環境を破壊するのは“資本主義”
資本主義システムは環境対策の“足かせ”
よし、一息ついたかな、マロ? じゃあ研究所に戻ろうか。

…“しょちょー”、こんなに国や企業が環境対策を考えているというのに、どうしてうまく結果に結びつかないのでござるのかな…?
本当にそうだよね。でも斎藤氏はこれについて、その根本的原因をハッキリと述べているんだ。それが
というものなんだ。

資本主義システムありき…? ちょっと何を言っているのかわからないでござるよ。
う~ん、そうだな。すごく簡単に言うと、成長と消費ありきの現行システム(資本主義)と、持続可能な環境維持は両立できない、という意見なんだよ。

え? え? でも資本主義は世の大前提だから、これをなくすというのは不可能でござるよ!
まあたしかにそう思うよね。でも環境対策でしっかりとした結果を出すためには、資本主義システム自体を変革しないと無理だ、というのが斎藤氏の意見なんだ。
要は“資本主義システム自体が効果的な気候変動対策の大きな足かせとなっている”、ということさ。
希少価値を作る企業とそれに踊らされる消費者

な、なぜ資本主義システム自体が効果的な気候変動対策の大きな足かせとなっているのでござるか!?
それはね…資本主義は成長し続けないと、社会を維持できないシステムだからなんだよ。そのために企業は人工的に価値を作り出し、我々もその作られた価値に踊らされて消費をすることで社会を維持しているのさ。
例えばさっき話した電気自動車だって、それが一般的な移動手段になれば、各自動車メーカーの競争になるわけだ。それは同時に自動車メーカーが成長し続けなければならないことを意味するよね。

でもそれが資本主義の基本だから仕方ないでござるよ。
その通りだね。でもそれを許していると、企業は売上増大と利益確保のために、またもや立場の弱い国から資源や労働力を奪い取る可能性が高くなるよね?
そして生き残るため、成長し続けるために生産活動を止めることができないから、結果環境破壊は止まらないわけだ。
もちろん、同時に環境保護政策を行っていくのだろうけど、プラス部分とマイナス部分の差が少なすぎて、結果その改善の歩幅がとても小さいんだよ。
これを貯金に例えるとこんな感じさ。

9/25:今日は給料日だ。今月から毎月1万円、貯金するぞ! 目標は1年後に12万円の貯金だ!!

10/11:限定のフィギュアが発売された! ど~しても欲しいから、貯金から5,000円、融通しよう…

10/25:今月も1万円貯金だ!!

11/16:マジか。あのスニーカーの限定色がでたぞ…しかたない、貯金から8,000円、拝借しよう。

11/25:今月も1万円貯金だ!!

12/09:わぁ~お、『犬坂46』の複数ジャケットCDが発売だ。全部押さえたいから…しかたない、貯金から9,000円、緊急支援だ。
例えの意味はわかるよね?
これで考えると、3ヶ月で環境対策は実質どのくらい進んでいるかな?

本来は3万円貯まっている貯金が8千円しか貯まっていないでござるよ。
ただ『犬坂46』は仕方ないでござる。『犬坂46』だけは。
…そこに注目しないでくれるかな(苦笑)。ポイントは進みが遅い、ということなんだからさ。
危機はすぐそこまで来ている

でも…少しずつでも前へ進んでいるのだから、やらないよりはマシだし、いつかは目標を達成できる気がするでござるよ…
いつかはね。でもそれでは間に合わないんだよ。2100年には地球の平均気温は3.5℃上がると初めに話したよね?

拙者の考えの甘さに、呆れられた数値でござるな。
そう。そして気候変動が悪化して、自然の力で元に戻れるエリアを超えてしまう地点である『ポイント・オブ・ノーリターン』は、もうすぐそこまで迫っているんだ。

ポイント・オブ・ラバーズナイト?
TMドッグワークの曲でござるか?

無理くり間違えるんじゃないよ、マロ(苦笑)。なんでそんな古い曲知っているんだ、まったく…『ポイント・オブ・ラバーズナイト』でなくて『ポイント・オブ・ノーリターン』。
簡単に言うと、階段を転げ落ちる直前、ということかな。ジェットコースターの最初の登りが終わる直前、と表現してもいいかもね。

え!! それはまずいでござるよ!!
そう、まずいんだ。これを回避するためには、2100年までの平均気温の上昇を、産業革命前の気温と比較して1.5℃未満に抑え込む必要があるんだよ。

3.5℃上がるところを、2℃も低い1.5℃でござるか!? なかなかハードなハードルでござるよ!?
やっとマロも地球が置かれている立ち位置に気づいたようだね。ちなみに今のCO2排出ペースが続くと、2030年でその1.5℃を超えてしまうらしいんだ。

じ、じ、じ、時間がないでござる!!
そうなんだ。圧倒的に時間が足りないんだよ。だから“いつかは目標を達成できる”なんて悠長なことを言っていられないんだ。それこそ今すぐにでも、急ブレーキを踏まなければならないんだよ。
環境破壊を止めるには、脱成長しかない

で、ではいったい我々はどうすればよいのでござるか!?
…気になるかい?

