7年振りの日本人F1ドライバーの誕生
角田裕毅は小林可夢偉以来、7年振りに誕生したF1ドライバーです。彼がF1昇格した様については、以下を参照していただけたら、と思います。
まあ簡単に言うと、
- ナチュラルに速い
- 一発も速い
- 世界が相手でも物怖じしない
- 本番に強い
- オーバーテイクが上手い
- レッドブルというトップチームのサポートを受けている
といった感じで、

久々に世界と対等に争える日本人が出てきた!
という期待感があふれる逸材なんですよ。
今までの日本人F1ドライバーを過小評価するつもりはないのですが、彼らは結果的にトップチームには移籍できず、表彰台にあがるのは奇跡、というポジションで終わってしまいました。
しかしながら、角田はその活躍次第ではトップチームであるレッドブルに昇格できる立ち位置で、そのF1キャリアを開始できるのです。
この点で彼が今までの日本人F1ドライバーとは大きく異なり、将来のロードマップが確立された、初めての日本人ルーキーであることがわかろうというものです。これは期待しちゃいますよね(笑)。
ではそんな角田裕毅がそのデビューイヤーでどのような活躍をしたのか、そしてそれは合格ラインだったのかどうかを、独断で検証していきます。
オレ的角田裕毅成績表
というわけで、さっそく結論から申し上げます。F1GP2021シーズン全22戦を通しての角田裕毅の成績表は…
となりました。あ、100点満点中でね。
ちょっと微妙な点数なのですが、及第点はクリア、というイメージです。これは彼の能力がこの程度だった、という65点ではなく、

80点以上を楽に取れるポテンシャルがあったのに、それを発揮しきれなかった
というニュアンスの65点なんですよ。
では彼の2021シーズンが具体的にどんな感じだったのかを復習してみましょう。
角田裕毅のルーキーイヤー振り返り
角田裕毅のルーキーイヤーは、山あり谷ありのまさにジェットコースター状態。その流れを簡単に羅列すると
となりました。あれ? 全然簡単に書けなかったや(苦笑)。
要はドカンと派手にデビューしたんだけど、すぐに天狗の鼻をへし折られて自信喪失しスランプに陥ったものの、後半に自信を回復して尻上がりに良くなり、最後は最高のエンディングを迎えた、といった感じです。
ただ中盤の低迷期は本当に厳しくて、

これ…来年のシートないかもしれないぞ…
と、本気で心配したくらいです。レッドブルはこのあたりの人事はかなりドライですから。
個人的には後半の尻上がりがもっと早い時期に訪れていれば、もう何発かルーキー伝説をかませたかもしれないのにな、と思っています。
ですので、その歯がゆさを含めて65点、とさせていただきます。ちなみに公式成績であるドライバーズ・ランキングは
となりました。正直いって、少し地味な結果です(苦笑)。
悪かった点
では私が感じた悪かった点を書いてみたいと思います。
相方を意識し過ぎた
角田も自分の力に自信があったんでしょうね、チームメイトのガスリーを食ってやろう、という野心があふれていました。
それはテストシーズン、デビュー戦での走りの好調さを経て、より大きな野望になったと思われます。要は

オレ、いけるわ、これ。ガスリーに勝てるわ。
と手応えを感じたわけです。
それは彼が天狗になったともいえるのですが、観ているこちらも同じこと考えていましたからね。まあ同罪ですよ。
でもそれくらい、彼の出だしは快調だったんですよ。ホント、

これは年内にワンチャン表彰台も夢じゃないぞ
なんて夢想しちゃいましたからね。しかしながら②の予選クラッシュですよ。夢見る時間は短かったです(苦笑)。
そしてそのミスを取り返そうと焦りながらも、さらにまだ“ガスリーを食ってやる”という野望も捨てていなかったため、無理をして失敗を繰り返すという悪循環に陥ったわけです。
週末のペース配分を間違えた
F1の週末というのは、金曜の午前午後(FP1、FP2)、土曜日の午前(FP3)と3回の練習があり、土曜日午後の予選、そして日曜日の決勝というスケジュールで進むんですね。
つまり3回の練習で予選と決勝に向けた、チューンナップを行っていくわけです。
しかし角田はこのF1の週末で、始めのFP1からガンガン飛ばそうとしていました。これは先ほどの“ガスリーを食ってやる”という野心も大いに関係していたと思います。
要は練習走行のしょっぱなからかっ飛ばして自分の実力を見せつけようと、やっきになっていたわけです。そしてはじめから限界点を探りつつレースに挑む。それが彼の週末のやり方でした。
いい言い方をすれば

