激闘のキン肉星王位争奪戦が終わった後、地球は束の間の平和を謳歌していた。そんな中、両国国技館ではウルフマンの引退断髪式が行われようとしていた。
引退の理由は体力の限界。それを惜しむかつての仲間や家族たちが、次々にウルフマンの大銀杏に鋏をを入れていきます。しかしそんなセレモニーにおいても、スグルは就任したばかりの大王公務で欠席、その他の主力正義超人は、蓄積したダメージ回復のために、メディカルサスペンションカプセルにて療養中と、ややさびしい顔ぶれ。
それでも関わりのある超人たちの鋏入れは続いていき、キューブマンは「おまえに食らったあの張り手が、このキューブマンの超人レスラー人生において一番痛い技だったぜ。まだ頑丈そうな体なのに辞めてしまうのは惜しいな…」と、しんみりとした言葉をかけます。
そんな言葉を聞きながら、ウルフマンは引退に至るまでの葛藤を思い出します。「オレは14の時から超人相撲、超人レスラーと、ずっと格闘技漬けの生活を送ってきたんだ。辞めるなんて考えられねえ! 手術をしてくれ!」と、ドクターに現役生活の続行を懇願。
しかしドクターは、長年の闘いで左足は手術不能にまで悪化していること、その左足をかばうために右足にも負担がかかり、その右足も悪くなってきていることを告げ、メディカルサスペンションカプセルを使ったとしても、完治の見込みがないことをはっきりと伝えます。
そしてその医師は、今後は親方として後進を育成し、自身のような立派な超人相撲の横綱を育てればいいではないか、と諭します。この一言でウルフマンは現役を諦めました。
断髪式は進み、彼の父親や弟が鋏を入れていきます。雪の降る青森駅から、東京に旅立った別れの日。そして超人相撲で活躍していった日々を思い出すウルフマン。ミートは王子がいなくなって、ウルフマンもいなくなるなんて寂しい、日本の超人はどうするんですか、と鋏を入れ涙ながらにたずねると、「オレが絶対に強い日本の超人を育ててみせる…」と決意を口にします。
ジェロニモはまさか二度もあんたの髷を切ることになるなんてと、悪魔六騎士戦における断髪エピソードを語り、あなたは縁の下の力持ちだと尊敬の念をのべます。その言葉に涙するウルフマン。
断髪式は大詰めとなり、残すはカニベースと、ウルフマンを育てたコヨーテマン親方の二人に。この日のためにグローブ型の手を、再び手術でハサミ型に変えてくるほど気合いを入れ、それがウルフマンに対する敬意だと意気込むカニベース。しかし緊張のあまり、コヨーテマン親方に残すべき大銀杏をすべて切るという大失態。セレモニーを台無しにしてしまいます。
しかしコヨーテマン親方は切り取られた大銀杏をすかさず手にし、右手に鋏をとってポージング。見事なリカバリーで断髪式の有終の美を飾ることに成功します。対して失態を犯したカニベースには、カレクックやキューブマンからストンピングの嵐。
そして宇宙超人委員会からは、長年の功績を称えられ、『永世超人相撲横綱』の称号を贈られます。痛めた足をかばいながらも、立ち上がってそれを受け取るウルフマン。場内からは「日本一!!」とのかけ声が起こり、両国国技館は沸き返ります。
しかしそこで「異議ありだーっ!」と、待ったをかける声が場内にとどろきます。「日本の超人相撲では、これを“モノイイ”と言うのかな。永世横綱だと? ふざけるな。世界に全く門戸を開かない日本超人相撲協会…まさに島国根性丸出しってのはこのことだな」と、ふてぶてしい態度でやってきたのは、世界超人相撲ファイティングチャンピオンシップ10連覇を誇る、無敵のアメリカ相撲超人、ブラック・シップ。その両肩に、無残にKOされたカナディアンマンとスペシャルマンを担いでの、豪快な入場です。
ブラック・シップは「長年世界チャンプであるミーの挑戦を避けてきて、平気で永世横綱の称号を貰おうってのが気に入らねぇ。もはやそんなものは日本だけでしか通用しない、チープなロープにすぎない」と主張。それに対し、真弓は外敵との闘いに多忙を極めていたので、決して避けてきたわけではないとウルフマンをかばいます。
しかしブラック・シップは今は外敵を倒して平和になったのだから、挑戦は受けられるはずだと譲りません。そこにウルフマンは今日をもって一般人であり、それを襲うのは許さないと立ち塞がるミート。ブラック・シップはミートのマントをつまみ上げ、「面白いこと言うじゃねぇか。子供が出てくればニンマリなんでも許してしまう大人はたくさんいるが、あいにくミーは大人気ない性格でなーっ!」と、容赦のない張り手の連打を食らわします。
