第72回 クリスタルマン

オレ流超人批評
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南極の凍土の下で、10万年も眠り続けていた古代超人。そんな悠久の寿命と経験値を持つ彼は“与える超人”であり、そのルーティーンはある男に酷似していた…?
出身 南極
超人強度 90万パワー
必殺技

つめたいファイト

主な戦績 宇宙野武士○

登場の背景

 彼は『宇宙野武士編』において初登場しました。

 この『宇宙野武士編』は、ラッカ星からの使者であるビーンズマンの

宇宙野武士に蹂躙されているわが星を救うのに協力してください!

という要請に、地球の6人の超人が応じてラッカ星救出に向かう、というストーリーです。おそらくは黒澤明監督の『七人の侍』から着想された物語設定だったと思われます。

 当時の『キン肉マン』は、直近シリーズの『アメリカ遠征編』が不評で人気が低迷したため、連載初期のギャグテイストあふれるお笑い路線に原点回帰していた頃でした。

 よってシリアスなテイストが強い格闘や戦闘からは、少し距離を置いていた時期だったんですね。

 ただゆで先生としては、手ごたえのあった『超人オリンピック』の再開催を視野に入れていたのでしょうか、このあたりから再度格闘路線のウォーミングアップを始めたように感じます。

 というのも、『宇宙野武士編』ではギャグテイストは残しつつも、戦闘シーンの比率が間違いなく増えているからです。

 いうなればこのシリーズは、ゆで先生があらためて挑戦する格闘路線における、アイドリング的な役割を果たしていたシリーズだったと言えるでしょう。

 そのような背景の中、地球からの主要キャラ6人の中に選ばれたのが、このクリスタルマンだったのです。

▲七人の侍(笑)

受け継がれる設定と演出

 彼は南極の凍土の下で、10万年にも及ぶ眠りについていたところを、ビーンズマンたちに起こされました。

 その登場の仕方はかなりセンセーショナルで、彼を探すビーンズマンたちに対し、

わたしならおまえたちの下にいる!

と、彼らの足の下の氷の中で、横たわっている状態で自身の存在をアピールするというものでした(笑)。

 その姿はまさに“灯台下暗し”ということわざを、地でいっているようなデビューだったと言えるでしょう(笑)。

 実は彼の“風景に紛れる登場シーン”の手法は、その後の『キン肉マン』において、何回か応用されています。

 その最たる例は、7人の悪魔超人の一人であるザ・魔雲天の、山に紛れて登場するシーンでしょう。

 また、夜空の星々が集って登場したプラネットマンや、会場のテレビカメラが合体するミスター・VTRなども、

背景から敵が登場したっ!

という点では、クリスタルマンの登場シーンの応用と言えるのではないでしょうか。

 また、“氷漬け”という表現に関しては、その後マンモスマンがそれを受け継いでいますし、

10万年ねむりつづけた

という時間演出は、ネプチューン・キングがテームズ川で喧嘩男ケンカマン

数10万年待ち続けた

という設定で再び利用されています。

 このように、彼のキャラ設定や演出法は、その後のストーリーや主要キャラクターに引き継がれており、実はその源流が彼であることに気づかされます。

フォルムと性格

 彼の出自については投稿者の情報がないので、中井画伯のオリジナル超人の可能性が高いです。

 なぜゆで先生が、7人のうちの一人を南極出身の水晶クリスタル超人にしたのかはよくわかりませんが、“クリスタル”というモチーフを、『コブラ』に登場する悪役である“クリスタル・ボーイ”や、当時大ヒットした『大都会』という歌謡曲を歌った“クリスタルキング”から拝借したのかもしれません(笑)。

 そのフォルムは南極の超人らしく、氷を切り崩したようなデザインをしています。氷柱彫刻という表現が一番しっくりくるでしょうか。

 顔のタイプ的にはサンシャインを筆頭とする“モアイタイプ”であり、あまり感情が表に出ない造形をしています。

 それは“何を考えているかわからない”というミステリアスなイメージを醸し出すとともに、冷静かつ沈着な印象を読者に与えています。

 実際の話、彼は七人の侍(笑)の中では、一番冷静なキャラとして描写されていたと言えるでしょう。

 特に分裂を繰り返し、不死身の特性を持つ宇宙野武士の弱点を

たとえば胸のハート!