ミスを恐れずプッシュする
という気合の入ったやり方であり、そこでミスっても

そこからまた勉強したい
という、ルーキー特典を大いに利用しようとしたのです。
しかしながらこの作戦は裏目に。先ほど書いたRD.2での予選クラッシュにつながってしまうんですね。
これによって角田は週末のアプローチ変更を余儀なくされます。序盤は慎重に入り、徐々にペースを上げ、一つ一つビルドアップしていくという積み上げ路線に変えていくわけです。
しかしながら、失った自信を回復するには時間がかかり、夏すぎまで低迷してしまったのです。
相方に予選で完敗した
“食ってやる”と意気込んだチームメイト対決では、22回ある予選で1勝21敗となりました。
予選は1周の速さが如実に表れる実力査定となります。つまり角田はここで完膚なきまでにガスリーに打ち負かされたわけです。
大きな自信をもって臨んだF1ファーストシーズンでしたが、先輩ドライバーの壁をまざまざと見せつけられる結果となってしまいました。
お口が悪かった
これがね~、今年の角田をより悪く見せてしまった一因なんですよね。
彼は普段は礼儀正しく、人懐っこい青年らしいのですが、レース中だとアツくなりすぎてしまうようでして。うまくいかなかったり、理不尽なシーンで、汚いスラングを使ってしまうんですよ。
これは番組制作サイドが面白がってそのような無線をピックアップし、故意に放送したから、というエンターテインメント的な演出がそのようなイメージを確立させた、ともいえます。
ですがそもそもそういう言葉を使わなければね、ピックアップもされないわけですから。このあたり、まだまだ彼の幼い部分なのかな、なんて思います。
ただこれがチーム批判やメカニック批判じみてきたときがあったので、少しヒヤヒヤしました。ルーキーでチームから総スカンを食らったら、もう未来はないですからね。

あいつ、新人のくせに天狗かよ!
なんてね。
さらに間が悪いことに、成績が低迷し始めたときと重なるようにして、このような暴言をピックアップされちゃったんですね。ですので

あいつ、期待外れの活躍のくせに、口だけは達者だな
なんてイメージもついちゃったんですよ。
まあまだ角田の英語がたどたどしいから起こった、という見方もできるんですけどね。いずれにせよ、やはり“口は災いの元”ですから。
防ごうと思えば防げたことですので、もったいないなぁと思います。
良かった点
逸材の片鱗を見せつけた
バーレーンのテストから、彼はその存在感を見せつけました。テストランだからそのタイムだけですべては推し量れないのですが、さらっとフェルスタッペン等のトップドライバーと遜色ないタイムを叩き出すので、

やはりただのルーキーではない
という気分になりましたね。間違いなく、今までの日本人ルーキーではありえなかったことですから。
また、デビュー戦の予選Q1でも、サクッとフェルスタッペンからコンマ1秒差で2位通過するなど、観ているファンの度肝を抜きました。あれは痛快だったなあ。
さらに続く決勝レースでは、アロンソ、ベッテル、ライコネンと、歴代のチャンピオン3名をごぼう抜き。これもかなりのセンセーションでした。
王者メルセデスをブロックした
彼は新人なのに、絶対王者たるメルセデスのドライバーにも果敢に勝負を挑んでいました。代表的な2レースを紹介します。
VSハミルトン
RD.16のトルコGPにおいて、彼はF1界の帝王たるハミルトンに対し、7周にもわたってブロックしています。
当時はフェルスタッペンとハミルトンのチャンピオン争いが激化している時期で、レッドブルのサポートを受けている角田が、少しでもフェルスタッペンの力になろうと行動を起こしたわけです。
はっきりいって、デビューしたてのド新人が絶対王者に挑むなんて、無謀にもほどがあります。しかし彼はそれをやっちゃったんですね。恐ろしいほどのクソ度胸です(笑)。
もちろんハミルトンもデータが少ないルーキードライバーにぶつけられるのはゴメンなので、ある程度様子をうかがって確実に仕留めにきたから、それなりに時間がかかったんでしょうけど。
とはいえ、なかなかに“神をも恐れぬ仕業”ですよね。
VSボッタス
RD.22最終戦アブダビGPにおいて、彼はスタートでボッタスをパスすると、次にピットインする23周目まで、チャンピオンチームの一員であるボッタスを抑え続けます。
これによってメルセデスはハミルトン、ボッタスの2名体制でチームプレイを画策することができなくなり、対レッドブルへのストラテジーを半減させられる結果となりました。これは地味にファインプレイだったんですよ。
これによってフェルスタッペンはハミルトン一人にその焦点をあてることができ、最終的にあの劇的な逆転優勝を飾ることになったわけですから。
ちなみに角田は最終ラップでもこのボッタスを見事にオーバーテイクし、4位フィニッシュという最高のエンディングを迎えました。
後半から尻上がりに成長した
シーズン中盤からスランプに陥った角田でしたが、モノコックを変更したRD.16のトルコGPから、尻上がりに復調していきました。
復調といっても、決勝レースで目覚ましい結果を連続で出したわけではないのですが、レース週末のアプローチを変えることで安定性が増し、コンスタントに練習走行で10位以内のタイムを出すようになってきたのです。
これによってコース上でスピンしたり、クラッシュするような危なっかしさが激減しました。
そうなるとチーム内での信頼も増していき、またコミュニケーションも活発になっていくので、“チーム角田”がプラススパイラルに変化し始めたんですね。
そして一番目覚ましい結果が、終盤7レース中、6レースで予選Q3進出という結果です。これは角田がF1の週末を完全に自分のモノにしたことを示していると言えるでしょう。
もちろんチームが相応のいい車を用意してくれた、ということも大きいですけどね。いずれにせよ、ドライバーとメカニックの呼吸が合ってきたことは間違いがないです。
最終戦でガスリーに勝ち、4位を獲得した
そして最終戦でやっと…チームメイトのガスリーに、予選で勝つことができました。シーズン前は

