週刊少年ジャンプ論 第四章 第六節-1

オレ流週刊少年ジャンプ論
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注)この論文は1994年のものです。

第六節 流血・殴る・チラリズム ~暴力・性表現分析~

 戦後マンガは発祥以来、その「低俗さ」「荒唐無稽さ」、刺激的な「暴力シーン」「性表現」をヤリ玉にあげられ、常に弾圧の対象になってきた。

 つい最近では「有害図書論争」が起き、めくじらを立てた団体が、「有害図書追放」という規制行動に出たことが記憶に新しい。

 そこで『ジャンプ』である。日本一の発行部数を誇るということは、その影響も計り知れないはずである。その『ジャンプ』がどのくらい「暴力」「性」の表現をしているのか、分析してみた。

①暴力表現

 表19は1992~1994年の、最近3年間の『ジャンプ』マンガの「暴力表現」を集計したものである(1年に10冊ずつ、計30冊)。

表19 『ジャンプ』マンガ暴力表現分析 コマ数、( )は%

▲『ジャンプ』1992~1994より作成

 表現の規定基準は以下の通りであった。

1.残虐性・迫力の段階づけの規定

  • 大…すべての暴力行為において著しく迫力を感じさせるもの、残虐性の高いものの、攻撃される対象物が倒れるか、死に至るほどの残酷性を感じさせるもの、大量虐殺を表現するもの、基本的に大ゴマ(ページの2分の1以上)で表現されるもの、など。
  • 中…攻撃される対象物が死には至らないものの、かなりの怪我、ダメージを与えられるもの、迫力を感じさせるもの、基本的に中ゴマ(2分の1~6分の1)で表現されるもの、など。
  • 小…攻撃対象をはたく、小突く、などというようなギャグマンガ特有の行為、攻撃表現だが、残酷性を感じさせず、笑って済まされてしまうようなもの、ストーリーマンガでは上記の他に、攻撃対象物に攻撃をよけられてしまった場合、基本的に小ゴマ(8分の1以下)で表現されているもの、など。

暴力項目の規定

  • 殴る…攻撃対象に向かって、腕を基本的に使った攻撃。殴る、はたく、肘を落とす、ポカポカやりあうもの、など。
  • 蹴る…攻撃対象に向かって、脚を基本的に使った攻撃。蹴る、踏みつける、膝をぶつける、脚を払う、など。
  • 投げつける…攻撃対象を持ち上げて投げる、など。物体を投げるのは武器使用の表現とする。
  • 特殊能力…気功波、超能力、ビームなど、現実にはない攻撃。
  • 武器使用…刀、銃器など、物体を通して相手を攻撃するもの。ギャグマンガではハリセン、札束などもこの中に入る。
  • 物体破壊…人為的攻撃により物体が破壊された表現。その破壊力の大きさから大・中・小の段階分類をする。
  • 爆破・地形変形特殊能力、爆弾など、人為的な攻撃によって爆発が生じたもの。またそれによって地面がえぐれたり、背景が跡形もなくなくなったり、変形してしまったりする表現。その破壊力の大きさから段階を分類する。
  • 流血…攻撃を受けることによって生じる流血。おびただしい流血、にじんだ流血、血しぶき、鼻血など、その表現により段階を分類する。
  • 身体断裂…攻撃を受けることによって生じる身体の断裂。首が飛ぶ、手が切れる、内臓が出る、などの表現をその残酷性から段階を分類する。なお、この項目は人為的攻撃を受けなかった場合にも適用する。
  • その他…上記以外の暴力表現。つかむ、押す、つねる、激突、死体など。

 3年間の暴力表現は3,551コマ、これは総コマ数49,027コマの7.2%であった。

 この数値が多いのか少ないのかは、比較するものがないのでなんとも言えないが、全体の1割をも満たしていないので、少ないものと見てよいだろう。

 残虐性や迫力で見ると、ほとんど迫力のない「小」が約半数を占めており、いわゆる暴力的迫力の強い「大」「中」があわせて半数と、ほぼ同数でバランスが取れていることが特徴的である。

 つまり批判対象となる「残虐さ」を表した場面は、全体7.2%のさらに半分の3.5%~4.0%くらいにまで減ってしまうのである。

 では暴力表現で多いものは何かというと、

  1. 流血
  2. 殴る
  3. 武器使用
  4. 特殊能力
  5. その他

という順になる(図26)。

 ①が多い理由として顕著なのが、「鼻血」の表現である。「鼻血」は笑いを誘いやすいため、普段は暴力表現の少ないマンガでも登場しやすいのである。

 また、一度流血してしまうと、表現上途中でそれが消えてしまうのは変なので、流血しつづけることになる。こういった理由で「流血」は飛びぬけて多くなってしまったのである。

 しかしキャラクターのダメージを表す表現として「流血」は極めて表現しやすく、読者にダイレクトに状況が伝えられるという点で、表現頻度が多いともいえよう。

図26 暴力表現

1.流血

▲『北斗の拳』(武論尊・原哲夫)①巻より

2.殴る

▲『ろくでなしBLUES』(森田まさのり)『ジャンプ』1992年21・22合併号より

 ②は人間が攻撃する手段として、日常でも最も多く使われるものであることが反映されている。野蛮な言い方をすると、人間は相手を攻撃するときに、まず「手」が出る、ということである。特に格闘マンガの多い『ジャンプ』では「基本的な」暴力であろう。ただこの数字の中にはボクシングマンガも含まれていることを断っておく。

 ③、④はこれぞ少年誌、というような暴力表現である。いわゆる「必殺技」の類がここに多く当てはまる。

 だがこれらの暴力表現、特に攻撃をする表現は、善玉と悪玉でその性質が変わってくることに注意しなければならない。悪玉はマンガの演出上、攻撃も理不尽なものが必要以上に多くなろうが、善玉は必要最低限の場合にのみに暴力を使用することが多い。

 善玉の暴力に理不尽さが出てきたら、それこそ考え物であろうが、そうでなければそれほど「教育上よくない」ものではないと考えられる。何よりもここ3年間での暴力表現は年々減少しているのである(1992年8.7%、1993年8.0%、1994年5.0%)。

 ちなみに3年間で「暴力表現」の割合の多かったマンガは(そのマンガ10冊分の暴力コマ数÷そのマンガ10冊分の総コマ数)以下の通りであった。

  1. 『ジョジョの奇妙な冒険』   (荒木飛呂彦)  1992年(22.2%)
  2. 『瑪羅門(バラモン)の家族』 (宮下あきら)  1992年(19.4%)
  3. 『ろくでなしBLUES』    (森田まさのり) 1993年(17.3%)

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