今週のあらすじ
1981年の超人オリンピックにおいて、激闘を繰り広げたラーメンマンとブロッケンJr.。
父親を惨殺した怨敵を討たんと、遺恨試合に挑んだブロッケンJr.でしたが、結果はラーメンマン返り討ちにあい、無念の敗北。ラーメンマンはオリンピック準決勝へ駒を進めることに。ラーメンマンは

オヤジのことは忘れろ。そうすればおまえは強くなる
と言葉をかけると同時に、

この若者、父親に比肩しうる……いや、それ以上の資質か…
と、心の中でブロッケンを評価します。そして自身も試合のダメージから入院を余儀なくされることに。
超人KO病院では、ラーメンマンの脳への損傷具合を診察するために、彼を最新のMRIにかけます。しかし肝心の画像検査の段階で、それを拒否する意志に反応するかの如く、MRIは木っ端微塵に破壊されます。
そしてラーメンマンは起き上がり

西洋医学とやらでは、この私の体は治療できん!
と言い残して検査室を後にしました。
その後、ICUでも全身包帯姿のまま腕立て伏せ等のトレーニングをするラーメンマン。同部屋でそれを見ていたブロッケンが

てめぇ、オレとの闘いではオレを憐れんでワザとやられっぱなしになり…その上今度はそんな傷だらけでもウォーズマンと闘えるたぁ、どこまでオレを蔑んだら気がすむんだ
と、彼をなじります。それを聞いてラーメンマンは

憐れみ? 蔑み? さて、なんのことやら。
私は今までどんな闘いであろうと、全身全霊で闘ってきた

おまえやそのオヤジとの試合も、私は万全の準備をしてリングに立ち、そうして勝ちをおさめてきた。
むろん1週間後のウォーズマン戦も同じ。万全な準備をしてのぞむ
と、ブロッケンの勘繰りを歯牙にもかけず、黙々とトレーニングを続けます。
それを見たブロッケンは

クッ…この男がたたえる静かな笑みの正体は一体なんなんだ!?

確かにやつは来る超人オリンピック準決勝、あのソ連の不気味なロボ超人との対決が待っているんだが、血に飢えた残虐超人ならではの笑みなのか…それともほかに何か別の意味があるのか…
と、彼の真意を測りかねます。
その夜、ラーメンマンは病院を抜け出すと、ブロッケンはそれに気づき

あの野郎、あんなカラダでいったいどこに?
と不審に思い、後をつけます。ラーメンマンが向かった先は箱根付近の山麓。自身の故郷に似ている風景に癒やされ、体に力が漲ってくる感触を受けます。
そして切り立った崖の上で、激しい拳法のシャドーを開始。それをのぞき見していたブロッケンは

な…なんだっていうんだ、あの野郎。
オレとの闘いで大負傷しながら、あの凄まじい動きは!
と、怪我人とは思えない彼の動きに呆然とし、さらに動く度に負傷箇所が治癒していく様を見て驚愕します。
ラーメンマンはシャドーの最中に、崖の上に生える一本の古木に気づき、それを抜き取って胸にあてがうと、みるみるうちに肉体が回復する効果を実感します。

このちっぽけな古木が発するガスが…私の体の奥深くまでしみ込み、ブロッケンJr.戦で枯渇した超人パワーを復活させてくれるようだ

命の源ともいえるパワー、これが自然の恵みというものか
と、その不思議な能力に感心していると、体に巻いていた包帯がすべて取れ、肉体が完全に復活。

そこにいるのはブロッケンJr.だな?
と気配を察知されたブロッケンは

ケッ、見えたぜおまえの正体、やはり骨の髄からの血に飢えた悪鬼だということだ!

おめえがそうして特訓をしているのは、闘いに備えた超人レスラーとしての崇高な理念なんかじゃねえ!“史上最悪の残虐超人”としての血が騒いで仕方ないからだ!
とまくし立て、姿を現します。そして

誰も見たことがないロボ超人の血を舐めてみたい、そんな邪悪な念に駆られているだけだ

傷が癒えたんならもう一勝負といこうじゃねえか! 1回ぽっちオレを倒したくらいで、ほかのヤツの血を舐められちゃ困るんだ!
と、血気盛んな若者は懲りずにニールキックでラーメンマンに襲いかかります。
それを軽々とガードされると、ブロッケンはパンチ、キックと打撃の嵐。しかしそれもすべてさばくラーメンマン。