しかしミートもやられっぱなしではなく、平和となった超人界の秩序を守るのは王子から仰せつかったボクの役目と、その張り手をかいくぐり、ミキサー大帝を破った得意のバックドロップの体勢に。一発逆転を狙うも、ブラック・シップは体勢を返し、逆に喉輪で高々と吊り上げてからの、強烈な喉輪落とし。ミートはダウン。
邪魔者を排除したブラック・シップは、「超人相撲の世界には昔から“土俵の下には金が埋まっている”と、そう教えられてオレはこの世界にこだわり続けてきた。もうミーに名誉はいらねぇ、この10個のチャンピオンメダルと、おまえの永世横綱を賭けてひと勝負しようじゃねぇか…」とウルフマンに詰め寄り、さらに「どうした、このオレが怖いか? そんな臆病者がウルフマンなんて勇ましい名前つけてんじゃねぇ。てめぇは今日から子犬マンと改名しやがれ!」と挑発します。
これを聞いたウルフマンは、自分はどうでもいいが、友を傷つけることはどうしても許せねぇと着物を脱ぎ去り、「これだけ盛大な断髪式を…開いていただきながら申し訳ありませんが、もう一番だけ、オレに相撲をとらせてやってください!」と周りの関係者に依頼し、臨戦態勢に入ります。
これを聞いたブラック・シップは上機嫌で土俵に上がると、ウルフマンは蹲踞の姿勢に。しかしこの動きだけで痛めた左足首は悲鳴をあげます。それに気づいたジェロニモが、少しでも本来のウルフマンに近づくことができるよう、コヨーテマン親方から切り取られたばかりの大銀杏を借り、「ウルフマン先輩、大一番にはやはりこの大銀杏がないと!」と、それを土俵に投げ入れると、それは再びウルフマンに同化し、大きなパワーを彼に与えます。
ウルフマンは「ありがたいぜ、ジェロニモ。これで満座のお客さんにも完全なるウルフマン姿での、最後の大一番を見てもらえるってもんだ!」と礼を言うと、両者は立ち会いで豪快にぶつかり合います。しかしここは体格で勝るブラック・シップが優勢となり、すかさず痛めた左足首をめがけて、ローキックともいえる蹴手繰りの連打。
後退を余儀なくされたウルフマンは、土俵際右足一本でなんとか踏みとどまるも、顔面に強烈な張り手を食らいます。万事休すかと思われたが、左手でブラック・シップの前褌を取って土俵割りを防いだウルフマン。
しかしブラック・シップは攻め手をやめず、「子犬マンになったとはいえ、さすがは横綱。その粘りはほめてやる。しかしおまえもここまで」と、先ほどのミート同様、ウルフマンの喉元を鷲掴みにして軽々と吊るし上げ、「ミーはエンターテインメントの国、アメリカからやってきたんだ。この一番の決着は、ド派手につけてやるわーっ」と、喉輪落としで試合を決めにかかります。
ところがウルフマンは「ここで挫けたら日本男子の、いや…! 日本超人の名折れだーっ!」と、体を発光させて喉輪を引き剥がし、その手を軸に逆上がりの要領で回転。ブラック・シップと正対し、両手でその頭を挟み込みます。「なんだこんなもの」とそれを引き剥がそうとするも、「は…外せない!」と、予想以上の力で己の頭が固定されていることに驚愕するブラック・シップ。
するとウルフマンは「一度かかれば地獄の一丁目、超人相撲の秘技中の秘技…合掌ひねりだーっ!」と、ケガをしている左足を軸にしてブラック・シップを振り回すと、豪快に投げ捨てます。為す術もなく、頭から地面に落下し、完全にKOされるブラック・シップ。
そしてウルフマンは「大和の国の土俵の下に埋まっているのは金なんかじゃねぇ。血と汗と涙…そして闘う士たちだけが分かちあうことが出来る友情パワーだ!」と大見得を切り、その男っぷりに沸く両国国技館。ウルフマンコールがこだまします。そして土俵の中央で蹲踞の姿勢で手刀を切るウルフマンの周りには、数え切れないほどの座布団が舞っていたのでした。

ゆで先生のコロナ休筆期間を埋める読切第2弾は、ウルフマンのスピンオフです。2015年1月に、『グランドジャンプ』誌上にて掲載されました。立ち読みをした記憶があります(笑)。巻頭3ページほどカラーページで、ウルフマンとしては破格の待遇ですね。本シリーズでもなかったんじゃないかな? ウルフマンのカラーなんて。
