
すみませんが、お断りします

ウソでしょ!?
前半戦が終了し、サマーブレイクに突入した2022F1シーズン。ドライバーの来年の移籍状況発表が活発になるこの時期、のっけから大騒動が勃発しました。
世界でたった20しかシートがないF1。おそらく数あるプロスポーツの中でも、そのレギュラーの獲得が難しいスポーツのひとつが、このF1だと思われます。
つまりそのレギュラーシートというのは、言うなればプラチナシートです。特にこれからそのシートをその手に掴もうとしている若手ドライバーにとっては、垂涎の的となるシートなわけです。まさに

喉から手が出るほど欲しい…!!
というくらいの。
しかしそのプラチナシートを、冒頭のように断った若手が登場し、業界を震撼させました。その若手とは…オスカー・ピアストリ選手です。
今回はこの“ピアストリ騒動”についてご紹介し、欧米の“契約社会”とは幻なのか(笑)、ということについて考察してみたいと思います。
オスカー・ピアストリとは何者なのか
オスカー・ピアストリは、F1に至る下位カテゴリーであるF2、F3を、圧倒的速さで駆け上ってきた、有望な若手ドライバーです。

2020年にF3でシーズン優勝、翌2021年にはランクアップして参戦したF2でもシーズン優勝。もう圧倒的です。夏の甲子園で3年間、すべて優勝を勝ち取った天才ピッチャーみたいなもんだと思ってください(笑)。
F1ドライバーでいうならば、同様にF3(GP3)、F2を連破してF1のシートを得たシャルル・ルクレールとジョージ・ラッセルと同等の経歴を持つドライバーということになります。まあいわゆる“怪物”ですよ(笑)。
ただ2022年にはF1シートの空きがなく、アルピーヌF1チームのリザーブドライバーとしてレースに帯同しています。言うなれば

補欠にしておくのがもったいない補欠
みたいなもんです。
なぜ彼がアルピーヌF1チームの補欠になったかというと、彼はアルピーヌの支援を受けていた、アルピーヌ育成ドライバーだからなんですね。
つまりピアストリはアルピーヌF1チームが将来の有望な若手として、その掌の中に囲っている秘蔵っ子なんですよ。
これも野球で例えるならば、ジャイアンツのスカウトにいろいろと支援を受けている高校生のピッチャー、てな感じです。
ピアストリ騒動とは
現在のF1界で一番ホットな騒動となっているこの“ピアストリ騒動”ですが、簡単に言うとパトロンだったアルピーヌが

ピアストリ、2023年はとうとうキミがアルピーヌF1でデビューだ!
と高らかにプレスリリースをしたのに、当のピアストリからは

いや、私そんな契約していませんよ?
と、サクッと返されてしまった事件のことです。

プラチナシートのはずのF1シートを巡ってこんなドライなやり取りが、しかも若手相手にされたので、業界がひっくり返っちゃったんですね(苦笑)。
ピアストリがこんなに強気な発言をできるのは、マクラーレンF1チームとのドライバー契約が合意に達したからだと巷では推察されているようです。
要は裏で他チームと交渉をしていて、それがうまくいっちゃったんですね。
これはまた野球で例えるならば、ジャイアンツの支援を受けていた甲子園のエースが、ドラフトでジャイアンツが1位指名していたのにもかかわらず、裏で話がついていたソフトバンクに入団するようなものです。
ある意味とても不義理な行動だとも思えるのですが、伏魔殿たるF1業界(笑)では、さまざまな駆け引きがあったのかもしれません。
ただ彼を少し弁護すると、アルピーヌにいる以上、来年も彼のキャリアアップはあまり望めない状態にあった、ということがあります。
レギュラードライバーが動く気配もなく、いいところ下位チームへのレンタル移籍が関の山。それに不満を感じて彼やそのマネジメントが動くのもわからなくはありません。
なにせ“補欠にしておくにはもったいなさすぎる”怪物ですからね。
騒動が勃発した複雑な背景
今回の騒動の発端は、7月下旬にリリースされた、アストンマーティンのセバスチャン・ベッテルの引退宣言でした。彼が

2022シーズンを最後に、ドライバーを引退する
と宣言したことにより、プラチナシートに一つ、空きがでました。
そのシートをすぐにゲットしたのが、現在アルピーヌのドライバーであるフェルナンド・アロンソです。
彼は電光石火の速さで動き、複数年契約という有利なオプション条件込みで、そのシートをゲットしました。

そりゃ俺も40超えているしね。
年齢というハンデを考えると、複数年契約というオプションは最大の魅力だよ
といった感じでそのオプションを手にしたのは、とても大きな成果だったといえるでしょう。

困ったのはアルピーヌです。アルピーヌは来年もアロンソに車をドライブしてもらおうと思っていたのに、突然に彼は消え去ってしまいました(笑)。
ただアルピーヌには秘蔵っ子がいました。そう、それがピアストリです。アロンソを失ったアルピーヌはここで自信満々に

