週刊少年ジャンプ論 第四章 第二節

オレ流週刊少年ジャンプ論
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注)この論文は1994年のものです。

第二節 普通の人が持つ、すごい力 ~キャラクター分析~

 さて、次にマンガに登場するキャラクターについての分析をしてみようと思う。キャラクターはアンケートハガキのときにも書いたように、『ジャンプ』マンガの中では非常に重要な要素となる。「マンガはキャラクターが命」と口を揃えて言うマンガ家や編集者は少なくない。

 では『ジャンプ』におけるキャラクターとは、いかなる設定・性格のものなのであろうか。

表14 『ジャンプ』マンガキャラクターの性別・年齢( )は%

▲『ジャンプ』1990~1994より作成

 表14は、最近5年間の124タイトルにおける主要キャラクター(主人公・ヒロインなど)を、性別(オス・メス含む)と年齢(推定含む)で分類したものである。

 一目すればわかるように、「男」のキャラクターが8割と、圧倒的に多い。「女」の主人公もいるにはいるが、たいていパートナーとなる男の主人公が存在し、立場的にはそのマンガの「ヒロイン」であり、「女」そのものが主人公であることは滅多にない。

 「不明」にはオカマやロボット、悪魔などといった、いわばマンガにしやすいキャラクターがいるが、数値的に少ない(3.3%)ことを考えると、どうやら必ずしも非現実的で極端なキャラクターが好まれていたり、受けていたりしているわけではないようである。

 年齢別にみると、16~20歳が4割と飛び抜けており、続いて11~15歳が2割となってる。つまりキャラクターの6割以上が10代の少年・少女なのである。

 『ジャンプ』は広い読者層で読まれているが、やはり一番のターゲットは10代の男の子である。よってキャラクターはそれに当てはめることが多くなるのではないか。

 つまり読者と同年代、同性のキャラクターで親近感を持たせ、マンガに溶け込みやすくする。マンガは読んでもらわなければ始まらないので、それは読者の目を惹きつけるための手段となるのである。

 そして親近感を持ったキャラクターがすごいことをマンガの中でやらかす。親近感、というよりそのキャラクターを友達のように思って読んでいるので、その行動が極めて衝撃的に映り、喜びや悲しみをより深く共有できるのではないだろうか。

 その他に特徴的なところは、「男」のキャラクターは全年齢層にまんべんなく存在するのに対し、「女」のキャラクターは25歳以降、誰一人として存在していない点である。悪い言い方をすると、「オバサン」は存在しないことになる。

 この理由はまず『ジャンプ』が少年誌であるということ、つまり描き手としても、思春期の読者を引き込むためには多少の色気が必要なのである。「ヒロイン=美人」という構図は、戦後マンガが起こって40年間普遍のものなのである。

 ただ、この言い方だと「オバサン=不美人」なのかとなってしまうので、弁護的に言うと、「オバサン」は少年マンガから一番離れている存在だということである。

 図24は性別と年代別にみたマンガの「好き・嫌い」である。これを見ると、男性は40代までマンガを肯定しているが、女性は40代ですでに逆転現象が生じている。

図24 年代・性別マンガ「好き・嫌い」

男性

▲毎日新聞社「読書世論調査」1990年度版より

女性

▲毎日新聞社「読書世論調査」1990年度版より

 マンガを否定している層を主役にしても、共感を得る人がいないのである。何かのきっかけで「オバサン」層が『ジャンプ』読者層とリンクすれば、「オバサン」を主役にしたマンガが出現するのではあるまいか。

表15 『ジャンプ』マンガ主要キャラクター性格分析( )の数字は%

▲『ジャンプ』1990~1994年より作成

 表15は、最近5年間の主要キャラクター151人の性格を分析したものである。ここでは性格を大きく1~6のパーソナリティに分け、かなり細かく分類をした。各パーソナリティの分類の基準は以下の通りである。

第1パーソナリティ(善・悪)

  • 善…正義的な行動をする、弱者を守る、悪意が感じられない、など。
  • 悪…ずる賢い、卑怯、卑劣、悪さばかりする、破滅的、など。

第2パーソナリティ(明・暗)

