今週のキン肉マン特別読切-超人列伝 カレクック-愛と怒りの聖人-

今週のキン肉マン
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 13億の民を抱える悠久の国インド。アジア有数の大国は、格闘技の分野においても爛熟らんじゅくの時代を迎えていた。そんなインド格闘界において、頭載格闘術マーラレスリングの修行に明け暮れる若き日のカレクックことシン。心技体ともに自信に満ちあふれたシンは、その免許皆伝を許してもらえるよう、師に願い出ます。

 しかし彼の師は、技術的には彼が頭載格闘術の全てを習得しているものの、正義超人としては技に憤怒の気があることを理由に、その願いを却下します。それに納得いかず食い下がるシン。しかしその直情径行もその現れだと指摘し、免許皆伝を許しません。

 というのも、頭載格闘術には“その心ガンジスの水面のごとくあらん“とする戒律があり、怒れば怒るほど水面は揺らぐ、つまり頭に載せた“花冠マーラ”が不安定に揺らぐということになります。つまり怒りという心理行動は、その奥義を任せられる資格がないということを、暗に指し示すことになるわけです。

 そこで師はある課題をシンに課します。それはこれから一年間、“怒り”を我慢すれば、師の頭上の“花冠”を譲り、免許皆伝を許すというもの。しかし逆に“怒り”をあらわにし、勝手にその頭に何かを載せたら、特に脳天がしびれるほどの辛さを持つ怒りの象徴ーすなわち“アレ”を頭に載せたならば、破門となる課題です。

 それを受けたシンは、修行の旅に出ます。約束の一年がもう少しで訪れようとしていたときに立ち寄った、ニューデリー西方200キロの辺境の街。ここでシンは、カレーの屋台を営むミーナという女性に心惹かれることになります。

 一目見ただけで胸を射貫かれ、その屋台の前で恋煩いから崩れ落ちるシンに対し、商品であるカレーを食べて精を付けるよう促すミーナ。しかし辛いものは苦手、という理由でその好意を丁重に断ると、チャイの施しを受けます。そんなときにやってきたのが、この地を取り仕切るイギリスの超人・ケンブリッジマン。

 神輿に乗って街を巡回するという、権勢誇示意欲が高いこの超人は、柄の悪い取り巻きを従え、横柄な態度で租税の徴収を開始。しかし当然の如く住民には反感を買っており、租税徴収の権利など時代錯誤であること、やっていることはマフィアと変わらないと抵抗します。

 これを聞いたケンブリッジマンは、大英帝国インド超人総督は長年に渡ってインドを庇護してきた、だからいくばくかの租税を徴収するのは、当然の既得権益だと主張。そしてミーナを見つけると、その美貌に興味を持ち、屋敷に来ればメイドとして雇ってやるという、上から目線の態度を取ります。

 それに対して「ふざけないで!」とその手を払いのけ、もうあなたたちには1ルピーたりとも支払わないと、毅然な態度を取るミーナ。そんな住民の抵抗を見て、「なるほど、徹底抗戦というわけか」と理解したケンブリッジマンは、上着を脱ぎ去り、実力行使にでます。

 英国伝統のキャッチ・アズ・キャッチ・キャンレスリングの秘儀を受け継いだ超人だと豪語するケンブリッジは、手始めに近くにいたアミールとタナールを二人同時にアルゼンチン・バックブリーカーの体勢に捕えると、そのままデスバレーボムの要領で地面に叩きつけます。

 そして背後からアミールとタナールの仇を討とうと襲いかかったミーナの友人であるラジャを、「思い知れ、鍛え上げられた超人の恐ろしさを」と、フィッシャーマンズスープレックスもしくはエクスプロイダーの変形のような投げ技である『キングダム・ヘイル』で強烈に叩きつけて惨殺すると、今日はこれで帰ってやると、その場から去ろうとします。

