80年代に登場した音楽のコピペ
電子サウンドを押し出した新しい表現
80年代というのは音楽番組が全盛の時代でした。
- ザ・ベストテン
- ザ・トップテン
- 夜のヒットスタジオ
が御三家でしょうかね。
生放送でアイドルや演歌歌手、もしくはニューミュージックのアーティストなどが登場し、バンド演奏にあわせてライブを放送する、というのが共通した特徴でした。
そのシステムは多分にアナログ的であり、出演者の音楽ジャンルを問わずに生歌、生演奏という部分がコンテンツを形成する大きな要素となっていました。

そんな中、異質の登場をしたのがTM NETWORK(TMネットワーク)です。私が記憶する限り、彼らがゴールデンの番組に登場したのは、『Self Control(セルフコントロール)』をリリースしたときだったと思います。1987年くらいのことでしょうか。
それをたまたま観た私は直感的に

なんか…なんか今までのと違うぞ…!
と感じましたね(笑)。まさに“今までに知らないタイプの音楽”の洗礼を受けた、という感覚でしょうか。
というのも、『Self Control』で彼らが歌番組に登場した際、特に演奏という部分において、多分にデジタライズされた音を前面に出していたのです。
それは演奏にシンセサイザーやサンプラー、打ち込みサウンドを多用し、機械制御された電子サウンドを流してボーカルが歌うというもので、当時としてはかなり珍しいアプローチだったと思います。
もちろんそれら電子サウンドの先駆者はYMOであったと思うのですが、私はタイミング的にTM NETWORKでそれらを知ることになったので、彼らのアプローチがかなり新鮮に感じたわけです。
『Self Control』の特徴
では『Self Control』で私が新しいと感じた点を、いくつかあげてみましょう。
機械的なイントロ
『Self Control』は、そのイントロから機械的なサウンドの羅列を感じることができます。
出だしのパーカッション、それに続くシンセサイザーのメロディーラインが多分に人工的であり、今まで慣れ親しんだアナログのイントロと比べると、その違和感が際立ちました。
しかしその違和感はデメリットとなっているわけではなく、その人工感と音質の冷たさ、淡々としたメロディーパターンの繰り返しがとてもクールであり、中毒性を感じさせる新たな魅力を提供していたと思います。
言うなれば“音楽のコピー&ペースト”といった造りをしているようで、ややもすると“手抜き”感も漂いますが(苦笑)、電子サウンド、もしくはデジタルサウンドを演出するという点では、とても新しい表現だったと思います。
抑揚の少ないAメロ
そんな人工的なイントロに続いて、Aメロでは抑揚を抑えたメロディーが設定され、その機械的な電子サウンド感を後押ししていました。ちょっと中森明菜の『少女A』のAメロを彷彿とさせますね。
これを聞いた私の父が

なんだ、お経でも唱えているのか?
と言っていましたが、あながち間違った感想ではないと思います(笑)。
つなぎ音の電子演出
『Self Control』では、小節の区切り部分において打ち込みされた“つなぎ音”が挿入されていました。つなぎ音自体は目新しいものではないのですが、その音質はやはり無機質な効果音に近いものでした。
それが多分に音楽のコピー&ペースト感や、タイマー仕掛けの自動再生感を彷彿とさせ、

プログラム感あふれるサウンドだなあ~。
というイメージを強烈に醸し出していましたね。
これらが受け入れられた背景には、ファミコン等のコンピューターミュージックに慣れ親しんでいた、ということも大きいと思います。
すでに“ピコピコサウンド”を体験していた私たちは、それを受け入れる下地や免疫ができていたのかもしれませんね。
サンプリングボイスの連呼
電子サウンドの特徴として、サンプリングがあります。『Self Control』ではサビの開始合図として、タイトルの“Self Control”というフレーズを、サンプリングボイスで連呼させるという手法を取りました。

このサンプリングボイスには“音をいじった感”がありありと感じられ、作曲者である小室哲哉の“デジタル演出”の強烈な意思表示を感じ取ることができます。
というのも、連呼させた“Self Control”というフレーズは曲のタイトルであり、一番重要なフレーズなわけです。言うなれば曲の顔といってもいいでしょう。
しかし彼はその曲の顔をあえて歪ませ、変形させたわけです。例えるならば、整った顔をあえてバランス悪く整形するようなものでしょうか。
ただ彼はそうしてまでも、曲の“電子感”、“デジタル感”といった効果を優先したわけです。
この手法はかなり衝撃的で、美しさやハーモニーが最重要視されていた今までの音楽シーンにおいて、

音を変形させていいんだ!
という認識を私に与える結果となり、今までの価値観を覆すような驚きを与えたわけです。
マルチプルキーボードのインパクト
以上が『Self Control』における曲の特徴ですが、TM NETWORKはビジュアルにおいても強烈な電子的インパクトを与えました。
それは小室哲哉が演奏する多重キーボードにそのほとんどが集約されると思います。テレビで彼らの歌う映像を初めて観たときに

なんだ…あのキーボードの数の多さは…!?
と仰天したのは、私だけではないと思われます(笑)。

正直な話、

あんなにキーボード、必要ないだろ…
と、誰もが心の中で突っ込んだとは思うのですが(笑)

ただ…なんかすげぇ! 近未来チック!
と、そんなツッコミを吹き飛ばすくらいのインパクトがあったことは事実です。いや、小室哲哉にすれば、絶対に必要な機材数だったのかもしれませんがね(苦笑)。
そしてその仰天ビジュアルは
というイメージ像を、強烈に世間に印象づけることに成功したわけです。
つまりこの『Self Control』は、楽曲とイメージ演出の相乗効果で、TM NETWORKの何たるかを日本中のお茶の間にプレゼンした、特別な曲となったわけですね。
ちなみに小室哲哉が複数台のキーボード操作を行うパフォーマンスに影響を受け、私は今でもマルチタスクを(特に機材操作系で)行う場合は、心の中で

…小室状態!!
と一人つぶやいています(笑)。

小室サウンドの夜明け
このようなTM NETWORKの音楽的試みは、他のアーティストとの大きな差別化となりました。『Self Control』において、日本中に強烈な名刺を放出した彼らは、数か月後にリリースした『Get Wild』にて大ブレイクを果たします。
この『Get Wild』は『シティーハンター』のエンディングテーマにタイアップされたので、それで楽曲とTM NETWORKを知った方も多いのではないでしょうか。
疾走感あふれる楽曲と『シティーハンター』とのイメージが見事にマッチしていたため、とにかくカッコよさが際立つ曲となっていましたね。
このブレイクをきっかけに小室哲哉は作曲者としての確固たる地位を獲得し、90年代につながる小室サウンドを確立していくことになるわけです。
日本中を席巻した小室サウンドの源流がここにあるかと思うと、なんとも感慨深いものがありますね。ただ個人的にはこの源流の小室サウンドの方が、どちらかというと好みなんですけどね(笑)。
おわりに
以上、『Self Control』の思い出でした。
彼らが確立した“電子サウンド”の制作手法は、その後の音楽シーンにおいては当たり前の手法となっていきます。
それは“音楽のコピペ”や“音声の変形”といった表現技法が市民権を得たことを表し、日本の音楽シーンが大きく変遷したことを指し示しているとも言えるでしょう。『Self Control』は、そんな“時代を切り開いた曲”とも言えるのではないかと、個人的には感じています。
ちなみに当時、彼らの音楽を私と一緒にテレビで鑑賞した兄は、数日後には彼らのアルバムをさっそく購入していました。この時はさすがに

やっぱり兄弟って、感性が似てるのかな…?
と思いましたね(笑)。ではまた。


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