と、クールな仕草で突き止めたムーブは、彼の冷静さをより印象強く表現していたと言えるでしょう。

 もちろん多数の読者が

そりゃあ、あれだけわかりやすくハートが露出してりゃさ…

とツッコんだのは重々承知しているのですが(笑)、その手柄の締めに

みろ

と、ドヤ顔で力強く言葉を発するクリスタルマンは、そんなツッコミを強引にねじ伏せるほどイカしていました(笑)。

 このように、出身地である南極の気候を反映したかのようなクールさを持った彼ですが、ビーンズマンの要請に対して“ミルク金時食べ放題”という報酬で

のった!

と釣られてしまうお茶目さがあったり(笑)、仲間の変身超人プヨプヨをマスコットのように自身の左肩に乗せてポーズを取ったりするという、読者をほっこりさせる部分があります。

▲プヨプヨとほっこりポーズ

 それは彼の所属が紛れもなく“正義超人”であり、基本的に彼が弱きを守る、心優しいヒーローであることを、物語の端々にふりまいていたとも言えるでしょう。

格闘能力と超人強度

 そんな彼の強さはいかほどだったのでしょうか。

 彼は宇宙野武士を容易に蹴散らしているので、それなりに高いレベルを持った超人なのではないかと思われます。それこそ一発で野武士の首を軽く蹴り飛ばしていましたからね(笑)。

 ただ残念なことに、彼には試合の描写がないので、1対1の闘いでどれくらい強かったのかはよくわかりません。

 ですので、その強さに関しては我々の想像と、彼の超人強度から推し量るしかないというのが実情です。

格闘能力

 そのような視点から考えると、彼は“南極の超人”というキャラクターを持っていただけに、その格闘能力を膨らませるポテンシャルは無限にあったように思えます。

 それこそ作中で記載されていた『つめたいファイト』の一環として、

  • スリーパーをかけながら相手を氷結させる
  • 凍える息吹を吹きかける
  • コブラツイストで相手を氷柱フィギュアにしてしまう(笑)

といったように、素人が考えるだけでもいろいろと想像が膨らみます。

 また、透明のボディという特性を利用して

  • 透過する光を増幅させた目くらまし攻撃
  • 凸レンズ的なプリズム熱戦攻撃

といったような技も可能だったのではないでしょうか。

 そしてここまで書いていて、ハッとするわけです。

それ…プラネットマンやヘイルマン、そしてプリズマンがやってんじゃん

ということに(笑)。

 つまり彼の格闘能力の可能性は、彼自身を高めるためではなく、他のキャラクターに譲渡されてしまったわけです。

 それは前述した“凍土からの登場”や“10万年単位の時間”という演出法が、他のキャラクターに譲渡されたのと同様に、彼は自身の特性を惜しげもなく他キャラに分け与えた存在であったとも言えるでしょう。

 ある意味彼はとんでもなく懐の深い、”個性のプレゼント超人”だったのかもしれません(笑)。

超人強度

 そんな太っ腹超人たる彼のもう一つの特筆すべき点はその超人強度で、なんと彼は90万パワーという、正義超人のカテゴリーとしては突出して高い超人強度を保有しています。

 それは正義超人の中でもエリートである“アイドル超人”の面子と比較してもまったく遜色がなく、かなり高い扱いを受けていることがわかります。

▲超人強度はかなり上位

 もちろんこの超人強度は後付けの設定ですので、彼が宇宙野武士の胸のハートを射抜いていた頃にその設定はありませんでしたが(笑)、それでもかなり高い評価であることは間違いないでしょう。

 この設定をゆで先生が直々に行ったのか、それとも編集担当などの関係者が行ったのかはわかりません。

 いずれにせよ、これは彼がラッカ星で闘いを共にした仲間であるキン肉マン、テリーマン、ラーメンマン、ブロッケンJr.と、同じレベルの力を持っていた、という設定者側のメッセージであると思われます。

 つまりそのような設定を行うことで、

彼ら4人と遜色ない実力者だからこそ、ビーンズマンのスカウトを受けたんでしょ

という読者の印象操作ができ、ビーンズマンが彼に白羽の矢を立てた根拠をより説得力のあるものにしているのです。

 このように、超人強度という設定は、リアルタイム時での連載中ではなく、時間を置いてからでもキャラクターの個性を膨らませたり、印象を変化させたりすることが可能です。

 それは露出がなくなった超人ですら、この数値操作一つでキャラクターとしての息を吹き返し、彼らの寿命を永らえる効果があることを意味します。

 そういった面でも、この超人強度というものは本当によくできたシステムであり発明であったと、今さらながら思いますね。

 以上のように、事後に付加されたイメージも含めて彼の強さを想像すると、

アイドル超人として活躍していた可能性もある…かも?

という夢をみさせる超人だったように感じますね(笑)。

オーディションで落選?