フフッ、甘い甘い。まだオヤジのことが忘れられないようだな

私への恨みだけで闘っている限り、おまえの攻撃は全て見切れる。
それはあくまでラーメンマン戦用の小手先だけの対策技でしかないからだ
と指摘すると、

ぬかせー!
と聞く耳を持たずハイキックを繰り出すブロッケン。
しかしラーメンマンはそれをスウェーでかわすと、強烈なローキックを叩き込み、片膝をついたブロッケンに膝蹴り、いわゆる『シャイニング・ウィザード』をたたき込みます。
そして背後からスリーパーホールドの体勢に入ると

昨日の試合、なぜ私への最後の技がキャメルクラッチだったのか?
と問います。それに対し

決まってんだろ…復讐のためだーっ!
と、背後にいるラーメンマンの顔面にナックルを打ち込もうとするブロッケンですが、その腕をつかまれ

このわからず屋がーっ!
と、一本背負いを食らってしまいます。そして

おまえはオヤジの敵を討つことに心を奪われすぎている!
ブロッケンマンはおまえにもっと大きな、大事な事を伝えているはずだ!
と指摘するラーメンマン。
それを聞いたブロッケンは、幼少期にブロッケンマンから『ベルリンの赤い雨』を指導されていたことを思い出します。そしてラーメンマンは

私が感じた…おまえの強さは見誤りであったかーっ!?
と、必殺のキャメルクラッチの体勢に。
強烈に締め上げられ、絶体絶命となったブロッケンは

森の木の葉の如くに~っ
と、両足をラーメンマンの両脇に差し入れ、倒立をして背筋力でキャメルクラッチを弾き飛ばすと、

体軽やかにーっ!
と一直線にラーメンマンを追撃。そして

腕を弓の如くに引き…流れ星の如くにふり降ろす、その壮挙をもって風擦ればーっ!

ベルリンに赤い雨が降るーっ!!
と『ベルリンの赤い雨』を発動。それを間一髪かわすラーメンマン。背後の大木がなぎ倒されます。
思わず放った父からの伝承技の威力に、自分でも驚くブロッケンJr.。

それだ! 私の目にくるいはなかった。よくぞ邪念を捨て去りオヤジの真髄を思い出したな

あれから丁度1年、あの世でおまえのオヤジ、ブロッケンマンも喜んでいるだろう
と、ブロッケンの動きを評価するラーメンマン。

あれから1年?
とブロッケンがつぶやくと、

フフ…私への復讐心に囚われすぎて、なによりも大切な日を忘れたか

そう…今日という日はかつての私の好敵手…そしておまえのオヤジ、ブロッケンマンの命日…“一周忌”ではないか
と、ラーメンマンは告げます。それを聞き

オヤジの!
と、はたと気づくブロッケン。
するとラーメンマンは近くに落ちていた直方体の岩を崖の先に立て、墓標のようにすると

私がこの山へ赴いたのは、もちろんおまえとの闘いで負った傷を癒やすためもある。しかしそれともうひとつ…
と言ったところで、ブロッケンは

オヤジの供養だ!
そのためにあんたはこの山に!
と、ラーメンマンの真意を理解し、思わず叫びます。
それを聞いたラーメンマンは

ああ…ブロッケンマンと語らうためにここに来た

来るソ連の強豪超人との闘い…あるいはこの私もブロッケンマンと同じ運命をたどるやもしれぬ。
それが超人レスラーとしての宿命…だからこそ闘いの前にこの供養はどうしてもしておきたかった

ブロッケンマンと再び逢えると思うと妙に嬉しくてな。
今日は笑みを禁じ得なかった
と、自分の気持ちを口にします。
そんなラーメンマンの本心を聞いたブロッケンは、彼の深い思いをはじめて理解し涙を流すと、ラーメンマンは傷を癒やした古木を墓前に据え、石を擦って火をおこし、その先端に点けます。それを見て

何をする、それはあんたの体の傷を治してくれる奇跡の古木ではないかーっ
と、その行動に驚くブロッケン。するとラーメンマンは

私がおまえとの闘いで傷を負ったのは運命なのだ。
そしてこの傷は何にも代えがたい勲章なのだ。かつてブロッケンマンとの闘いで負った傷と同じくな

日本ではこのような供養の儀があるという。
故人を偲び、線香というものに火をつける。ときに一陣の風が吹き、線香の火がポッと赤くなり煙が立つ。
すると人々は故人が返事をしてくれたものと思い、笑みを浮かべつつ涙する

そして…線香の火が立ち切れた時…再び人々は“別れ“に涙するのだ
と、その行動の理由を説明します。
すると古木の先端に点いた赤い灯から煙が巻き起こり、そこにブロッケンマンの姿を見たブロッケンは

