注)この論文は1994年のものです。
第三節 勝つために行動する ~行動目的分析~
キャラクターを行動させないと、マンガは進行しない。ストーリーを確立させるためには、キャラクターが動かなければならない条件づけをしてやらねばならないのである。
この節では『ジャンプ』の主要キャラクターが、いかなる理由のために行動しているのかを分析してみた。
表16 キャラクターの行動目的( )は%
その結果が表16である。ここでは行動目的を8項目に分け、そのうち「外敵駆逐」「格闘」「スポーツでの勝利」「あだ討ち」「任務遂行」の5項目を“勝利行動”とし、「恋愛成就」「人助け」「その他」の3項目を“その他の行動”とした。
「外敵駆逐」と「格闘」の違いについて説明すると、「外敵駆逐」は侵略者や破壊者という、いわゆる悪役を退治するために格闘をする場合であり、「格闘」は特に恨みや抗争があるわけでなく、ただ強い奴を倒すこと、己の強さの向上を目的とした場合の格闘を表す。
やはりというか、一番多かったのが「外敵駆逐」である。その大きな理由は“わかりやすさ”であろう。「Aという奴がひどいことをした。よし、オレ(B)が正義のために懲らしめてやる」といった、「水戸黄門」ばりの勧善懲悪物語が根底に流れているのである。
ましてや読者の多くは10代か、それ以下の子どもである。それだけにわかりづらい行動よりも、“悪い奴を倒す”という単純明快なものの方が、応援しやすいという意味で読者はより主人公に感情移入できるのである。善玉と悪玉を闘わせた、一昔前のプロレス的な構図が今なお根強く残っているわけである。
この論理は他のほとんどの“勝利行動”の項目に当てはまる。「あだ討ち」にも必ず“悪い敵”が存在するし、「スポーツ」も勝つためにはライバルが“悪役”になりうるし、「任務遂行」にも必ず“邪魔をする者”が存在する。それだけに
「フフフ、まさかお前と闘うことになるとはな」
「お互いそういう星の下に生まれてきたってわけさ。恨みっこなしだ。いくぜ!」
「こいっ!」
「いやーやめてー!二人が闘うことなんてないのよーっ!」
的な「格闘」は格好いいのだが、どちらも善玉なので、子どもにとっては焦点ボケを起こしかねない。その結果、「格闘」は4タイトルと少なめなのかもしれない。
このように“わかりやすさ”は「外敵駆逐」が多いことの理由と同時に、「勝利行動」が全体の約7割を占めていることの理由にもなっている。
他に「勝利行動」が大きな割合を占めている理由に、「ジャンプ三大原則」が当てはめやすい、ということがあげられる。「勝利行動」のために行動を起こすとなると、そのためには仲間を集め(友情)、努力をするという行動が付随されることになり、友情・努力・勝利の原則が盛り込みやすくなるのである。
つまり「勝利行動」の多さは、“わかりやすさ”という読者優先主義的な観点と、“つくりやすさ”という作家都合主義的な観点という、2つの利点から生じている結果なのであろう。
「一番うれしいこと=勝利」。読者は感情移入したキャラクターが勝つことにより、うれしさを共有するのである。
描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方
週刊少年ジャンプ編集部(著)
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