 しかしそこでシンが「待ってもらおうか」とケンブリッジマンの手をつかむと、ケンブリッジマンは痛い目に遭いたくなかったら関わるなと、凄味をきかせて忠告。それでもシンが「そうはいかんのだ!」と引かない構えを見せると、「怒っているのか、そんなヤワな体で」と意に介さないケンブリッジマン。

 シンはケンブリッジマンが発した“怒り”というワードに反応し、師が課した課題が頭をよぎります。そしてダメだ、怒ってはと、突如として自制心が働くと、先ほどの威勢がトーンダウンしてしまい、「どうしたーっ、そちらからケンカを売っておいて」と、右のパンチを浴びます。

 さらにケンブリッジマンの猛攻は続き、「なんだなんだ、オレに一発の攻撃も与えられぬ腰抜けめーっ! 無抵抗主義というわけか!」とパンチを連打すると、打たれるがままのシン。ダウンを喫し、気がつくとミーナの家で介抱されていました。そのミーナの優しさにまたもや心を奪われるシン。そして師の課した課題の期限が残り1日であることを再確認し、再び眠りにつきます。

 眠りから覚め、家に誰もいないことを不審に感じたシンは街にでます。そこではケンブリッジマンがミーナの屋台で、違法薬物である大麻が見つかったと騒ぎ立て、ミーナはカレー屋を隠れ蓑に大麻を密売していたとの嫌疑をかけられてしまいます。もちろんそれはケンブリッジマンが仕掛けた罠であり、昨日の因縁に対する嫌がらせであることは明白でした。

 ケンブリッジマンは公的自警団の免状と逮捕権を持っていることを理由に、ミーナを逮捕すると豪語し、商売仲間であるおまえたちも一蓮托生で、この市場での商売は禁じ、今後ケンブリッジマンが取り仕切ると言い放ちます。

 それを皮切りに、屋台を破壊し始める手下たち。自分の命と同じくらい大切な店を壊されていく様を見たミーナは、泣きながら絶叫し、人でなし悪魔とケンブリッジマンの胸を叩くと、逆にケンブリッジマンはミーナを平手打ちにします。

 その様子をちょうど辿り着いたシンが目にすると、「待てっ!」と怒りに打ち震えてケンブリッジマンの眼前に立ち塞がります。しかし免許皆伝まであと1日という縛りがあるため、今回も彼らの仕打ちに抵抗できないシン。棒で打ち付けられ、地面に倒れたときに目に入った物が…カレー皿に盛られた、ミーナ特製のカレーでした。

 それを見たシンは、「脳天がしびれるほどの辛さを持つ“アレ”を頭に載せたならば、おぬしは破門じゃ。“アレ”によって人並み外れた強さは生まれるが、おぬしは頭載格闘術の“道”からも外れてしまうことじゃろう」という忠告を思い出すも、「許してください、師匠! 私はこいつらが許せない!!」とそれを頭載すると、体が発光し、パワーがみなぎります。

 禁断の“花冠”を頭載したシンは、あっという間に取り巻き連中を蹴り倒し、ケンブリッジマンの元へ。「ほほう、ヤワ男よ、こないだとは見違えるような動きではないか」と、ケンブリッジマンは上着を脱ぐと、「今日は生かして帰さんーっ!」と怒濤の打撃攻撃。

 そして必殺の『キングダム・ヘイル』を仕掛けると、シンはヨガ特有の軟らかい身体能力を利用し、ケンブリッジマンのクラッチからスルリと脱出することに成功します。するとシンは頭のカレールーをむんずとつかみ、ケンブリッジマンの目に塗り込む『ガラムマサラサミング』を食らわせると、その目潰しに相手は悶絶。その隙を突いて、相手の腹を斬り裂く強烈な右ミドルキックを炸裂させます。

 そしてトドメは、槍のように鋭角に相手の腹を貫く『チャルカスティング』。先ほど食らわせた傷の位置に、寸分違わずそれを決めると、シンは大量の返り血を浴びます。そして絶命した相手の脇に、堂々と着地。そのあまりの凄惨さに、街の住民は言葉を失います。