オ…オヤジ!
と叫びます。それを見たラーメンマンが

火が立ち消えるまで、親子水入らずで語らうがよい
と促すと、

聞こえるかオヤジ…オレはアンタとこの目の前の男との闘いのことを、少々…誤解していたのかも知れねえな…
と、心の中で亡き父と会話をするブロッケン。
そしてラーメンマンがここで見つけた古木こそ、中国・終点山にしか生息しないといわれる、あらゆる難病・大怪我を治療する奇跡の樹…“霊命木”のたった一本生き残った亜種であった。
しかしこの時、二人はそのことを知る由もなかった。

今週の感想
ゆで先生がコロナ休筆に入ったため、その間を埋める過去作の掲載が始まりました。
この『ラーメンマンとブロッケンJr.~恩讐の彼方に~』は、ゆで先生の読切作品を収録したコミックス『キン肉マン読切傑作選2011-2014』用に、特別に書き下ろされた作品です。
ページ数が多いので、あらすじを書くだけで疲れた~(苦笑)。
しかも恥ずかしいことに私、この話をまったく覚えてなくて、まるで初見のような気分で読んでしまいました(苦笑)。いやしっかりとコミックスは購入したから、絶対に読んでいるはずなんですよ。
でもWeb上で数ページ読んでもまったく内容を思い出せず、

あれ? この話読んだことないな。
このオレとしたことが、まさかの見逃しか?
状態でした。肉フリークとしてはなんとも情けない状態で、

お前、ホントにキン肉マン好きなのかよ?
というツッコミをされても、何も言えない状態でした(笑)。
今回のスピンオフは、ブロッケンJr.が憎悪の標的としていたラーメンマンと、どのようにわかり合っていったのかの真相が描かれています。
『キン肉マン』という作品においてこの二人の関係性というのは、本ストーリーとは少し軸のずれた、言うなれば「作品内別物語」を展開していました。
しかしその物語は、断片的に見られる二人の関係性の変化を読者がつなぎ合わせ、その裏に展開された物語を想像して補完しているものだったと思います。
- ラーメンマンに憎悪するブロッケンJr.
- とうとう激突する二人
- 肉体的苦痛という罰を受けた上で、相手を返り討ちにするラーメンマン
- 病院の同部屋で静養する二人
- ウォーズマン戦において、ラーメンマンのセコンドにつくブロッケンJr.
- ウォーズマンに廃人にされたラーメンマンの世話をするブロッケンJr.
- ミスターカーメンからブロッケンJr.を救うラーメンマン
このようなシーンを見て、読者は二人の急速な師弟関係構築という物語を想像したわけです。
とはいえ、この流れがあまりにも急すぎて、やや違和感を感じたのも事実です。
正直なところ、あれだけラーメンマンを憎んでいたブロッケンJr.が、闘いが終わった後、掌を返したようにラーメンマンに傾倒していく様子というのは、リアルタイムで読んでいた小学生当時は

ちょっと急すぎるな
と感じていました。
もちろん、反目していた二人がわかり合っていくという物語は、見ていて気持ちがいいし、ワクワクする展開であったのでウェルカムだったのですが、心の底に上記のような違和感を残しつつの歓迎であったことは否めません。
そういった、心の奥底に刺さった小さなトゲを抜いてくれたのが、今回の読切だったというわけです。今までは我々読者があれやこれやと想像していた二人の別ストーリーに、ゆで先生が具体的な事実を提示してくれた、そんな感じです。
序盤からゆで先生が好きな医療シーン(笑)から始まりますが、ここで最新MRIを破壊するほど受け付けない、超人の未知数な肉体がアピールされます。
MRIが破壊される物理的メカニズムが、凡人の私にはちょっとわかりかねますが、どうやら西洋医学アレルギーが関係しているようです(笑)。
病室で腕立て伏せのトレーニングをするシーンは、コミックス8巻でも描かれていますね。無茶をするラーメンマンと、その対比としてゆっくりベッドで読書にふけっているブロッケンが、それをたしなめるという構図でした。
読書をしてリラックスする彼を見て、