  • 明…明るい、はきはきしている、元気がいい、さわやかである、熱血的、など。
  • 暗…クール、寡黙、冷静、暗い、など。

第3パーソナリティ(美・不美)

  • 美 …(容姿的に)美しい、美少年、美女、カッコイイ、かわいい、など。
  • 不美…(容姿的に)不細工、人間離れしている、変な顔、体型、など。

第4パーソナリティ(強い・弱い・普通)

  • 強い…(体力的に)格闘が強い、ケンカが強い、一撃必殺である、など。
  • 弱い…(体力的に)貧弱、弱々しい、口だけ、空威張り、など。
  • 普通…上記2つに当てはまらないもの。

第5パーソナリティ(常識・非常識)

  • 常識…(行動が)常識的である、礼儀正しい、真面目、利口、素直、など。
  • 非常識…(行動が)常識はずれである、自信過剰、不真面目、破天荒、世間知らず、など。

第6パーソナリティ(おおらか・短気)

  • おおらか…人当たりがよい、落ち着いている、のんびりしている、など。
  • 短  気…せっかち、すぐ怒る、慌ただしい、など。

 このように分類したところ、第1~3のパーソナリティは「善」「明」「美」といった人間的に好まれる要素が圧倒的であった。

 第4パーソナリティは『ジャンプ』自身が格闘マンガが多いこともあって、「強い」が7割を占め、“ヒーローは強くなければならない”を地でいっていることがよくわかる。どうやら「弱い」キャラクターはいらないらしい。

 「普通」も4分の1を占め、格闘以外の技能で抜きんでていたり、この点においては本当に平々凡々としたキャラクターもいるということである。

 第5、第6パーソナリティはほとんど五分五分で、片寄りは見られない。つまりマンガ家はキャラクターを創るうえで、その個性づけを第4、5、6パーソナリティに大きく委ねているわけである。「善」「明」「美」というものは、もはや当たり前なのかもしれない。

 では人間的に好まれない要素を中心に見ていこうと思う。「悪」というキャラクターは18人いるが、すべて「明」に属している。つまり「悪」で「暗」という最悪のパターンは存在しない。

 「暗」は12人いるが、すべて「善」と「美」に属し、どちらかというとクールでカッコイイキャラクターとして扱われている。「不美」には必ず「明」が伴うし、「弱い」も「明」が伴う。つまり『ジャンプ』のキャラクターには何か悪い要素があったとしても、それを補う良い要素が必ず存在するのである。

 さて、『ジャンプ』で多いキャラクターを5つ挙げてみると、

  1. 善-明-美-強い-常識-おおらか  (17.2%)
  2. 善-明-美-強い-非常識-おおらか (15.9%)
  3. 善-明-美-強い-非常識-短気   (12.6%)
  4. 善-明-美-普通-常識-おおらか  (10.6%)
  5. 悪-明-不美-強い-非常識-短気  (6.6%)

※文字の色が表のマスの色と対応しています。

となる。意外なことに、①はとりえが「強い」だけの、ノーマルなタイプである。普通そうに見える人が実は「強い」という、ギャップで個性を出しているともいえる。②、③は「非常識」を売りにしたキャラクターであることがわかるが、④はあまりにも平凡である。

 以前は多くがスーパースターだった。今は才能がないものが、周囲の助けや励ましで勝ち上がっていく物語が多い。子供たちは、こういった等身大の人間に共感を覚える。(スーパーヒーローは)今は現実味がありません。

朝日新聞1991年11月3日付け

とは、『マガジン』の五十嵐編集長の弁である。どうやら読者の好みの傾向も変わってきたようである。⑤はギャグマンガの主人公に多い。実に個性のある配列をしている。

 『ジャンプ』は約7:3の割合で“ヒーロー”になりやすい「強さ」を持っているキャラクターが多い。しかしその人たちも、かなりの確率で「常識人」であり、限りなく「普通人」に近い。「普通の人が持つ、すごい力」。これが最近好まれているキャラクター像なのである。

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