ホンダ、有終の美を飾るラストラン
絶対王者・ハミルトンと、若き天才・フェルスタッペンがバチバチに争い、近年まれにみる大接戦で最終戦を迎えたF1グランプリ2021シーズン。
泣いても笑っても最終レース・アブダビGPですべてが決定します。そして今シーズン限りでのパワーユニットサプライヤー撤退を表明しているHONDAにとっては、最後のレースとなります。
2015シーズンから、4回目のF1挑戦として参画したHONDA。後発参戦という経験値の少なさからまともに車が動かず、動いても遅い。
ゆえに各方面からボロクソに言われ続けてきた…という苦汁も今は昔。なんとあと一戦勝てば、年間チャンピオンとなるステージまで辿りつきました。
そしてそれを実現しようとしているのが、レッドブルチームと、そのエースドライバーであるマックス・フェルスタッペン。7年連続王者となっているメルセデスチームに挑みました。
そしてこの最終戦アブダビGPでとうとう、とうとう…
と相成りました。
まさにHONDA執念の集大成ここに成る…! といった、有終の美を飾る結末となったわけです。
まるで少年マンガのような結末
しかしながら、これは奇跡のようなドラマが織りなされた結果でありました。ホント、

こんなことが現実に起きるのかよ!!
と叫んでしまうほどの、壮絶なストーリーがそのレースにはあったわけです。
それは例えるならば、
という、まるで少年ジャンプの“友情・努力・勝利”をそのまま地でいったような、劇的大逆転勝利だったのです。
この少年マンガ展開については、あとで詳述しますね。
両者のポジション確認
とうわけで、まずは最終戦直前におけるフェルスタッペンおよびハミルトンのランキングの確認です。
このように、21戦もしてまったくの同ポイントで並んでいます。お互い一歩も譲りません(苦笑)。
ですので、決勝レースで先にゴールした方が年間チャンピオンという、ひじょうにわかりやすい図式となっています。
もしも両者リタイヤのノーポイントであった場合は、優勝回数が多いフェルスタッペンに凱歌があがることになります。
ですので、ほんの少しだけフェルスタッペンが有利だといえるでしょう。
少年ジャンプ的レース展開
Battle1 予選
翌日の決勝のスタートグリッドを決める大事な予選。当然トップ位置(ポールポジション)でスタートできれば、レースの頭を取りその後をコントロールしやすいので、両者とも予選トップを狙いたいところです。
練習走行を見る限り、車の出来はメルセデス優位に見えました。ぶっちゃけ

こらレッドブル・ホンダ、とてもかなわんな
と感じていたのが正直なところです。
しかし結果はフェルスタッペンがトップタイムを叩き出しました。この正念場で見事にポールポジションを持ち帰ったのです。
ただし、そのトップタイムにはチームメイトの献身がありました。レッドブル・ホンダもう一人のドライバーであるペレスが、フェルスタッペンに“トウ”を与えていたのです。