 シンは「もう大丈夫だよ、ミーナさん」と声を掛けるも、ミーナは「こ…怖い…」と絶句。その姿を見たシンは、自分の行動が正義超人の範疇はんちゅうを超え、その守る者すらも怯えさせたことを理解します。

 そして「フフフ…頭にカレーを載せた外道“カレクック”か…悪い響きではない…」と口にし、返り血を浴びた姿で静かに街を去っていきました。残虐超人の闘いは冬の太陽の光と同じで、照らしはするが、決して暖めはしないのでした。

 ゆで先生のコロナ休筆期間を埋める読切第3弾は、カレクックのスピンオフです。2016年10月に、『グランドジャンプ』誌上にて掲載されました。これも立ち読みをした記憶があります(笑)。巻頭4ページほどカラーページで、カレクックとしては破格の待遇ですね。本シリーズでもなかったんじゃないかな? カレクックのカラーなんて。

 …すみません、前回の出だしのコピペをしてしまいました(笑)。楽だったんで…さぁ、今回のカレクックですが、どうやら彼が、どういった理由で残虐超人カレクックになったかを描いたものですね。

 話の内容はシンプルです。怒り(≒戦闘)を禁じられた主人公が、愛する者を理不尽な敵から守るために、その禁を破って成敗する話です。主人公にかせを与えて物語の起伏を作り出すところも、物語作りの王道ですね。

 では今回の枷は何かというと、頭載格闘術マーラレスリングの免許皆伝です。心技体のうち、心に難ありと、シンことカレクックは師から指摘され、免許皆伝のお預けを食らってしまうんですね。しんに難ありでシン、なんですかね? 考えすぎか(笑)。おそらくインドっぽさを一番表す名前が、シンだったからでしょう。タイガー・ジェット・シンが語源だと思いますがね。

 とにかく、カレクックに本名があったんだ、とわかっただけでもテンションがあがります。そして…頭載格闘術という、明らかに奇妙な格闘ジャンルが、さも当たり前のように存在しているとの前提で、のっけから話が進んでいくという素敵すぎるゆでワールド展開に、読者は翻弄されてしまいます(苦笑)。なんだよ、頭載格闘術って…お師匠さんは、頭にナンを載せて真面目に話しているし…これだけでギャグマンガとして成立しますよ(笑)。

 そして今回の見所の一つが、あのカレクックの恋です。けっこう簡単にドキューンとなるタイプでしたね。恋愛に免疫がなさ過ぎるというか、恋愛ウィルス対策ユルユル、みたいな(笑)。一目惚れでその場に突っ伏してしまう様も、彼の純情さをよく表しています。間違いなく結婚詐欺に引っかかるタイプですね(苦笑)。

 また、カレーがアイコンであったカレクックが、実は辛い物が苦手だった、というのも衝撃的です。これは物理的に辛さに弱いのか、頭載格闘術の戒律から、辛い物カレーがタブーということで避けているのかは定かではありません。ひょっとしたら後者かもしれませんね。

 そして今回の敵が、イギリスの超人であるケンブリッジマン。この超人のステイタスの分りやすさも、直球思考で素敵です(苦笑)。イギリスとインド、実際の歴史における植民者と被植民者との対立構造を、そのまま利用しています。このパターンはベンキマンのスピンオフでも活用されており、あのときはスペインのインカ帝国における侵略でしたね。いずれにせよ、直球で分りやすいです。

 そしてケンブリッジマンの個性づけを細かく見ていくと

  • 名前自体がイギリスの一都市
  • 貴族チックな風貌
  • 地元民に神輿を担がせる
  • 街の汚さを毛嫌いする
  • イギリスを“大英帝国”と表現する
  • “総督”という、侵略軍をイメージさせる単語を使う
  • 租税を徴収する
  • 英国伝統のレスリング、キャッチ・アズ・キャッチ・キャンを表に出す
  • フェイバリット名は『キングダム・ヘイル王国万歳