オレ、いけるわ、これ。ガスリーに勝てるわ。
という勢いだったのに、達成できたのがなんと22戦目の最終戦。
それくらい相方のガスリーの実力が高かった、ということです。しかしこの最終戦の週末はFP1から角田の方が調子がよく、すべてのポイントでガスリーを上回っていました。その結果が対ガスリーで予選初勝利です。
そしてこの最終戦は決勝でもその好調が続き、ガスリーを上回る4位フィニッシュを達成(ガスリーは5位)。これが最高のご褒美ですね。このレースで今までのミスがすべて帳消しになった上に、お釣りまできた感じです。
結果、最高の昇り調子でシーズンを終了することができ、次シーズンに向けて大きなはずみとなりました。傍目でも彼が大きく成長したことがわかったので、2022シーズンがホント楽しみです。
フェルスタッペンのルーキーイヤーと比較してみよう
ではもう少し客観的に、角田のルーキーイヤーを評価してみましょうか。それには現在活躍している先輩のルーキーイヤーと比較してみるのがわかりやすいでしょう。
比較する相手は2021シーズンで見事チャンピオンとなったフェルスタッペン。同じレッドブルジュニアからトップドライバーとなった彼と比較するのは、その後の角田の未来を占えるかもしれません。ではいってみましょう。
フェルスタッペンは2015年に角田が所属するアルファタウリの前身であるトロロッソから17歳でデビュー。17歳というのがすでに飛び級すぎる…そしてそのデビューイヤー成績は
となりました。角田が
ですので、レースが少ないフェルスタッペンの方がやや上でしょうかね。さらに言うと、車の速さは確実に角田のアルファタウリの方が上だと思います。
つまり性能が低い車で角田より上の成績を記録した、ということで、やはり天才・フェルスタッペンには残念ながら届いていない、という評価となりそうです。
とはいえ、ポテンシャルがあることは証明できているので、そこまで絶望的な差がある、というわけではないと思います。いや、そう信じたい(苦笑)。
おわりに
以上、角田裕毅のルーキーイヤーを振り返ってみました。
思うに、観ているこちらも過剰な期待を持ちすぎたかもしれません。

すぐにでもガスリーを追い越して、表彰台も取れるんじゃない?
なんて皮算用をしていましたからね。でもそれくらいルーキーらしからぬ、光る走りがあったんですよ、テスト段階から。
でも結果的には壁にぶつかってよかったのかもしれません。初めにF1の洗礼をきちんと受けて、

甘くねーなー、やっぱり。
と現実を知り、目を覚まして着実なステップアップ路線に切り替えられましたからね。
そしてその苦闘は後半戦で、きちんと実を結んでいますから。もちろん決勝レースのリザルト、という形では反映しきれていないかもしれませんが、それにはいろいろな不幸が重なってのこともあります。
それを含めてのレースですからね。この成長曲線できちんとやっていけば、結果は近いうちについてきます。そんなステップアップの期待を持てるデビューイヤーだったと思います。
そして2022シーズンは3月から開始されます。経験値を積んだ角田が、その成長曲線を維持したままシーズンインできるのか。そして光る走りを見せてくれるのか。今から楽しみで仕方ありません。ではまた。


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