80年代に登場したダブルイノベーションRPGソフト
3DRPGへの渇望
1987年というのは個人的にファミコンにずっぽりとはまっていた年でした。
前年度の高校受験をなんとか乗り越え、自分へのご褒美に購入したファミコン。
ずっと我慢して購入しただけに、その稼働率は購入した春先から驚異的な数字を叩きだし(笑)、その数値が上がるのと反比例するかの如く学校の成績はみるみる下がっていったのです。
いわば大きな犠牲を払った上で獲得した禁断の果実ともいえるでしょうか。
そんな果実の中でも、気に入ったジャンルがRPGでした。
ただ当時はドラクエ的2D俯瞰型RPGが主流であり、そのアイコン化された記号的世界表現がいまいちリアリティに欠けているなあという不満もありました。
なので自分目線で冒険ができるゲーム、つまり3DRPGこそがその不満を解消できる、より仮想現実に近いスタイルなのではないかと考えていたわけです。
そんな思いの中発売されたのが『デジタル・デビル物語 女神転生』でした。
当時貪り読んでいた(笑)ファミコン雑誌で“3DダンジョンRPGがナムコから発売される”という記事を見た瞬間に購入を決めました。
実は原題の小説だかアニメだかは知らなかったし、どんな物語でどんなゲームシステムかもよくわからなかったのに、
- 3D視点のRPGである
- ナムコという信頼にたるゲームメーカーから発売される
という情報だけで即決したわけです。
当時はファミコンブームに飛び乗り一攫千金を夢見るメーカーが目白押しであり、それがゆえゲーム業界は玉石混交でソフトが乱立する状態、つまりクソゲーをつかまされるリスクが非常に高かった時代にこの即決。
怖いもの知らずという若者の特権だったのでしょうか(笑)。
結論から言うと、このソフトはいい意味で期待を裏切ってくれました。
期待以上というのはこのことを言うのか、といった感じでしょうか。
それではなぜ私がこのような評価を与えるに至ったのか、そのポイントをつらつらと書いてみようかと思います。
サウンドがすごい
まず一つ目はサウンドです。
カセットを挿入しスイッチをオンにすると鳴り響く稲妻音。プレイヤーの分身たるナカジマとユミコのパラメーターを割り振る画面のBGM。この2つだけで
なんか音がいいぞ
と感じました。
そして本章が始まった瞬間に“タタターーーン!”鳴り響く、ミコンの街のBGM。
その軽快でリズミカルなサウンドは、今まで経験してきたファミコンBGMと比べて明らかに厚みのあるシンフォニーでした。この心地よさだけでまず心を奪われましたね。
このゲームは舞台(ダンジョン)が6つのエリアに分かれているのですが、それぞれにオリジナルのBGMがあり、そのどれもがとても印象に残るメロディーなんですよ。
“ダイダロスの塔”の先の見えない不安を助長するような曲、“天空の城・ビエン”の楽しげな感じの曲、“ヴァルハラの回廊”の重厚かつ不気味な色気のある曲。
“マズルカの回廊”の神秘的で幻想的な曲、“炎の腐海”の激しく追いたてられ急かされるような曲、“アンフィニ宮殿”の冷たくそして幽玄を感じさせる曲、といった感じです。
どの曲もすぐに頭の中で再生できるくらい脳に染みついていますよ(笑)。
また、全体的に曲調がビートやドラムの効いたロックテイストであったことも新鮮でした。
RPGのBGMが世間的に認められたのは、すぎやまこういちが曲を担当した『ドラゴンクエスト』のおかげですが、それはゲーム音楽にクラシックというテイストをふんだんに盛り込んだからだと思うんですね。
その結果RPGのBGMはそれがスタンダードになってしまった感があります。まあ影響力がそれだけ強かったということでしょうか。
しかし『女神転生』のBGMはそれを大きく打ち破ったといいますか、破壊してしまった感があります。
一番顕著なのが戦闘シーンの曲で、初めて敵と遭遇したときはびっくりしましたよ(笑)。
激しいな!
って思いましたから(笑)。
ちなみにこれらの曲を作曲したのは増子司という作曲家です。
彼は次作の『デジタル・デビル物語 女神転生2』でもその才能をいかんなく発揮し、完成度の高かった『1』をいとも簡単に飛び越えたラインナップをずらりと揃えてくれています。
この実績から
やっぱメガテンの曲は増子さんじゃなきゃ!
