注)この論文は1994年のものです。
第六節 流血・殴る・チラリズム ~暴力・性表現分析~
②性表現
1990年(平成2年)8月、和歌山県の地方紙『紀州新報』に「少年少女マンガ~ドギツイ性描写に批判」という投書が掲載された。それ以来「有害図書排斥」の運動は日本全国に広がり、反響を呼んだ。
『ジャンプ』の連載マンガであった『電影少女(ビデオガール)』(桂正和)も、ある県で有害指定を受けた。とかく批判されるマンガの性表現であるが、『ジャンプ』ではどの程度の割合で表現されているのだろうか。
表20がその結果であるが、サンプルにした『ジャンプ』は「暴力表現」のときと同じく、1992~1994年の3年間・30冊である。分類の規定基準は次の通りであった。
表20 『ジャンプ』マンガ 性表現分析 コマ数、( )は%
1.行動的表現
- キス…男女のお互いの口を身体の一部に対して触れさせるもの、直接口が触れないにせよ(何か物質をはさんでなされる間接キス等)愛情表現の手段として用いられる場合のキス、相手を舌でなめる行為。同性同士においても、それが絵的に性的なイメージを思わせるもの。お笑い要素の強いものは含まない。
- タッチング…男女が触れ合う表現。身体と身体の一部が接触した場合。なお、その場合は愛情表現を感じさせるもの、性的イメージを連想させるものとする。手を握る、肩を抱く、腕を組む、など。同性においても、同様の表現がある場合。お笑い要素の強いものは含まない。
- ペッティング…キス、タッチングにおいて、特に相手の性器に触れるもの。
- セックス…男女、同性の性交シーン、及び動物の交尾。
視覚的表現
- 裸 姿…主に女性を対象にした、胸、または性器の露出。攻撃を受けて服が切り裂かれた場合もこの中に入る。また、完全に露出していなくても性的イメージを連想させるもの、またそういった表現を狙ったもの。ギャグマンガにおける男性器の露出、など。なお、ストーリーにしろ、ギャグにしろ、性的イメージが感じられないものは含まない。
- 下着姿…主に女性の下着姿。もしくは水着姿などで、著しく性的イメージを連想させるもの、またそういった表現を狙ったもの。その他下着に準ずる格好、など。男性の場合、下着の下の性器を誇張するようなもの、またそういった表現を狙ったもの。物体としての下着は、性的イメージを感じさせるもののみ。
性表現をを表したコマは397コマで、全体の49,027コマのわずか0.8%であった。これだけで『ジャンプ』における性表現というものは、ほとんど皆無に近いということがわかる。
それを踏まえて特徴的に言えることは、「行動的表現」よりも「視覚的表現」の方が圧倒的に多く、7割を超えていたということである。
有害理由としてよく挙げられるのが“ポルノ的な性描写”であるが、それらは多く「行動的」なものであり、「視覚的」なものではない。
そう考えると『ジャンプ』マンガには“ポルノ的な性描写”というよりも、女の子の下着がチラッと見えてしまったという“チラリズム”的な性表現がほとんどであり、いわゆる“ドギツイ表現”的なものはない。
「行動的表現」もせいぜい「タッチング」的な軽いもので、「セックス」も5コマとあるにはあるが、これはギャグマンガで笑いをとるために登場した動物の交尾シーンであり、とても露骨な性表現とは言いがたい。
性表現自体増えてはいる(1992年0.4%、1993年1.0%、1994年1.0%)のだが、いかんせん数値的に少なすぎる。こう考えると、『ジャンプ』には目くじらを立てるほどの有害な性表現はないということになる。
ちなみに3年間で「性表現」の割合の多かったマンガは(そのマンガ10冊分の性表現コマ数÷そのマンガ10冊分の総コマ数)、以下の通りであった。
- 『究極!!変態仮面』 (あんど慶周) 1993年(6.8%)
- 『新ジャングルの王者ターちゃん』(徳弘正也) 1994年(4.6%)図27
- 『D・N・A2』 (桂正和) 1993年(4.3%)
図27 性表現の一例

描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方
週刊少年ジャンプ編集部(著)
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