ピアストリ、2023年はとうとうキミがアルピーヌF1でデビューだ!
とリリースしたものの、前述したように彼には

すみませんが、お断りします
と無下に断られてしまうのです。
ではピアストリが契約をしたと噂されるマクラーレンでは何が起こったのでしょうか。マクラーレンではダニエル・リカルドというレギュラードライバーが不振続きでした。
ですので、彼とピアストリを取り替えるというストーリーは、とても予想がつきやすいのです。おそらくはそうなるのでしょう。
つまり今回の騒動は、アストンマーティンを皮切りに、アルピーヌ、マクラーレンと3つのF1チームを舞台にした騒動であったことがわかります。
しかも玉突き移籍が玉突きにならず、さらにはそれを遮ったのが若僧だった、という珍しい騒動だったんですね。

まあそれだけピアストリという若手が才能あふれる、将来を嘱望されたドライバーだということがよくわかるわけです。
欧米の契約社会ってザルなの?
F1は欧州の文化が基盤のスポーツなので、すべてにおいて契約が発生します。このあたりがなあなあな日本とは大違いで、かっちりと文書を取り交わすんですね。
ただこのようなF1のサマーブレイク中での移籍騒動を見ていていつも思うのが、

契約なんて、あってないようなものじゃない?
ということです。
それくらいこの業界では電撃移籍や、電撃解雇が頻出します。しかもまだ契約期間中なのに、ということが多々あるので、そんな疑問を抱かせるんですよね。
今回で言えば、アルピーヌとピアストリとの契約がどうなっていたのか、という点と、もし本当にリカルドが解雇されるのならば、マクラーレンと彼との契約はどうなっているのか、という点です。
ピアストリはリザーブドライバーとしての契約があり、その後の将来的なステップアップを見越した所属契約があったのではないのかな、なんて思うし、リカルドはたしか複数年契約で、来期もドライバーとしての契約期間が残っているはずです。
それなのにこの自由過ぎる移籍劇は、いったいどういうことなのでしょうか。
細かい内容は当然我々にはわからないので、今起きている事象だけで判断すると、

欧米の契約ってザルなのかな?
と勘繰りたくなってしまうんですよ(苦笑)。
それとも契約の小さな穴を見つけ、それを強引に広げて交渉できる有能な弁護士がいて、それが成功しているからそう見えるのか。
それとも莫大な違約金を支払って、問題を解決しているのか。とにかく契約という文化に疎い日本人にとっては、なんだかよくわからない状況です。
ただ結果として移籍や解雇は活発なので、契約でガチガチに固められて1㎜も動けない、なんていう状況でもなさそうなんですよね。
もしかしたら、F1という業界だけが、契約という文化においては洗練されていないのかもしれません。違う業界団体からすれば

F1の法務、レベル低っ!!
みたいな(笑)。
コンマ1秒を削ることに関してはあんなに洗練されているのに、こと法務に関してはドラッグだらけだな、なんて。
今回の騒動の信じられない点
今回の騒動がより滑稽に感じられる点が
という点です。
これはにわかには信じがたいのですが、ピアストリとしては

ピアストリ、2023年はとうとうキミがアルピーヌF1でデビューだ!
というリリースをSNSで知り、それに対するアンサーをアルピーヌに対して

いや、私そんな契約していませんよ?
と、これもまたSNSで送ってしまったので、アルピーヌ側も

ウソでしょ!?
と、彼の意思をSNSで初めて知るという珍現象が生じてしまいました。

つまり労使契約をテーブルの上で確実なものにしていないのに、チーム側は勇み足でメディアにリリースしちゃうし、それに対するリアクションもまた直接メディアにリリースしちゃったわけです。
普通だったらね、世界中の人が目にするメディアにリリースする前に、当人同士でまず話し合いますよね? その決着がついてからのメディアリリースが当たり前じゃないですか。
ですのでこの有様を見ると

契約社会と呼ばれる経済圏で、こんな雑なやり取りってホントにあるのかな?
と、契約に疎い日本人でも目を疑いたくなるような稚拙さを感じてしまうわけです(笑)。
ちなみにこの現象は、アロンソがアストンマーティンに電撃移籍する際にも起きました。
アルピーヌのチーム代表はアロンソの移籍の事実を

プレスリリースで初めて知りました…
と、聞いているこちらがひっくりコケるような体で口にしています(笑)。プロ野球では絶対にありえないですよ、こんなの。
今風の現象だといえばそれまでなんでしょうけど、契約という秘密裏な締結が、衆人環視の下で晒されているような軽さを感じてしまいましたね。ちょっと信じられないです。
…やはりF1村だけの特別な現象なのかなあ(笑)。ではまた。


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