 しかしながら、クリスタルマンはその後目立った活躍をする機会もなく、モブキャラでたまに登場するくらいの、影の薄い超人としてそのキャリアを終えました。

 結局彼は『宇宙野武士編』という1シリーズのみの活躍で、そのキャラ人生を終えたわけです。

 これについて、ゆで先生がはじめからそう設定していたのか、それともひょっとしたら超人オリンピックにも登場させようとしていたのか、それはわかりません。

 ただ個人的に感じるのは、

彼はオーディションに落ちたのかもしれない

ということです。

 何を言っているのかというと、この『宇宙野武士編』は、実は次シリーズで開催が決定していた2回目の超人オリンピックに出場できるキャラクターの選別会も兼ねていたのではないか、という推測です。

ブロッケンJr.登場の違和感

 というのも、このシリーズでブロッケンJr.がデビューしたことが、私としてはどうもしっくりとこないんですよ。

 彼はこの時点で、父親を惨殺されたラーメンマンに対し、復讐の怨念で満ち満ちていたわけです。

 つまり彼の“敵討ち”というテーマで話を盛り上げたいのならば、当然超人オリンピックがベストタイミングであるわけだし、ブロッケンJr.のデビューも、その時の方がセンセーショナルだと思うのです。

 しかし彼はベストタイミングたるオリンピックより前にデビューをはたしました。そしてラーメンマンに報復するかと思いきや、

他の星の人びとがこまっている時に…そんなこともいってられねえやな

という、妙に物分かりのよい展開でストーリーが進んでいきます。

 その結果、彼の復讐のベクトルは一旦宙に浮くことになり、その怨念は腰を折られた状態になってしまいました。

 そしてその有様を見たときに

彼の怒りって、そんなに簡単に制御できる程度のものなのかな?

という違和感を私に与え、作品中に妙な空気が漂うのを感じさせたのです。

 そんな感じだったので、このシリーズでのブロッケンJr.の投入というのは、少々フライングだったように思えるんですよ。

プレデビューという実験?

 ではなぜそんなフライングを犯したのかと考えてみたところ、ゆで先生が

2世キャラがどこまでファンに受け入れられるのか

という事前リサーチを行いたかったのではないか、と思いました。

 ひょっとしたら、ほぼほぼデザインを流用したキャラクターが、読者に“手抜き”と評価されるのを恐れたのでしょうか。

 もしくは今後ぜひとも育てたいキャラクターとして彼がいて、本番(超人オリンピック)の前に、その評判を確かめたかったのかもしれません。

 これをジャニーズで例えるならば、デビューする前のジュニア所属時にユニットを組ませ、ある程度活動させて反響を見てから本デビューに至るという、プレデビュー的な戦略でしょうか。

 …同じ“ジュニア”なだけに(笑)。

▲まずはジュニアのユニットからデビュー(笑)

 もしそのような思惑があった仮定とすると、ゆで先生が

だったら『宇宙野武士編』を、超人オリンピック出場キャラのオーディションにしちゃえ

と考えるのも、あり得ない話ではないような気がします。

 そして読者の反響を見たところ、ブロッケンJr.は評判がよく、クリスタルマンとプヨプヨは残念ながらそうでもなかったと(苦笑)。

 ひょっとしたらそんな厳しい現実があって、クリスタルマンはわずか1シリーズで姿を消してしまったのかもしれません。

古代超人という特異性

 では結果的に作中でこのような扱いとなった彼にとって、それが不幸だったのかどうかを考えると、

実はいうほど不幸ではなかったのかも…

と、個人的には感じています。

 というのも、彼は現役世代の超人ではなかったからです。前述したように、彼は

10万年もねむりつづけた

という超人であり、その年数を考えると古代の超人にカテゴライズされる超人だと思うんですよ。

 そう、言うならばネプチューン・キングや完璧超人始祖といった方々と肩を並べるような、悠久たる時間軸の中で生きている超人なんです。

 そんな彼にとって、若者がこちゃこちゃと開催しているイベント(笑)には、そもそも興味がなかったと思われます。

 もちろん若い頃は興味があったかもしれませんが、“格闘技術の競い合い”や“最強”といった承認欲求を満たすことは、すでに何万年も生きてきた彼にとって、とうの昔に風化した価値観であった可能性が高いわけです。

 おそらく我々が作品中で見たときのクリスタルマンのライフスタイルは、

好きなときに起きて、気が向いたら人助けをして、また眠る

といったような、仙人マインドのフェーズに入っていたように思えます。自然のままにというか、時の流れに身をまかせるというか(笑)。

 例えるならば、定年を迎えた社会人が、晩年にさしかかった第二の人生を楽しんでいる姿、とも言えるでしょう。だからそこにガツガツとしたものはないんですね。

それは若いもんにまかせよう

みたいな(笑)。

▲こんな感じ?