トウって何だよ?
と思われた方もいると思うので、簡単に説明します。
ということです。
F1は高速で疾走するスポーツなので、空気抵抗がハンパありません。ですので、ペレスがフェルスタッペンの4秒くらい前を走り、その空気抵抗を一身に受けるのです。
結果、後方を走るフェルスタッペンの空気抵抗が減り、よりスピードが増すんですよ。これを“トウを得る”と言います。いわゆる“スリップ・ストリーム”と同義です。
ただこれは風よけになるペレスの予選が犠牲になるということです。ペレスだって命を賭けてレースをしています。レースで優勝したい気持ちは、フェルスタッペンと同じです。
しかし、ここは己の利益を捨てて、チームメイトのフェルスタッペンの勝利に全面協力したわけです。もう少年ジャンプでいうところの“友情”ですよ。このペレスの献身のおかげて、フェルスタッペンは見事予選1位を獲得できたんですね。
ただしフェルスタッペンは、この予選で痛いミスもしています。
彼は予選2回目で貴重なミディアムタイヤをダメにしちゃったんですね。ドライブ中に誤ってタイヤ品質を著しく下げてしまった(フラットスポット作成)んです。
ですので、翌日の決勝で使えるタイヤの種類が減り、戦略の幅が大きく狭まってしまったわけです。ポールポジションを得たのはいいとしても、決勝当日に大きな不安を残してしまう結果となってしまいました。
Battle2 決勝
決勝はフェルスタッペン、ハミルトンのフロントローとなりました。ポールポジションのフェルスタッペンが、数メートル前に位置している感じです。
タイヤ戦略で不利なフェルスタッペンは、是が非でもスタートを決めて、トップを維持することがウィナーへの最低条件となります。
そんな緊張感漂う決勝のスタートから、ドラマを見ていきましょう。
スタートダッシュ
スタートダッシュは、なんとハミルトンが完璧に決めました。絶対に譲ってはいけない場面で、フェルスタッペンはハミルトンの後方を仰ぐこととなります。この瞬間

アチャ~ッ!! やってもうた!!
ですよ(苦笑)。
これで完全にレースペースはハミルトンが自在に作れるようになりました。2番手に甘んじたフェルスタッペンのデメリットをあげると
などがあります。
対するハミルトンのレースペースは絶好調で、フェルスタッペンとの差を2秒、4秒とジリジリと広げていきます。正直な話、フェルスタッペンはハミルトンについていけません。
このように、第1スティントは圧倒的にハミルトンのペースとなりました。フェルスタッペン、けっこうピンチです。
チームメイトの鬼援護射撃
お互いにタイヤの交換を行った第2スティント。ハミルトンはまったくもって隙がなく、フェルスタッペンとの差を9秒とさらに広げます。
ここでハミルトンはタイヤ交換をまだ行わず、暫定でトップの位置にいたペレスに追いつきます。ここでペレスは予選時にみせた以上の、フェルスタッペンへの援護射撃を開始。
タイヤも新品に交換し、圧倒的に速いハミルトンを向こうにまわし、意地の鬼ブロックを行ったのです。ハミルトンに抜かれても、ペレスは必死に食らいついて抜き返す。そんなやりとりが何度か行われます。
そのドライビングにはまさに接触をものともしない気合が見え、観衆にヒリヒリとした緊張感を与えました。

やばいやばい! これ絶対そのうちぶつかる!!
と思わず叫んでしまうくらいの激しさ、ハードレーシングです。
ペレスに想像以上の抵抗をされたハミルトンも、かなり動揺したのではないでしょうか。というのも、ハミルトンは絶対にぶつかってはダメなんです。そこでジ・エンドですから。
そんな危険なレーシングをされて足止めをされているうちに…なんと9秒も差があったフェルスタッペンが、わずか1.2秒という差まで詰め寄っていたわけです。
その段階でペレスは両者に道を譲り、お仕事完了です。これはものすごい仕事をしましたよ、ペレス。まさにF1界の必殺仕事人です(笑)。この鬼ブロックで、レースはまたわからなくなってきたわけです。
どうですか。予選時といい、決勝時といい、ペレスの友情パワー、すごいでしょ? 接触して自分のレースが台無しになる可能性だって大いにあったわけですよ。
しかし彼はフェルスタッペンを援護するために、利己的な考えを捨ててチームプレイに徹したわけです。まさに自己犠牲精神。これを少年マンガ的な友情、チームワークといわずして、何と言えばいいのでしょうか。
ニュータイヤでの追撃
しかしながらレッドブル・ホンダチームの2人がかりの攻撃でも、絶対王者・ハミルトンは隙を見せません。フェルスタッペンは彼をオーバーテイクするどころか、またもや少しずつ離されていきます。
そこでフェルスタッペンは再度フレッシュなタイヤに交換し、鬼の追撃でレース終了間際にハミルトンに追いつき、捉えるという賭けに出ます。
ピットストップでさらにタイム差をつけられ、その差は約18秒。残りの周回でこれを潰し、さらにはコース上でハミルトンを追い抜くという、かなりハードな作戦です。計算上では1周につきハミルトンより0.8秒早く走らなければなりません。
ぶっちゃけ現実味が少ない作戦であることは、視聴者である我々にもわかりました。しかし最後まで何が起こるかわからないのがF1です。これまでもあり得ないようなドラマを幾度も見せられたので、それを願うしかありません。
99.9%勝利が見えたハミルトン
ニュータイヤを履いて激走するフェルスタッペン。その差を18秒から11秒にまで縮めたのですが、それ以降が縮まりません。これはニュータイヤの品質が落ち、かっ飛ばせなくなってきたことを意味しています。
ハミルトンも百戦錬磨の強者です。このあたりでフェルスタッペンのニュータイヤの品質が落ちることを予想し、自分とラップタイムが変わらなくなるポイントを見据えて、自分のタイヤを温存していたんですね。
最後の捨て身の賭けでも勝利の女神が振り向かないフェルスタッペン。
こうなるとレッドブル・ホンダとしてはもう打つ手がありません。レースは終盤、残り5周。完全にハミルトンの逆転年間チャンピオン奪取が、99.9%確定したと思われる瞬間でした。

