週刊少年ジャンプ論 第一章 第二節

オレ流週刊少年ジャンプ論
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注)この論文は1994年のものです。

第二節 広がる年齢層 ~マンガ世代のルーツを探る~

 マンガが日本の出版界において、大きな市場になるまで成長したことは、前節で説明した通りである。ではこの成長を支え、今もなお支え続けているのは、誰なのであろうか。

 表3をみてもらいたい。これは1981年(昭和56年)と1991年(平成3年)における、『ジャンプ』の年代別の支持者数である。1981年から広範囲にわたって支持者がいることがわかるが、1991年になると、なお一層青年・中年読者数が増加しているのがわかる。

表3 『ジャンプ』における青年・中年読者層の増加

年代 1981年(人) 1991年(人) 増加率(倍)
全体の増加率 58 137 約2.4倍
16~ 34 67 約2倍
20代 17 40 約2.4倍
30代 4 15 約3.7倍
40代 1 11 11倍
50代 2 3 1.5倍

毎日新聞社『読書世論調査』1981、1991年度版より抽出、作成

 全体が2.4倍の増加であるのに比べて、30代が3.7倍、40台が11倍と、大きく増加している。つまりマンガの驚異的な出版増加の原因の一つには、それを受け取る消費者の底辺の拡大があげられるのである。「マンガ=子どもの読み物」の時代が終わりを告げ、子どもから大人まで幅広い年齢層で、それぞれにあった内容のマンガが選択できるような時代になったのである。

 逆にそれだけマンガというジャンルが、大人の鑑賞にも十分耐えうるほどに進化・発達し、映画や小説と同じような情報娯楽媒体として認められてきたともいえる。もはやマンガは子どもの独占物ではなく、青年や中年が日常的に消費する情報媒体なのである。

 大人という読者層を得て、その著しい成長を遂げたマンガであるが、大人が気兼ねなくそれを読めるようになったのは、はたしていつの時代からなのであろうか。また、現在も大人をマンガから離さない理由は、何なのであろうか。

表4 『ジャンプ』読者層の移り変わり

  16~ 20代 30代 40代 50代 60代
1991
(平成3)
68 40 15 11 3
1981
(昭和56)
34 17 4 1 2
1971
(昭和46)
12 15

▲毎日新聞社『読書世論調査』1981、1991年度版より抽出、作成

 表4は1991年(平成3年)、1981年(昭和56年)、1971年(昭和46年)の『ジャンプ』読者年齢層の移り変わりを示したものである。

 注目してもらいたいのは、昭和46年では30代以上の読者が皆無であったことに対し、昭和56年では50代までその読者年齢層を伸ばしているということである。考えてほしい。この表は10年ごとの調査結果である。対象人物も当然10年、年をとるのである。

 つまり昭和46年で20代であった人は、昭和56年では30代となり、平成3年では40代となるわけである。それぞれの時代、年代に当てはまる数値をあげると、15人、4人、11人となる。

 これは年をとってもマンガ離れを起こしていないことの証明となろう。年をとっても継続してマンガを読み続けているわけである。また、昭和46年では30代以上の読者数が皆無であることから、マンガ世代は当時の20代、現在でいうところの40代の人たちからであるということが推測できる。

 表5は、週刊マンガ雑誌の高校生への進出を表したものである。これをみると、年を追うごとに高校1年、2年、3年と、階段状にマンガ雑誌が浸透していっているのが、如実にみてとれる。

 1964年(昭和39年)に高校1年である人は昭和23年生まれであるから、昭和23年以前、以降に生まれた世代で、マンガに対する大きな断層があることがわかる。どうやらマンガ世代の発祥は、昭和23年生まれの団塊の世代のようである。

表5 週刊少年マンガ雑誌の高校生への進出

●1964年(昭39)第10回調査

高1男子

高2男子

高3男子

①高1コース ①高2コース ①蛍雪時代
②高一時代 ②高二時代 ②ラジオ講座テキスト
③週刊少年サンデー ③平凡 ③平凡
④週刊少年マガジン ④明星 ④週刊平凡
⑤平凡 ⑤週刊平凡 ⑤明星
⑥明星 ⑥高校英語研究 ⑥リーダーズダイジェスト
⑦週刊平凡 ⑦週刊明星 ⑦週刊朝日
⑧NHK英会話 ⑧週刊朝日 ⑧高3コース
⑨週刊読売スポーツ ⑨リーダーズダイジェスト ⑨週刊明星
⑩ボーイズライフ ⑩週刊ベースボール ⑩週刊ベースボール

●1965年(昭40)第11回調査

高1男子

高2男子

高3男子

①高1コース ①高二時代 ①蛍雪時代
②高一時代 ②高2コース ②ラジオ講座テキスト
③平凡 ③平凡 ③平凡パンチ
④週刊少年マガジン ④明星 ④高3コース
⑤週刊少年サンデー ⑤スクリーン ⑤明星
⑥ボーイズライフ ⑥平凡パンチ ⑥平凡
⑦明星 ⑦週刊少年サンデー ⑦スクリーン
⑧スクリーン ⑧週刊平凡 ⑧週刊平凡
⑨リーダーズダイジェスト ⑨蛍雪時代 ⑨週刊明星
⑩週刊明星 ⑩映画の友 ⑩リーダーズダイジェスト

