週刊少年ジャンプ論 第三章 第四節

オレ流週刊少年ジャンプ論
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注)この論文は1994年のものです。

第四節 『ジャンプ』の羅針盤、アンケートハガキ

 “ジャンプ方式”といわれる戦略は、徹底した商品志向と読者優先主義である。これらすべてを司っているのが、毎週号につき綴じられているアンケートハガキ(図23)である。

 これは初代編集長である長野規が提案したもので、創刊号から取り付けられた。長野の信条は

編集者は読者の顔が見えなくてはいけない。頭の中も胸の底も、いや財布やポケットの中身も見えていなければつとまらない。

西村繁男、「さらばわが青春の『少年ジャンプ』」;P26

であり、彼は雑誌創刊以前に当時の小学4、5年生を対象にアンケートをとり、言葉のイメージ調査を行っていた。

図23 ジャンプを動かすアンケートハガキ

▲『ジャンプ』1992年34号より
  • 一番心あたたまることは―友情
  • 一番大切に思うことは ―努力
  • 一番嬉しいことは   ―勝利

 この3つのテーマは『ジャンプ』創刊から徹底され、すべてのマンガにこの要素を盛り込ませた。この方針は現在でも色濃く受け継がれ、マンガ作りの柱となっている。

 アンケートハガキを導入しそのデータを羅針盤とすることで、『ジャンプ』は雑誌の方向性を決めていった。データに雑誌の運命を託したのである。

 懸賞応募用紙を兼ねることで、回収率の低下を防いだ。質問項目は編集者が持ち回りで考え、読者から何を知りたいのか執拗なチェックを受ける。集計も担当者自らが集計して、その質問項目について理解を深めるという徹底したものである。

 表12は、1990~1994年の5年間のアンケートハガキの内容を「マンガ(新連載・読切)」「その他」について分析したものである(1年ごとに10枚ずつ無作為に抽出。計50枚)。

 マンガの存続を左右する「おもしろいもの3つ」(人気投票)の項目は、50枚中50枚、100%という徹底ぶりだった。最近ではこの質問表現が、「おもしろかったものから3つ」という、3つの中でのランクづけを求めるものとなり、よりシビアな競争になったことが予想される。

表12 アンケートハガキの内容分析

マンガについて

項 目

おもしろかったもの3つ

キャラクター

感 想

わかりやすさ

印 象

気に入ったキャラ

マンガ自体の印象

マンガ自体の感想

新連載について

50

読切について

10

11

50

21

18

項 目

印象ページ・コマ・セリフ

絵 柄今後の展開

マンガの支持・不支持

なぜおもしろいと思ったか

その他
新連載について

10

11

読切について

14

14

18

24

15

14

25

▲『ジャンプ』1990~1994から作成

 「マンガ」についての項目は、大きく分けて10の項目に分かれる。どれも細かい質問に及んでいるのが特徴だ。その中で双璧をなすのが「キャラクター」と「印象に残ったページ・コマ・セリフ」について問うものである。

 「キャラクター」はマンガの命といえるほど重要な要素で、『Dr.スランプ』のアラレちゃんや、『北斗の拳』のケンシロウなど、ヒットマンガには必ず強烈なキャラクターが存在する。

 そのため、まずキャラクターのイメージを調査し、読者にどれほどのインパクトを与えたかを調べる。もし受けが悪ければ、いい方にキャラクターを修正していく。

 また、この調査の繰り返しで、“売れるキャラクター”作成のノウハウを『ジャンプ』は身につけていくことができるのである。

 「印象に残ったページ・コマ・セリフ」は、マンガの表現技法の人気を調べるものである。どういった構図・言葉が注目を浴びるのか、心に残るのか、絵と文章の二大表現の観点から調査を行い、常に洗練された表現技法の保持に細心の注意を払っているのである。

 新連載と読切にわけて見てみると、質問項目の違いが顕著に見てとれる。新連載で「キャラクター」と同じくらい聞かれることが、「今後の展開」である。読者がそのマンガにどのような展開を望んでいるのかを調査するものである。

 このことはまさに“読者優先主義”“売れるマンガ”を意識したものであり、『ジャンプ』マンガの商品性をよくあらわしている。

 読切について見ると、何といっても「マンガの支持・不支持」が目立つ。読切は新人マンガ家のチャレンジの場でもあるので、連載する資格があるのかどうかを読者に問うためのものなのだろう。

 「感想」を聞かれることも多い。新人育成の上でこれから気をつけるべきこと、長所などを知り、参考にするのだと考えられる。

「その他」の項目詳細

 

項 目

ジャンプについて

10

生活について

11

流行・文化について

10

他誌について

マンガジャンルについて

スポーツについて

コミックスについて

映画について

企画の是非について

銀はがしゲーム

その他

66

▲『ジャンプ』1990~1994から作成

 「その他」の質問項目は主に11項目に分けられる。特によく聞かれる項目が「ジャンプ」「生活」「流行」についてである。この3項目を中心として『ジャンプ』は今まで読者のニーズを捉え、雑誌作りに反映させてきたのである。

 「財布やポケットの中身も見えてなくてはつとまらない」とはよく言ったもので、実際「お年玉の金額」や「学校に持っていくもの」といった質問があった。

 また「かっこよさ」や「楽しみと悩み」といった、時代によって価値観や考え方が変化するものについて聞くものや、「ジャンプの買い方(ルート)」というマーケティング調査に関わってくるもの、「1色ページの見やすい色」といった、かなり細かい分野にわたって質問項目が形成されていることが分かる。

 つまり、『ジャンプ』はマンガはもちろん、流行や文化、生活、はては言葉のイメージといった抽象的なものにまで広範囲にわたってアンテナを張り巡らし、最新の読者情報、特に子どもが発信する電波をキャッチしようとしているのである。常に最前列を走るためには、最新のデータを取得する必要があるのだ。すべてはデータが握っているのである。

 1992年(平成4年)34号で『ジャンプ』はこんな言葉のイメージ調査をしている。

  • 一番心あたたまるものは?
  • 一番大切だと思うものは?
  • 一番うれしいと感じるものは?

まさに創刊前の調査と同じである。時代によって価値観が変わる言葉のイメージ。いつまでも友情・努力・勝利がもてはやされるとは限らない。

 しかしその場合、『ジャンプ』ならばあっさりとその方針を換えるのであろう。読者の望むマンガ作りのために、そしてデータ第一主義の“売れる雑誌作り”のために。

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