またもやチャンピオンはメルセデスなのか…
HONDAは有終の美を飾れないのか…!!
と、観ているこちらも完全に諦めモードに入ってしまいました。
奇跡のセーフティーカー
このように、逆転負けの結末を待っているような状況。しかしここでレースの行く末を大きく変えるようなアクシデントが発生します。
ウィリアムズのラティフィがコース中でクラッシュ。コース内では破損した車を除去する必要が生じ、安全面のためにセーフティーカーが導入されます。
セーフティーカーというのは、トップを走っていた車(この時はハミルトン)の前を、安全なスローペースで走るペースカーで、事故車を除去する人員が安全にオペレーションをすることを助けます。
そりゃそうですよね、時速300㎞で車が走りまくるコース上で、原状回復作業なんて怖くてできないですから(苦笑)。
ですので、その間だけF1マシンはゆっくりとコース内を周回するわけです。ということは…そうです。

後続の車がどんどん先頭に追い付ける!!
という現象が起きるわけです。つまりフェルスタッペンは、11秒あったハミルトンとの差を、合法的にほぼゼロにすることができちゃうんです。
さらにいうと、タイミングがよければピットに入って新しいタイヤに交換も可能です。
みんなゆっくり走ってくれているので、それまでに後続との差をある程度空けておけば、タイヤ交換の余計な時間を含めても、ポジションを落とすことなくレースに復帰するマジックが可能なのです。
フェルスタッペンはこれを行いました。そりゃそうですよね、フェルスタッペンは失うものはないし、とにかく攻めるしか選択肢がないわけですから。
ですのでソフトタイヤという短距離走が得意なニュータイヤに交換し、ハミルトンの後ろにつきます。つまりこのセーフティーカー導入というアクシデントでフェルスタッペンは
- 合法的にハミルトンとの差をなくせた。
- しかもフレッシュなタイヤにリニューアルできた。
という、破格的アドバンテージを得ることができたのです。
これで破損車の処理が完了し、いざレース再開となった瞬間に、一気にハミルトンを抜き去るお膳立てが整いました。あとは…このセーフティーカーがレース終了前に解除されるか、という点がクローズアップされました。
というのも、残り5周という時点でのアクシデントだったため、事故処理に時間がかかれば、セーフティーカー導入のままレース終了となる可能性も十分あるからです。
この場合、レース結果はセーフティーカー導入時点でのものとなり、結局はハミルトンの優勝で、8度目の年間王者決定です。ちょっとしらけるというか、スッキリしない王者決定となりますが。ですのでこの時は