ブロッケン、死闘が終わってもう気が抜けちゃったのかな?
みたいなツッコミを子ども心にしていたのですが(笑)、今回はきちんとその先も描いています。その時点では、まだブロッケンはラーメンマンを許していない感じです。
それどころか、手を抜かれたことに大きくプライドを傷つけられたと、別の怒りを持ってしまった感じですね。
このあたり、まだまだブロッケンの思慮の浅さが見て取れます。ラーメンマンはそれをスルーして、黙々と自身に課したルール通り行動。「黙して語らず」という大人の対応ですよ。
そこからブロッケンは、ラーメンマンという人物の深みを探究したくなるんですね。彼をもっと知りたい、と感じたこの時点こそ、ブロッケンの心理変化の始まりといっていいかもしれません。
そして場面は深夜の箱根付近の山へ。ここで二人の知られざる第2ラウンドが用意されたわけです。
ブロッケンは自然の力を借りつつ、凄まじい勢いで肉体を回復させていくラーメンマンを見て驚愕するも、彼のモチベーションはまだ“残虐超人としての血の騒ぎ”と言い聞かせ、彼を敵視します。
それにひきかえ、親父をも超えるポテンシャルを持つ息子にその将来性をみすえ、そのために必要な精神的成長を促すよう誘導していくラーメンマン。
ここでも両者の精神的成熟具合の差がはっきりと見て取れます。要はラーメンマンの方が数段大人なんですよね。こんなラーメンマンにはまだまだ敵うべくもないと、読者は理解するわけです。
しかしその数段レベルが上のラーメンマンが、精神的に未熟な若者のポテンシャルに高揚感を得ている様子がみられるので、それをもってブロッケンの将来性といいますか、期待値の高さというキャラクター性が増す結果となっているんですね。
そしてラーメンマンが語った

オヤジのことは忘れろ。そうすればおまえは強くなる
というキーワードについて、実際の克服法を促したのが、この非公式な第2ラウンドともいえます。
恨みに囚われて対策した攻撃はあくまで小手先であり、それに縛られていては成長はない。それを捨て去り、父親に教えられたもっと大事な事を思い出せと促すラーメンマン。
それを聞いたブロッケンが到達したムーブが、因縁技であるキャメルクラッチを克服してからの、『ベルリンの赤い雨』の発動でした。
なるほど、トラウマ技を攻略してからの、自分らしいフェイバリットへの到達。一皮むけた感を出すには、なかなかに説得力のある展開ですね。うまいと思います。
そして締めは、息子すら忘れていたオヤジの一周忌を弔うという、かつての怨敵の粋な計らい。見事ですね。大人のラーメンマン、隙がなくそつがない。
これを見ていると、スピンオフマンガ『闘将!!拉麺男』でのラーメンマンを彷彿とさせますね。大人としての精神的成熟さ、このあたりがとても似通っています。
線香として選んだ古木が霊命木の亜種という設定も、強引ながらもその後の大きな伏線となりました。
正確に言うと後付け伏線なんですけど、この手法ってけっこう斬新ですよね。後先考えないでストーリーを展開するゆで先生だからこその手法というか。あ、ホメているんですよ、一応(苦笑)。
このようないきさつがあり、ブロッケンはラーメンマンの見方を変え、彼に師事していくことになったんですね。皆さんも心の奥底に刺さった小さなトゲ、抜けましたか(笑)?
また、私は彼らがわかり合えた理由に、次のような面も貢献していると感じています。それは…病室が一緒だったことです。この話はすべて病室が一緒だったからこそ起こりえたイベントなんですね。
反目していた二人を同室にするとは、なんとセンスのない病院なんだろうと子ども心にも感じていたのですが(苦笑)、実はこれがよかったんですね。病室が一緒になることによって、彼らはお互いをより深く知ることができたわけです。
特にブロッケンJr.にとっては、その物理的事実がとても大きかったと思いますよ。親の敵の隣で就寝するなんて狂気の沙汰ですが(笑)、おかげで敵の生態をよく観察することができ、あまつさえ尾行をするチャンスすら生まれました。
その結果が現在の師弟関係、そして自身の精神的成長に繋がったわけですから、あの同室差配は天の恵みといってもよかったのではないでしょうか。
それだけに、彼らを同室にした病院関係者は、実は陰の最大功労者だったのではないでしょうか。本人はそんなこと、全く気づいていないかもしれませんがね(笑)。
その他気になった点は
- MRI破壊の責任で、あの病院の誰かの首が飛んでいると思う(苦笑)。
- 最新医療設備の、しつこいくらいの性能説明セリフ。
- ラーメンマンのレントゲン写真はレア。
- 彼らの入院時点では、まだウォーズマンがロボ超人であることはカミングアウトされてなかったような…
- いやいや、私の勘違いでしょう…そうしとこう。
- 就寝時も帽子を脱がないブロッケン。
- 窓を閉めないラーメンマン。迷惑。
- ブロッケンの尾行能力はなかなかのもの。
- 1981年のシャイニング・ウィザード。先取り過ぎる。
- ウォッチマン戦を彷彿とさせる、ラーメンマンのスリーパーホールド。
- このあたりのセルフパロディもいいスパイス。
- ベテランキャンパー並の火付け技術をもつ男・ラーメンマン。
…通常の感想よりも、時間と労力がかかりました。疲れた~(苦笑)。次回はウルフマンのお話だそうです。モストデンジャラスリレー!


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