週刊少年ジャンプ論 第三章 第二節

オレ流週刊少年ジャンプ論
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注)この論文は1994年のものです。

第二節 マンガ家専属制度

 小学生の頃、『ジャンプ』を読んでいて気づいたことがあった。どのマンガにも、必ずタテ帯のスペースに「○○先生の作品が読めるのはジャンプだけ!」と書いてあるのである。

 この真の意味を理解するまでに数年かかったが、この「ジャンプだけ!」という文句がまさに“ジャンプ方式”の一部であったわけである。

 『ジャンプ』が創刊された当時、マンガ家は時間とギャランティーの折り合いがつけばどの雑誌にも執筆していた。それが当然の世界だったのである。つまりフリーな立場でマンガを描いていたのだ。

 だが『ジャンプ』はそういった売れっ子マンガ家に描いてもらうことができなかったので、新人を起用し、人気マンガ家に育てていった。ここで問題が生じるのである。

 人気マンガ家になったのはいいが、そうなると様々な誘惑というか、他雑誌からの触手が伸びてくる。いわゆる引き抜きである。

 今まで手塩に育ててきた人材を、おいしいところだけ持っていかれてしまうことは、苦労して新人中心に創刊した『ジャンプ』にとって、人一倍我慢できなかったことだったのかもしれない。

 その対策として「マンガ家専属制度」という、出版界の常識を無視した制度が登場することになったわけである。

 そこで『ジャンプ』は、『男一匹ガキ大将』で一躍人気マンガ家になり、他雑誌から声のかかっていた本宮ひろ志をテストケースにして、専属交渉をした。その契約内容は以下の通りである。

一、漫画家本宮ひろ志は、『少年ジャンプ』以外の雑誌に執筆いたしません。
一、『少年ジャンプ』編集部は、漫画家本宮ひろ志に対し、契約料として原稿料とは別途に、年額○○○○円(税込み)を支払います。
一、漫画家本宮ひろ志は、契約期間中、『少年ジャンプ』以外の雑誌と契約期間後の執筆交渉をすることはできません。

▲西村繁男、「さらばわが青春の『少年ジャンプ』」;P155

 つまり1年間なら1年間の期限を区切って契約を結び、その期間は『ジャンプ』以外の雑誌に執筆できないというものである。

 プロ野球で言うならば、フリーエージェント資格のある選手を引き留め、新たに契約金を支払うようなものである。ただ「期間後の執筆交渉すらできない」という点が、マンガ家にとっては相当厳しいものであった。

 この方針は『ジャンプ』の基本編集方針の1つとなり、今ではデビューしたての新人とも必ずこの契約をすることになっている。

 逆に言うと、この契約を交わさない限り、『ジャンプ』誌上での連載は不可能であり、言わばこの契約は『ジャンプ王国』に入国するための、パスポートとも化しているのである。

 この方針が『ジャンプ』上昇の原動力としてもたらした功績は2つある。

 まず1つは人気マンガ家に希少価値をつけたことである。もしどんな雑誌にも作品を掲載していたとしたら、読者はその中から好きなものを選択して読むため、それだけ読者は分散してしまう。

 しかし『ジャンプ』でしか読めないとなれば、読者は『ジャンプ』を読まざるを得ない。つまり独占の心理である。この心理により、固定読者をつかんだわけである。

 2つ目は、『ジャンプ』で育ったマンガ家が『ジャンプ』に対して牙をむかないようにするための、防護壁としての役割である。

 寄ってくる触手を巧みにブロックし、しかもマンガ家の『ジャンプ王国』からの出国は許さない。このことで、人気マンガ家を手元に置き続けることができるのである。

 このがんじがらめとも取れる管理体制で『ジャンプ』は飛躍する。だがこの体制に問題がないわけではなかった。

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