今回はウルフマンの断髪式での一騒動を描いた物語でした。時系列的には王位争奪戦が終わった後で、平和が訪れたことになった時期ですね。その少し後に、ストロング・ザ・武道率いる完璧無量大数軍が襲いかかってくるという流れです。
そんな時期なので、主力アイドル超人軍は例のメディカルサスペンションカプセルに入って静養しているわけですね。結果、この断髪式というセレモニーにも、主力が登場しないと。公務ということで、スグルすら登場しませんからね。これは結構珍しいパターンだと思います。
ただ派手な主力級が出ていないからこそ、逆にウルフマンが目立つ格好となり、読者としては彼をより注視することができて、結果的にはよかったのかもしれません。
主力級キャラが出てこないということで、当然その絵面も派手さが少ないように感じます。ウルフマンの大銀杏に鋏を入れるキャラクターはタイルマン、カナディアンマン、スペシャルマン、キューブマン、ジェロニモといった、いわゆるB級キャラばかり(笑)。でもこれはこれで味があって、いい絵面ですけどね。
断髪式でのエピソードも悪くないですよ。まずキューブマンとのやり取りですが、両者超人オリンピックで対決しただけあって、なかなかしんみりとさせます。試合内容はバカバカしかったですけどね(苦笑)。ただ読者にとっては、試合後35年を経てのエピソードだっただけに、その時間がバカバカしさすら高尚なものにしたというか。思い出補正的な(笑)。
ジェロニモとのやり取りは、ゆで先生なかなかうまいと思いました。そうなんですよね、ウルフマンの断髪式って、今回で確かに2度目なんですよね。1度目は『黄金のマスク編』にて、スグルに命を与えるという義挙を行った後、その散り際で切っています。その時自身の髷を切ることを依頼したのが、当時初登場だったジェロニモだったんですよ。意外と忘れてました(苦笑)。
このエピソードについては「超人批評 ウルフマン」でも書かせていただいたのですが、そのときは“彼の使いどころに苦慮した作者が、見栄えよく彼を消しにかかった”という、手厳しい感想を述べています(苦笑)。でも今回の読切エピソードも、考えようによっては似たような雰囲気もあるかな、と思っています。
というのは、主力級の正義超人軍団は、全員メディカルサスペンションカプセルにて静養指示を受けているのに、彼はハッキリと医師に「キミは対象外。やっても意味ない」と拒否されているんですよ。完治する見込みのある超人だけが入れると。
その視点でいうならば、脳に損傷を受けているラーメンマンの方が、ウルフマンの左足よりよっぽど完治の見込みがないと思われるわけです。でも…彼は静養軍団入り(笑)している。ということは…うがった見方をすれば、ウルフマンはこの読切で完全にゆで先生から戦力外通告を受けた、とも取れるわけで。もう今後キミが活躍することは一切ないよ、と。
結果的に彼はこの読切から3年後に、オメガ・ケンタウリの六鎗客の一員、ルナイトを撃破するという大活躍の機会を与えられていますので、その疑いは杞憂に終わるんですけどね。でも…ちょっと差別されているような雰囲気があるのは事実なので、かわいそうではあります。まあ考えようによってはそれが彼の立ち位置らしくて、逆にいい味を出しているのですが(笑)。
断髪式で一番目立ったのは、なんとカニベースです。ここでカニベースをトリにもってくるあたりに、今回の読切における人材の少なさが如実に露呈されます(笑)。でも「断髪式→鋏」「鋏→カニベースの手」という連想ゲームが思いつくところに、ゆで先生が元々持つ、ギャグマンガ作家としてのセンスの良さを感じさせますね(笑)。「なんだっておまえが重鎮のいる場所にいやがったんだ~っ!」と、カレクックやキューブマンにしばかれまくる様が面白すぎます(笑)。実は一番の差別を受けたのは彼だったのでは…。
個人的に今回の新キャラで衝撃的だったのが、ウルフマンの親方である、コヨーテマン親方です。その出で立ちがあまりにも斬新すぎて、目を奪われました(笑)。強烈な個性を放ってますよ、彼。しかもカニベースの失態を、機転を利かせて取り繕うというファインプレーを見せ、そのただ者でない雰囲気を存分に発揮させました。
右手に鋏、左手に大銀杏を持って、涙ながらに手を上げる様は、なかなかにとっぽい、そして自己演出に長けた人物と言わざるを得ません。また、名前がウルフ(狼)にちなんだ、コヨーテ(狼の近縁)であるという、とってつけたような分りやすさであることも、お笑いの基本を抑えていていいですね(笑)。
