注)この論文は1994年のものです。
第一章 出版界における『ジャンプ』
第一節 マンガの台頭
我が国日本では、「マンガ=子どもの読み物」といった固定観念が、長い間の通説になっていた。なるほど、ヒーローが必殺技を駆使して悪を倒したり、ナンセンスなギャグで下品な笑いを期待するマンガは、当然大人の読み物ではなく、現実と夢の区別がつかない、子どもの専用の情報媒体かもしれない。そうであったはずなのだ。
しかし、なぜかちまたでは溢れんばかりのマンガが存在している。これらはすべて、子どものための読み物として存在しているのであろうか。
どうも現実は違うようである。今、私は電車に乗っていると想像してもらいたい。私の前に座っている人、横に立っている人、ドア付近にいる人。3人ともマンガを読んでいるのだが、ネクタイをしているし、頭は薄くなっているし、というわけで、どうしても私の目にはこの人たちが子どもには見えず、立派な社会人に見えるのである。
くどい書き方をしてしまったが、それくらい現代日本ではマンガが幅を利かせるようになり、「マンガ=子どもの読み物」という図式が成り立たなくなっているということである。ではそれを証明する数値的なデータを見てみようと思う。
表1 マンガ雑誌の台頭
順位 | 1981年(昭和56年) | 順位 | 1991年(平成3年) | |
11 | 少年ジャンプ | 1 | 少年ジャンプ | ↑ |
15 | 少年マガジン | 11 | 少年マガジン | ↑ |
17 | 少年サンデー | 17 | ヤングマガジン | ! |
23 | 少年チャンピオン | 19 | ビッグコミックスピリッツ | ! |
27 | ビッグコミック | 22 | 少年サンデー | ↓ |
29 | YOUNG JUMP | 22 | YOUNG JUMP | ↑ |
ー | ー | 27 | モーニング | ! |
ー | ー | 29 | ビッグコミックオリジナル | ! |
▲毎日新聞社『読書世論調査』1981、1991年度版より抽出、作成
表1は1981年(昭和56年)と1991年(平成3年)における、人気週刊誌30タイトルからマンガ雑誌だけを抜粋したものである。
タイトルの後ろにある「↑」は10年間でランクが上がったもの、「↓」は下がったもの、「!」は10年の間に登場したもの示している。10年の間にタイトルの絶対数が増えているばかりか、『少年サンデー』(以下『サンデー』)以外のものは、ランクが上がっているのである。
人気週刊誌30冊中、マンガ雑誌は8冊。パーセンテージでみても26.7%と、まさに4分の1を占めているのだ。その中でも『ジャンプ』の人気は凄まじく、1986年(昭和61年)からは、必ず3位以内にランクインし続けている。
図1 過去11年間のコミックス・コミックス誌発行部数の推移
図2 過去11年間のコミックス・コミックス誌販売金額の推移
図1・2は、過去11年のコミックス、コミックス誌の発行部数と販売金額の推移をグラフで記したものである。これからも、いかにマンガが衰えることなくのび続けていたかがわかる。
発行部数では大台の20億部を超え、販売金額は5千億円を超えた。実に発行部数で約1.8倍、販売金額で2.2倍という調子である。
発行部数上昇が顕著に表れているのがコミックスと週刊のコミックス誌で、コミックスはそのジャンルの拡大や愛蔵版の増加が、コミックス誌は『ジャンプ』を中心とする少年マンガ誌の好調さや、年代別に読者を狙ったクラスマガジン方式が実を結んできたことが、この要因といえよう。
販売金額で顕著な上昇がみられるのがコミックスであり、ハードカバーの愛蔵版や復刻版といった、マンガの高級志向や、ジャンルの拡大による経済マンガ、法律マンガなどといった、書籍扱いのものが増え、単価を押し上げていることもその理由にあげられると思う。
表2は、マンガが出版物全体でどれくらいのシェアを誇っているか調べたものである。ここ5年間でコミックスは全体の1割を、コミックス誌は4分の1以上を占めるほどに成長している。全体では35.6%と、まさに3分の1をマンガが占め、日本の出版界はもはやマンガぬきには語れないところまできているのである。
『ジャンプ』に限っていえば、1992年(平成4年)では年間発行部数が約2億5千万部であり、マンガ全体の発行部数の約11.6%を、出版物全体でも約4%を占めるという怪物ぶりが証明できる。
表2 出版物全体におけるマンガのシェア(部数単位は万部)
年 | 書籍 | 雑誌 | 合計 |
コミックス |
コミックス誌 (シェア) |
マンガ合計 (シェア) |
1988 | 133,969 | 408,885 | 542,854 | 43,840 (8.1%) |
139,910 (25.8%) |
183,780 (33.8%) |
1989 | 136,648 | 430,099 | 566,747 | 47,421 (8.4%) |
140,337 (24.8%) |
187,758 (33.1%) |
1990 | 139,381 | 449,319 | 588,700 | 54,981 (9.3%) |
145,341 (24.7%) |
200,322 (34.0%) |
1991 | 140,078 | 464,766 | 604,844 | 56,603 (9.4%) |
153,900 (25.4%) |
210,503 (34.8%) |
1992 | 137,895 | 469,669 | 607,564 | 59,893 (9.9%) |
156,213 (25.7%) |
216,106 (35.6%) |
▲書籍・雑誌合計は出版ニュース社『出版データブック』より作成
コミックス・コミックス誌・マンガ合計は毎日新聞社『読書世論調査1992年度版』より抽出
描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方
週刊少年ジャンプ編集部(著)
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