意地悪しないで教えてほしいでござるよ、“しょちょー”!
わかった、わかった。それについて斎藤氏は
に社会制度をシフトするしかない、と提案しているんだ。

脱成長? ちょっと…何を言ってるのかよくわからないでござるよ…
“脱成長”とは
だろうね(苦笑)。じゃあまずは“脱成長”から説明しようか。“脱成長”とはものすごく簡単に言うと
ということかな。
さっき貯金の例を出したけど、あそこに出てくるような商品を生産しない、購入しない、ということさ。

えっ! ほんのりとつまらない世の中を感じてしまうでござるよ。
ハハハ、そうかもね。でも別に限定フィギュアや複数CDジャケットだけがダメ、と言っているわけじゃないんだ。
他にもブランド化したバッグや車など、人間が過度に希少価値をつけた商品すべてが対象かな。
要はその希少価値を作るための過度な競争、開発が資本主義システムの原理であり、それが環境破壊を止められない原因なのだから、それを抑制もしくは規制しよう、という考え方なんだよ。
そしてそれが“本当に必要なサービスだけを生産・消費しよう”という考え方なのさ。つまり

そろそろ経済成長を最重要視した社会システムをやめませんか?
というのが脱成長(脱資本主義システム)”であり、斎藤氏の提案なんだよ。

でも…成長をやめて、人々は裕福になれるのでござるか?
確かに不安だよね。ここで斎藤氏は晩年のマルクスの思想を参考にした“脱成長コミュニズム”に、その解決策を求めているんだ。

マルクス? コミュニズム?
コミュニズムとは
まあそうなるわな(苦笑)。
マルクスがどういう人で、どんな思想を持っていたのかを説明するのはなかなか難しいので、今日は省略するね。マルクスに相当頁を割いていた斎藤氏には大変申し訳ないんだけど(苦笑)。
じゃあ“コミュニズム”とは何かというと
ということを言っているんだ。

??
わからないよね(苦笑)。簡単に言うと、土地、水、電気といった、生活に直結する資源を中心に、企業や国ではなく市民がそれを管理しよう、ということさ。

それのどこに利点があるのでござるか?
これも先ほど出た“作られた希少価値(ブランド化)”を防ぐという利点があるんだ。例えば水。水って誰のものかな?

それは…誰のものでもないでござるよ。みんなのものでござる。
だよね。ところがどうだろう。水は『〇〇の天然水』とかウォーターサーバーで売られたりしているよね?
つまり企業が希少価値をつけて、みんなの資源を販売してしまっているんだ。いわゆる…資本主義システムだよ。でもこの仕組みが環境破壊を生み出す原因だったよね?

確かに…
だから水は地域ごとに共同管理をしましょうと。みんなが等しく共有できる資源として、優劣をつけないで支給するんだ。土地も同様さ。土地が私財となって以来、

家賃が高くてとても住めない…
なんて現象が起きていないかな? それが原因で、泣く泣く住む場所を追われた人は? そして土地を私財化している富裕層だけが、富を一手に集めていないだろうか。

う~む…
これもまた資本主義システムそのものだよね。地面に“希少価値”を付けて儲けているのさ。でもこれは果たして社会的に公正なのだろうか? 資本主義システムが豊かさを生み出しているといえるだろうか?
というのも、この住居費を捻出するために、人は馬車馬のように働いている現実がある。これは果たして豊かな社会と言っていいのだろうか?
逆に土地を市民が共同管理し、その価格を低く抑えられれば、人々は住環境を得るための長時間労働に縛られることはないし、その時間をもっと有意義に使えるかもしれない。
こちらの方がよっぽど人間らしい幸せを得られると思わないかい? と斎藤氏は述べているんだよ。

たしかに…法外な家賃や土地代のために振り回されるよりは…
そして電力が市民管理で非営利化されれば、電気代として支払われるお金は地元に落ちるよね。そしてその収益は地域コミュニティの活性化に利用できる。
さらには地産地消型の発電を行うことで、雇用もその地域で発生するし、それによって生活が改善すれば、市民もコミュニズムにより興味を持ち、積極的に参加するようになる。
このようなよい循環が生まれれば、地域の環境・経済・社会は相乗効果によって活性化していく。これこそがSDGsが標榜する“持続可能な経済社会”と言えないかな?

そう言われると、とても健全な仕組みのような気がするでござる。
ちょっとはコミュニズムが理解できたかな?
さらには作られた希少価値を排除した上で本来の価値を重視し、本当に必要なサービスを過度な競争なしに生産することで、環境破壊を抑制しながらも、人々は潤沢で豊かな生活を得られるのではないだろうか。
これこそがマルクスや斎藤氏が理想としている、今後変革されるべき社会システムのあり方、“脱成長コミュニズム”なんだよ。
逆にそれ以外、急速に進む気候変動を止める手立てはない、と言っているんだね。
おわりに

なるほど…では拙者たちはまず何をしなければならないのでござろうか…?
我々がやれることは、本当にいろいろあると思うんだ。環境NGOやストライキ、有機農業、etc…ただこれらはなかなかの覚悟がないと、実行が難しい面もあるよね。
だからボクが個人的に思う、誰でもできる行動というのは、
ということかな。
要は際限のない消費合戦にNOを突きつけ、本当に必要な物やサービスだけ厳選して利用する、ということさ。
みんなが本当に必要な物やサービスの、真の使用価値を見極めて、作られた希少価値に反応しなければ、おのずと企業や社会は脱成長へシフトせざるを得ないと思うからね。
そして先進国の消費者のマインドがそのように変われば、立場の弱い国に負荷を与えるなんて愚かな選択肢も少なくなっていく気がするんだよ。

なるほど! よぉ~し、拙者も今日からは飾りのない、無地の首輪に変えるでござるよ!
いや…今ある首輪をわざわざ無理して買い替える必要はないかと…お、話しているうちに一回り散歩してきちゃったな。今日の散歩はここまでだ。
まあ今話してあげたことをもっと詳しく知りたいのなら、斎藤幸平氏の書籍を読んでみるといいよ、マロ…って全然聞いてないな。だめだこりゃ(苦笑)。
今回の参考文献


次のお散歩も楽しみにしているでござるよ、“しょちょー”。それではバイワンでござる!

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