80年代に登場したアナログRPGブック
ドラクエ以前のRPG
RPGという言葉が一般的に認知されて久しいですが、その大部分のイメージはファミコンにおける『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』からもたらされたものだと思います。
しかしファミコンRPGが産声をあげる同時期に、もっとアナログなRPGが存在し、それなりにブームになっていました。
その源流はテーブルトークRPGというジャンルのゲームです。
各々役柄をもった複数名のプレイヤーが膝を突き合わせ、ゲームマスターといわれる物語進行役が誘導していく話に、プレイヤー達が行動を選択していくというシステムです。
そんな冒険譚を、一人で手軽にどこにいても楽しめるように工夫された小説が、この『アドベンチャーゲームブック』でした。
内容としては、冒険を題材としたストーリーがパラグラフで細切れに分かれ、それがランダムに並んで一冊の小説となっているのが特徴的でしたね。
その中で読み手は数々の分岐を自由に選択することができます。
闘ったり、買い物をしたり、騙したり騙されたり、罠をかいくぐったり嵌ったり、謎解きに奔走したり、といった感じです。
そのたびにページをあちらこちらとめくり、様々なストーリーを楽しむことができました。
ただグッドエンディングといえる冒険目的を完遂するストーリーは一つしかなく、それ以外は途中で志半ばにして倒れるというバッドエンディングが待っていました。
そのような結末を選んでしまった読み手は、再度分岐の選択を変えてみたり、アイテムを手に入れてみたりと試行錯誤を重ね、グッドエンディングを目指してチャレンジするわけです。
そのことはこの小説がひじょうにリピート性の高いコンテンツであることを示しています。
ややもすると中毒現象を生じかねない(笑)システムを備えていた小説だったと言えるでしょう。
それだけに読み手にとって主人公への感情移入度がハンパなく、まさに読み手が主人公と一体となって役割を演じる、ロールプレイという名にふさわしいコンテンツだったと思います。
夢中になった『火吹山の魔法使い』
その存在を私が知ったのは、中学生のときでした。
おそらく友達に「おもしろい本があるよ」と教えてもらったことがきっかけだったと思います。それが社会思想社という出版社から発売された『火吹山の魔法使い』でした。
もうね、どハマリでしたね(笑)。今までに見たことのないような斬新なシステム、物語世界への没入感。
“ストーリーを創り出すのは、君自身だ!”という帯のアオリ文句が大げさでない同一感、行動を選択した後にページをめくるハラハラ感、命ギリギリの戦闘。
まあどれをとってみても、少年の冒険心を大きく揺さぶりかつ満足をさせる内容でした。

こんなに面白い本があったのか!
と、感動すら覚えましたね。
この面白さを他の人にも知ってもらいたいと、とりあえず親父に無理やりやらせたりもしました。いい迷惑だったでしょうけど(笑)。
優れた箱庭世界と没入感
隙の少ない世界設定
感銘を受けた上記要素の中でも、個人的にとくに優れていたと思う点は、物語世界への没入感でしょうか。
とにかく根底となる架空舞台の世界観というか、設定がしっかりとしていました。
土台がしっかりと根を張っているので、一度入った想像の箱庭世界と現実世界との通路が少ないんですよね。箱庭の外壁が堅牢で隙が少ないというか。
つまりは没頭できるということです。
これは社会思想社が発刊して初期ゲームブックブームの火付け役となったタイトル『火吹山の魔法使い』や『バルサスの要塞』等の作者であるスティーブジャクソン、イアンリビングストンの功績といえるでしょう。
彼らは物語を作成する舞台に対し、おそろしく細かい個性づけをしていたと思われます。
気候、風土、歴史はもちろん、文化、風俗といったありとあらゆる舞台背景を用意していたのでしょう。
それが箱庭世界の外壁を堅固なものにし、プレイヤーへ物語世界を語る上での充分な説得材料になっていたと思われます。
ファンタジー感あふれる住人たち
また、その世界に住まわせた住人たちも個性に富んでおり、ヨーロッパ神話・民話を核とした妖精や怪物が違和感なく溶け込んでいました。
これは両作者の出身がイギリスであることが大きな要因だと思うのですが、箱庭世界にファンタジー色を彩る上では申し分のない世界観でありスパイスだったと思います。
個人的には民俗学や神話学ともいえる要素が根底に流れている点がとても興味深く、その後の『女神転生2』といった、神話をモチーフにしたファミコンRPGにどっぷりと浸かっていく一因になりました。
イメージを強烈に印象づけるイラスト群
そして隙のない箱庭世界を補完する最終要素としては、リアル志向のイラスト群があげられると思います。
人によっちゃ夜うなされるレベルのタッチのイラストも多く(笑)、脳内に物語世界のイメージを強烈に喚起させてくれました。
もしこれがライトな感じのイラスト群だったら、このジャンルはブームにならなかったのではないかとさえ思います。
それくらいこのイラストの影響は大きく、異世界の恐怖、不気味さ、謎深さを充分に表現し、プレイヤーをその世界観に誘っていたと思います。
ユーザーに寄り添った仕様
本の体裁もユーザーの使いやすさを考えた仕様になっていましたね。
冒険の経過を順次記入していくための“冒険記録紙”が付録でついていたり、2作目の『バルサスの要塞』からはページの上部余白にサイコロの目がランダムに印刷されていたりしました。
そのおかげでページをパラパラと無作為にめくることで、サイコロを用意しなくてもゲームができるようになっていたんですね。
このあたりが非常にユーザーフレンドリーであり、まさにかゆい所に手が届くといった表現が当てはまると思います。
ちなみに私は公式付録の“冒険記録紙”が汚れるのを嫌がり、自作したものを使っていました。神経質な奴だな(苦笑)。
捗るアナログ・テクニック
読み手側も慣れてくると、いろいろ不正をした記憶があります。
戦闘は勝ったことにして読み進めるとか、重要と思われる分岐ページには指を挟んでおき、アナログセーブをするというテクニックも捗りました(笑)。
選んだ選択肢が失敗だった場合、指を挟んだページに戻って(アナログリセット?)再度選択を変えて進むというものです。
ときには進むほどに挟む指が増えていき、4か所位(指の数だけね)セーブポイントを設けたことも今ではいい思い出です(笑)。
おわりに
高校に入ってからはファミコンを手にしてしまったので、小説のアナログRPGを楽しむ機会もフェードアウトしていきました。
それでも私にファンタジーの世界観を植えつけた原点はこのアドベンチャーゲームブックであり、RPGを楽しむという意識の根幹を形成したことは、間違いない事実だと思いますね。

コメント