たのむよ~、最後にレースさせてくれよぉ~
と、天に祈るばかりでしたね(笑)。
残り1周の極限スプリントから大逆転勝利へ
そんな祈りが天に通じたのか、残り1周直前でセーフティーカー解除。つまりラスト1周で雌雄が決する、極限のスプリントレースが勃発したわけです。
この好機を見逃すフェルスタッペンではありません。レース再開と同時に、鬼のような攻撃を開始。信じられないくらいの集中力と勝負度胸、そしてレーステクニックを駆使し、とうとうターン5でハミルトンをオーバーテイクすることに成功します。
その後再逆転を狙うハミルトンを巧みにブロックし、そのままゴール! ありえないくらいの大逆転勝利で、2021シーズン年間チャンピオンを勝ち取りました。
それは同時に、HONDAが7年目にして栄光を勝ち取ったことを意味します。ボロクソ言われた参戦時から7年。よくぞここまで到達したなあ。ホント、尊敬だよなあ。そしてこんな素晴らしい状態で撤退することが、とても惜しいです…。
でも…本当に少年ジャンプ的結末でしょ?
- 【友情】チームメイト・ペレスの自己犠牲的協力
- 【努力】7年間たゆまぬ研鑽をし続けたHONDA開発陣
- 【勝利】奇跡としかいいようのない、劇的な年間チャンピオン奪取
これが現実に起きたんですからね。ジャンプ黄金世代にとっては、たまらないエンディングでしたよ(笑)。
おわりに
以上のように、近年ない興奮を提供した2021F1GP。まさに大団円…と言いたいところですが、角度を変えて見ると、この最終戦にはいろいろと問題があったことも事実です。
わかりづらくなるのでこの記事では詳述しませんが、この劇的勝利が“大いに人為的に操作された”と解釈できる点もあるのです。つまり最後の盛り上がりを得るために、審判団が恣意的にルールを操作した、ということです。
また、その判断がエンタメ性を重視し、安全性を犠牲にした、という意見もあります。
それらについては私もそうかもしれない、と思うところはあります。正直な話、レースは完全にハミルトンが支配していたし、仮に彼が年間チャンピオンとなったとしても、まったくもって異議を立てられないからです。それくらい彼は、年間を通じて素晴らしかったのです。
でも今は素直にHONDAとフェルスタッペン、そしてレッドブルの快挙を称えたいかな。
そして、最後に強烈に感じたのが、

精神的に大人の人がいるから、イベントは成立する
ということです。
今回で言えば、ペレスとハミルトンです。ペレスは前述したように、フェルスタッペンをチャンピオンにするために、ありえない自己犠牲を行いました。
本来とんでもなく負けず嫌いで、勝負論にこだわるはずのレーサーがこれを行うのは、精神的にとても難しいと思われます。つまりペレスは相当な大人ということです。
さらに敗れたハミルトンはハンパなく悔しいはずなのに、レースが終わった後にフェルスタッペンを称え、恨みがましいことを一言も発していません。
ぶっちゃけハミルトンは言いたいことは山ほどあるはずなんです。しかし彼は大人なので、それをグッと内に押し込め、来年にその悔しさをぶつける精神状態にもっていっているんですよ。本当に天晴です。
そのような視点で見ると、若いフェルスタッペンはそのような大人の精神力を持つ方々のおかげでその栄冠を手にできた、ともいえるのです。
語弊があるかもしれませんが、自己中心的でやんちゃな若者が、大人が一歩引いて作ってくれた舞台に上がり、センターを取った、といった感じでしょうか(苦笑)。
もちろんそれが悪いとは思いません。世の中というものは、いつの時代もそのような仕組みになっているのが当たり前だと思うからです。
ですので、数年後にはフェルスタッペンも円熟し、今のペレスやハミルトンのような大人に変化していくのでしょう。これは順番なのだと思いますね。
それでは3月開幕の2022シーズンを楽しみに待ちましょうか。ではまた。


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