という、イギリスあるあるの徹底ぶり(笑)。レベル的には“フジマヤ、ゲイシャ、サムライ、ハラキリ”レベルです。ここまで徹底すると、イギリス政府からクレームが来そうな勢いですが、それだけに潔すぎて、逆にたまりません(笑)。

 そんな歴史的対立構造を背景に、弱者とみなされるインド勢が、高慢ちきな強者を倒すというド直球な構図。ベタながら盛り上がるパターンです。しかし今回はそのエンディングに、ちょっとした変化球を加えています。

 それは悪役を倒したヒーローに、ヒロインがなびかずにドン引きするというエンディングです。この“正義感はあるけど、ちょっとやりすぎ”という周りの反応は、ある意味とても現実的な話で、リアリティある結末ともいえます。序盤からその荒唐無稽さを大いに発揮してきた話ながらも、最後にグッとリアルな現実をねじ込むという手法は、話にピリッとしたスパイスを与える結果となっています。カレクックだけに(笑)。

 そして残虐超人カレクックが生まれる過程を、流れるように紐付けています。まずはアジャンタ師匠からの“カレーを頭に載せるな”というタブーがあり、一目惚れした女性は旨いカレー屋を経営し、その女性を救うために頭にカレーを載せるというタブーを犯し、見事敵を倒したらドン引きされるという。その結果がアウトロー行きでした、ってやつです。

 ある意味とてももの悲しい話です。あのカレクックにこんな過去があったなんて知ってから、超人オリンピックのスグル戦を読み直すと、とても感慨深いものがありますね。まさか彼も数年後、ミートから“ひとのよさそうなカッパさん”呼ばわりされるなんて、思ってもみなかったでしょうね(笑)。

 そんな彼は『オメガケンタウリの六鎗客編』において、実力№2のマリキータマンと、真っ向勝負でやり合うという大活躍を見せてくれます。このときは今回のケンブリッジマン戦での強さを存分に発揮していて、とても勇壮でかっこよかったです。

 しかしアレですね、スピンオフで読切の題材にされる超人は、みんなしてオメガケンタウリの六鎗客と闘っていますね。ウルフマン、ベンキマン、そして今回のカレクック。この法則でいくと、カナディアンマンとティーパックマンのスピンオフもあるのかな? ちょっと機は逸しちゃったけど(笑)。

 その他気になった点は

  • 練習用ダミー人形が投げられたときの擬音は“ミャッサー”。独特(笑)。
  • カレクック、鼻がないなあ(笑)。
  • アジャンタ師匠の左右に控える高弟二人の花冠が…鳥の丸焼きとケバブ(笑)。
  • 全員生ものを頭載しているんだよなあ。何日スパンで取り替えてるんだろう?
  • 向かって右側の高弟の目が怖い。左側はゴーレムマンを思わせる受け口(笑)。
  • 租税カツアゲを既得権益と自ら言い放つケンブリッジマン。もう少しオブラートに包めよな(笑)。
  • ケンブリッジマンの動きに、キャッチ・アズ・キャッチ・キャンレスリングの動きは微塵も見られません(笑)。
  • 超人相手ならまだしも、人間相手にいきるケンブリッジマン。
  • カレクックは意外と表情豊かだな。タラコ唇だけに、スグルの表情が見え隠れする。
  • ケンブリッジマンの「無抵抗主義というわけか!」というセリフに、インド独立の父・ガンジーが見え隠れする。
  • アジャンタ師匠の「アレは載せるなよ」というフリは、ダチョウ倶楽部の「押すなよ」と同義(笑)。
  • 頭に載せた途端、グツグツと煮え立つカレールー。
  • 必要以上に返り血を浴びる様が、残虐超人らしさを引き立たせる。
  • カレクックのコスチュームの腹の「印」の字は、丸ゴシック。

 こんなところですかね。次回は2週間後、「超人血盟軍、結成秘話」です。お楽しみに!

コメント

  1. あおき より:

    ティーパックマンのスピンオフ読みたいですねぇ。首を鍛える回想シーンの珍妙な連中、あれも頭載格闘術だったりして。スリランカ近いですし(笑)

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