みたいな、ある種信仰に近い感情を持ったものです。
敵をスカウトして仲間にする斬新なシステム
二つ目は“仲魔”というシステムです。
このゲームは主人公2人プラス3人、計5人のパーティーで冒険をするのですが、その3人を敵からスカウトして調達する、というシステムがかなり新鮮でした。
今までのRPGでは敵は倒すべき相手であり、他の選択肢はないというのが当たり前で、疑う余地もなかったのですが、その敵を味方にできるという斬新なシステム。
しかもスカウトをするためには会話交渉が必要で、その駆け引きがゲームを面白くする一つの要素になっていました。
悪魔のご機嫌を損ねないように金品宝石をちらつかせ、味方に引き入れるまでの緊張感。もはやナンパに近いです(笑)。
このように“戦闘”、“謎解き”、“成長”というRPG不動の3大要素に“交渉”という新たなる楽しみの要素を開発し、追加したという業績は、もはや発明といってもいいレベルだと個人的には思います。
また、仲魔にした悪魔と一緒に闘ううちに、愛着が湧いてくるというのも大きな産物だったと思いますね。
やはり苦楽を共にしたキャラクターというのは思い入れもひとしおですよ。
この感情は勧善懲悪のゲームシステムではなかなか生まれづらい現象であり、プレイヤーが必ずしも正であるとは限らないという今までにない問題提起を掲げると同時に、物語作りの幅を大きく広げた功績があったと思います。
この作品ではそこまで色濃くは出ていませんが、光があれば影もある、どちらが正しいかなんてわからない、といった単純な善悪二元論では図り切れない、ある意味哲学めいた命題の萌芽が垣間見られました。
この命題は次作の『デジタル・デビル物語 女神転生2』では大きくフィーチャーされ、そのストーリーに大きな仕掛けを施すに至ります。
そしてその感性は現在も続く同シリーズの根幹をなしているのです。
神話とデジタルが融合した独自の世界観
三つめは世界観の独自性です。
今までのRPGの舞台は中世をイメージした剣と魔法の世界でしたが、この『デジタル・デビル物語 女神転生』は現世の日本が舞台であり、剣と魔法に加えて神話とデジタルを融合した世界観が特異的でした。
神話というややもすると紀元前まで遡るであろう文化と、デジタルという現代の最先端の文化。
この時間軸的には両極端に位置する文化を物語的に融合させることにより、長い歴史で深く根付いた大いなるもの(=悪魔)の神秘性と畏怖を残しつつ、最新のテクノロジー(=悪魔召喚プログラム)でそれを具現化するという近未来感を巧みに表現することに成功したこの世界観もまた、同シリーズの根幹をなす大きな要素となりました。
この神話をそのまま流用した世界観は、敵あるいは味方として登場するキャラクターに大きな深みを持たせることにも成功しています。
今までのRPGの“敵”はその造形や能力で多くの個性を発揮していたのですが、あくまでそれは“倒すべきもの”でしかなく、障害物を記号化しただけでした。
しかしこの作品における“敵(味方でもある)”は、そのほとんどが世界各地で悠久の時を越えて熟成・醸成されてきた個性をそのまま流用するスタイルをとりました。
つまり歴史の厚みの分だけ個性が深く濃厚なのです。
例えばロキという魔王にはこれこれこういった歴史があり、このような伝説を持っている、というプロフィールが、彼をただの“敵”という記号にはさせないわけです。
制作サイドとしては一からキャラ設定をする必要がないのに、キャラクターが生き生きとゲーム内を闊歩してくれるという恩恵がありました。
ぶっちゃけものすごく合理的かつ効果的なキャラクターメイキングだったと思いますよ(笑)。
革新的な悪魔合体システム
最後はもう、これしかないですよね。そうです“悪魔合体システム”です。
このときはまだ“魔獣合成”という表現だったのですが、これがもう革命的で。
ゲームシステムのイノベーションといってもいいくらいで、このアイデアで“イノベーション補助金”的な、国からの補助金を得られるんじゃないかというくらいの(笑)斬新なシステムでした。
仕組みは名前の通りで、スカウトした仲魔同士を“邪教の館”という場所で合体させ、より強い仲魔をつくることができるというものでした。
これにはプレイをしていて仰天した思い出があります。
この悪魔とこの悪魔を合体させたらどんな悪魔ができるんだろう?
というワクワク感は麻薬的ですらあり、強力な悪魔が登場したときの
おおーっ! つええ!
という達成感や昂揚感は、今までのRPGではまったく味わったことのないものでした。
合体があまりにも面白すぎて、ストーリーそっちのけでスカウトと合体を繰り返すという、大学の研究者のような実験プレイに陥ってしまった方も多かったのではないでしょうか(笑)。
私もその一人で、ファミ通の付録の攻略本に必死でソースと結果をメモっていました。
そんな中、最強キャラのクリシュナが現れたときの感動といったらなかったですね。パラメーターオール20のフルマックス状態でしたから。
その当時の有様をePubにて掲載しておきますので、興味のある方はどうぞ。
ファミ通付録 デジタルデビル物語 女神転生 冒険ハンドブック
敵である悪魔を味方にできるシステムだけでもすごく革新的だったのに、それを合体させてさらに強い味方をつくることができるという、その先をいったシステムをもこのソフトは同時提案したわけです。
言うなればひとつのソフトに1段階目と2段階目のイノベーションが同時にパッケージングされていたわけで、ある種飛び級的な跳躍力でゲーム業界に出現した、画期的なソフトであったと思うんですよね。
おわりに
もちろんこのソフトには手放しで褒められない点も多々あります。
難易度がキツイ、攻略本がないとクリアしづらい、悪魔のグラフィックがちょっとマヌケ、ダンジョンが無駄に広い、などです。
しかしそれを補って余りある革新的なゲームシステムのおかげで、その後このタイトルは“ファミコン4大RPG”の一つとして認識され、システムや世界観を踏襲しつつ発展していきました。
現在のナンバリングタイトルは『真女神転生』となっていますが、これは全9部作になる予定だと当時耳にした記憶があります。
でも30年たった現在で第4部(2016年現在)までしか出てないんですよね。はたして私が生きている間に完結するのかな(笑)?
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