 そして若者が助けを求めに来たときには、自身の膨大なキャリアの一部を開示し、陰ながらフォローをしてくれる存在なのです。

 そう考えると、ラッカ星における彼の活躍というのは、まさにこの範疇に入っているものだと思うし、その時代に助けを求めに来た若者が、たまたまビーンズマンだったわけです。

 ですので、彼はその後の活躍がなかったからといって、それは彼にとっては別段不幸ではなく、

長らく流れる時間の中の、一瞬だけを切り取って一喜一憂してどうするの?

という、古代超人ならではの達観した境地からすれば、取るに足らない、とても小さなことなのだと思います。

 そして彼はまた、何事もなかったかのように10万年という単位での眠りにつくという、自身のルーティーンを当たり前のように行うのでしょう。

おわりに

 以上、クリスタルマンについての考察でした。

 彼が現在すでに眠りについているフェーズなのかどうかは、よくわかりません。『キン肉星王位争奪編』においては、ネプチューン・メッセージに応えて大阪城に駆けつけているのが確認できますからね。

 ただ彼のルーティーンが本当に

超眠る➡起きる➡大活躍➡超眠る

という繰り返しだとすると(笑)、ここで…似たようなキャラクターが存在することに気づいてしまうんですよ。

 皆さんはわかりますか? それはですね…

これって…『こち亀』の日暮巡査と同じ設定じゃん…

という事実です(笑)。

 そうなんです。彼は4年に一度、オリンピックの年に登場することで有名な日暮巡査と、実は同じキャラ特性を持っているんですね。これは今回彼について書いていて、一番びっくりしたことです(笑)。

▲実は同じ路線(笑)? ©秋本治

 このような視点でみると、日暮巡査同様、クリスタルマンの次回の登場に俄然注目が集まりませんか?

 ですので皆さん、10万年後の『キン肉マン』を、私と一緒に楽しみに待ちましょうよ…え? 長すぎる? だったらミルク金時を持参して、少し早めに起きてもらいましょうかね(笑)。

今回はガチャリンコさん、近藤さん、牛丼卵味噌汁さん、ポッポしゃんさんほか、たくさんの方からリクエストをいただきました。ありがとうございました。

【リクエストはこちらから】

    コメント

    1. つかさ より:

      出ました クリスタルマン
      個人的には好きな超人で
      シシカバ・ブー 同様に
      実はかなりの強豪超人では?
      と考えてるキャラです

      10万年の眠りと (クリスタルマン)
      10万年の待機 (ネプキン)
      もしかしたら かつてはラージナンバーズだったとか妄想もしましたが…
      流石に90万パワーでは無理でしょうね

      真偽は定かでは無いですが
      彼をリファインしたのが プリズマンだとか?
      性格は引き継いで無いですが(笑)

      • アキラ アキラ より:

        つかささん、こんにちは。

        そうなんですよ。シシカバブーと並んで、突出した超人強度を持っているんですよね。でもなんかあくせくしていないというか、泰然自若というか。

        そのあたりも彼の魅力なのかもしれません。もしネプキンとタッグを組むことがあったら、チーム名は『Hundred Thousand』でしょうか。蝶野選手のつくった『TEAM Two Thousand』みたいですね(笑)。

        • ワタル より:

          宇宙野武士編のジャンプ掲載は1981年の年明け頃と記憶しますが、前年はクリスタルキングの「大都会」に続き、田中康夫の小説「なんとなく、クリスタル」が大ヒットし、クリスタルは流行語大賞的なワードになっていました。町田の東急百貨店の新旧館連絡通路が「クリスタルブリッジ」と命名されたり。
          おそらくゆで先生も名前から先に入り、そこから属性を考えていった可能性が高いと思われます。
          次シリーズの超人オリンピックで初登場するウルフマン、キューブマンと同じく、打ち切り危機を回避するべく世間の流行を必死に取り入れていた時期ならではの超人と言えるかもしれません。

          • アキラ アキラ より:

            ワタルさん、こんにちは。

            そうでしたね、田中康夫さんの「なんとなくクリスタル」、ありましたね。確かに巷にクリスタルが蔓延していた時代だったかもしれません。

            でもゆで先生の必死のテコ入れで人気が無事に回復してよかったです。もしあそこで打ち切りだったら、今の連載はおそらくなかったでしょうからね。

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