そして今回の悪役、ブラック・シップの登場シーンですが、ここで悲惨な目にあっているのが我らがビッグ・ボンバーズの二人、カナディアンマンさんとスペシャルマンさんです(笑)。KOされたシーンすらカットされ、すでにボコボコにされた状態で、ブラック・シップのマスコットとしての登場。酷い、酷すぎる…。
当のブラック・シップも、いかにも“使い捨てたる悪役”然としていて、別の意味でいい感じ出しまくりです(笑)。名前の由来は…黒船なんでしょうね。閉鎖的な角界に、開国を迫ったアメリカという比喩なんでしょう。この名前もストレート過ぎて、身震いするほど素敵です(笑)。
ここでブラック・シップはウルフマンのことを、挑戦から逃げ続けた臆病者として「子犬マンと改名しやがれ!」と挑発しますが、このシーンは、かつてウルフマン自身がスグルに対して「ゼイ肉マンと改名しやがれ!」と挑発したシーンのセルフパロディかと思われます。言い方は悪いですが“天に唾吐く”ってやつですかね。このあたりの細かい演出も、ゆで先生のうまさが光っているなあと、感心しましたよ。
でもブラック・シップの挑戦を避けていた理由を、真弓が「外敵との闘いに多忙を極めていたので、決して避けてきたわけではない」とフォローしますが、これについては…ちょっと…と思いましたね。
いや、ウルフマンさん、スプリングマン戦以降、けっこうお暇でしたよね…? たしかアメリカでメイキャップレスラーなんてやるヒマもありましたよね…? みたいな(笑)。まあ今回は言わないでおきましょう。厳かな断髪式中ですからね。うん、空気読もう(笑)。

戦闘シーン自体はお約束の流れで、まず生贄(カナスペ、ミート)があり、友を傷つけられたことに怒る主人公がおり、古傷を攻められ大ピンチに陥り、ダメ押しの蔑みに発奮してエクストラパワーが噴出され、フェイバリットで大逆転する、というものです。こう書くと身も蓋もないですけど(苦笑)。
ただここで後のルナイト戦でのポイントとなる、火事場のクソ力的なパワーの萌芽が見られたことは、特筆すべき点かと思われます。これがスプリングマン戦でも出ていればなあと、今更ながらに悔やまれますね(笑)。あと最後の『合掌ひねり』において、引退の原因となった左足を軸に回転するという点も、彼の男気というか、意地をうまく表現していると思います。
そして最後に1ページをまるまる使っての大見得シーン。これまた歌舞伎を彷彿とさせ、相撲と歌舞伎という、日本伝統芸能の見事な融合が見られました。エドモンド本田チックとも言えますが(笑)。何にせよ、大団円で物語は終了し、ウルフマンファンにとっては最高のプレゼントとなったのではないでしょうかね。
その他気になった点は
- 断髪式の列に並ぶシルバーリキ。こういった人選って、どういう理由があるんだろう(笑)?
- その法則をゆで先生に聞いてみたいな。
- ウルフマンの羽織や浴衣に書かれた「V」は、どういう意味なのかな?
- ロシア語で狼を意味する「Volk」のVかな?
- ちなみにコヨーテマン親方の羽織は「コ」。わかりやすい(笑)。
- ウルフマンの専任ドクターは、『究極のタッグ編』でアリサを救った、あの有能ドクター。
- ウルフマンの父親は予想外のヤセ型。
- そのスーツの模様には「う」の文字。どんなセンス(笑)?
- ウルフマンの兄弟は、確認できるだけであと5人いる模様。
- まさにキン肉マンにおける左門豊作(笑)。
- そして家系的に全員黒目なしの白目。
- ハラボテ委員長の「ヒョ~ショ~ジョ~」という読み方は、デビッド・ジョーンズさん意識でしょうね。
- ものすごく昭和な感じで懐かしいけど…最近の人は知らないかな…?
- 眼球がサングラス化しているブラック・シップ。
- 髪の広がり方が、少しサタンチックなブラック・シップ。
- ブラック・シップのやられ様は、完全に『犬神家の一族』(笑)。
- まさかこれも狼、コヨーテ、犬の流れ? 考えすぎか(笑)。
こんなところでしょうか。今回もいつもの感想より疲れました(笑)。次回はカレクックだそうです。ムッサー!
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