●1966年(昭41)第12回調査

高1男子

高2男子

高3男子

①高1コース ①高2コース ①蛍雪時代
②高一時代 ②高二時代 ②ラジオ講座テキスト
③週刊少年マガジン ③週刊少年サンデー ③平凡パンチ
④週刊少年サンデー ④週刊少年マガジン ④高3コース
⑤ボーイズライフ ⑤平凡 ⑤平凡
⑥平凡 ⑥明星 ⑤週刊少年サンデー
⑦週刊少年キング ⑦平凡パンチ ⑦週刊少年マガジン
⑦明星 ⑧ボーイズライフ ⑧週刊平凡
⑨平凡パンチ ⑨週刊平凡 ⑨週刊明星
⑩初歩のラジオ ⑩週刊明星 ⑩リーダーズダイジェスト

▲毎日新聞社『読書世論調査』1985年度版より

 また、マンガ世代といわれる大人を、マンガ離れさせることなく引っ張ってきた、出版社側の努力も見逃せないであろう。

 大きな特徴といえるのが、「クラスマガジン編集」である。子どもから大人までまんべんなく読者がいるような雑誌作りは、そうそうできるものではない。そのときの年齢によって、読者の興味は変わっていくものである。それに応じるような雑誌作りをし、読者を逃さないようにしているのである。

 表6によると、マンガ雑誌は幼児期から30代以上の人々をカバーしていることがわかる。

表6 大手3社のマンガの「クラスマガジン編集」

対象 幼年 10代前半 10代後半 20代 30代以上
小学館 コロコロコミック 少年サンデー ヤングサンデー ビッグコミック
スピリッツ

ビッグコミック
スペリオール

ビッグコミック
オリジナル
集英社 Vジャンプ 少年ジャンプ ヤングジャンプ
ベヤーズクラブ
ビジネスジャンプ
スーパージャンプ
ヤンジャン30
講談社 コミックボンボン 少年マガジン ヤングマガジン コミックモーニング
コミックアフタヌーン
ミスターマガジン

▲日本文芸社『マンガと日本人』(福島章);P58より 

 年齢層の拡大の理由としては、まずジャンルの多様化があげられる。経済、法律、政治、古典、歴史と、もはやマンガで表現できないジャンルはない、といわれるくらいである。

 上記のものは、本来は活字で読むべきジャンルであったが、マンガのもつ表現能力の豊かさ、視覚的なわかりやすさがマンガ世代に受け、発達していった。

「古文を口語文に翻訳したように今度は現代の一番新しい言語であるマンガにも翻訳しようというわけです」

山本濱賜、毎日新聞1990年7月5日付け

という指摘は、その状況をうまく例えていると思う。

 また、もう一つの理由として、過去の名作といわれるマンガが復刻版として再販され、それに30~40代の大人が飛びついたことがあげられる。マンガ世代のノスタルジーをかきたてるこの戦略はヒットし(表7)、大人のマンガ読みに拍車をかけている。

 はじめのうちは、ハードカバーの豪華本形式で売り出されていたが、つい最近になり、文庫本タイプのものが主流になってきた(図3)。マンガ界にも価格破壊の波が押し寄せてきたのであろうか。

表7 主な復刻版マンガの発行部数

題名(作者名)

部数

ブラック・ジャック(手塚治虫)

287万部(全12巻)

あしたのジョー(高森朝雄・ちばてつや)

75万部(全16巻)

ベルサイユのバラ(池田理代子)

50万部(全2巻)

▲日本経済新聞1992年5月30日夕刊より作成

図3 復刻マンガの文庫版広告

▲読売新聞1994年11月5日より転載

 図4、5は、年代別のマンガ好き・嫌いと、マンガ読者層拡大の是非について調べたものである。全体でも「好き」が「嫌い」を5ポイント上回っている。

 年代別にみても、10、20、30代が「好き」と支持しており、青年・中年層に広く根付いてきていることが感じられる。40代からは大きく逆転するが、これは団塊の世代以前の人々がほとんどなので、読者層拡大のさしたる否定材料にはならないだろう。あと5年もすれば、肯定派が上回ると予測される。

図4 マンガ好き・嫌い(1991) 数字は%

▲毎日新聞1991年10月27日『読書世論調査』より

図5 マンガ読者層拡大の是非(1994)

▲読売新聞1994年11月5日『読書週間世論調査』より作成

 図5によると、「どちらかといえば」を含む「好ましい」が38%で、同じように「好ましくない」とする見方の36%をわずかに上回っている。

 これからも、マンガが一つの文化として一般的に認知され始めたことがよくわかり、広い年齢層で読むことのできる土壌が整いつつあることが感じられる。マンガ世代が社会の中心になるに従って、この傾向はますます進むと考えられる。

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