレース展開でしたね。ラッセルは2回ほど優勝をつかみかけたんだけど、その度に勝利の女神はその手からすり抜けていってしまうという、なんともせつない展開となってしまいました。

 それでも今回のレースでわかったことがたくさんあります。

  • ラッセルは正真正銘の秘蔵っ子だった
  • 最速マシンを手にしても、十分に実力を発揮できる逸材だった
  • ハミルトン、ボッタスに引けを取らない力量を持っていた
  • 下手したらボッタスよりも優れていた(苦笑)
  • メルセデスのドライバーは数年後も安泰であることがわかった

こんな感じです。いやはや、すごかったです。こりゃ来年ボッタス、シートがあぶねえぞ(苦笑)。

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