第74回 クロエ(前編)

オレ流超人批評
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ケビンマスクに付き従う謎の超人。セコンドとして、トレーナーとして類まれなる手腕を発揮した“漆黒の脳細胞”が、超人オリンピックにもたらした功績とは?
出身 ロシア
超人強度 100万パワー
必殺技

マッハ・パルバライザー
パロスペシャル

主な戦績 戦績なし

作品における師弟関係

 『キン肉マン』という作品においては、師弟関係を持つ超人が数多く登場します。

  • カメハメとキン肉マン
  • ロビンマスクとウォーズマン
  • サタンクロスとアシュラマン
  • ネプチューン・キングとネプチューンマン

 有名どころではこんなペアでしょうか。ラーメンマンとブロッケンJr.もここに入れてもいいかもしれません。

 このように、パッと思いつくだけでもこれだけ出てきます。他にもいろいろいますけどね。

 この“師弟”という関係性は、物語に深みを与える大きな要素となりやすいため、鉄板の演出要素といえます。

 その鉄板演出の中でも、作品中その関係性が極めて色濃く描かれていたのが、ロビンマスク&ウォーズマンの、いわゆる『超人師弟コンビ』だったのではないでしょうか。

▲関係性が特に色濃い超人師弟コンビ

 もちろん主人公であるスグルとカメハメもかなり濃厚な師弟関係を築いているのですが、ロビンとウォーズマンは

  • 技術の伝承
  • 選手とトレーナー
  • 選手とマネージャー
  • 選手とセコンド
  • 共に悪と立ち向かった戦友
  • 人質とその解放者
  • タッグチームでの共闘
  • 記憶喪失者とその覚醒案内人

といったように、両者の関係性がパターンを変えて、様々な角度から描かれていました。

 その中でも特に現役の正義超人として、共に最前線で闘ってきたという事実が、この師弟に特別な思いを抱かせるのかもしれません。

 師弟関係を描くマンガは数あれど、その師弟が主力キャラで同時に活躍するパターンって、実はあまりないケースなんですよね。

 だからこそあの二人の関係性の描写というのは、作品中でも突出しているのでしょう。

 そして時は流れ、『キン肉マン』は息子の世代の物語である『キン肉マンⅡ世』にその舞台を移します。

 この『キン肉マンⅡ世』はその舞台設定上、前作の『キン肉マン』以上に超人の師弟関係が多く登場します。

  • ラーメンマンとキン肉万太郎
  • サンシャインとチェックメイト
  • ブロッケンJr.とジェイド
  • ベンキマンとウォッシュアス

 こんな感じですね。

 まあタイトルに“Ⅱ世”がはいっているし、“新世代超人ニュージェネレーション”という超人カテゴリを物語の中心としていることから、前世代の教えを受けるという環境が整っていたんですよね。

謎めいた登場とフォルム

 そんな環境の中開催されたのが、復活した超人オリンピックである『超人オリンピック・ザ・レザレクション』です。

 その予選競技である『二人三脚でZEIZEI』において、クロエは群衆の中からケビンマスクにパートナー指名され、初めてその姿を我々読者の前に現します。

 ただその時に彼はケビンとアイコンタクトを交わしているので、

…なんだ、このタヌキみたいな超人は…?

ケビンとどんな関係が…?

と、突然登場した彼を誰もがいぶかしんだと思われます。

 その正体は皆さんご存知の通りウォーズマンなのですが、この時点で

クロエ=ウォーズマン

と予想できた方は少なかったのではないでしょうか。

 その容貌は王冠を思わせる頭部装飾と、詰襟の宮廷服を思わせる上着により、凛としたたたずまいを感じさせます。

 とはいえ詰襟の上着が短すぎるのは皆さんご承知の通りなので

採寸、ミスったのかな?

と我々を少々不安にさせたり、胸から下が全身タイツむき出しなので

下を履き忘れて半裸で歩いている人みたいだ

と、妙ななまめかしさを感じるファッションセンスでもありました(苦笑)。

▲採寸間違えた(笑)?

 それはさておき(笑)、ケビンマスクがイギリスの超人であることを思うと、彼が王侯貴族に仕える従事者、というイメージを連想させるには充分な出で立ちでしたよね。

 実際の話、彼はケビンの呼びかけに対して

…ハッ!

と歯切れ良い返答をしていたので、それこそ

彼はケビンの従者なんだろうな

という印象を強く感じました。

 そんな主従演出があったため、実は彼こそがケビンを導く師匠であったという驚きの事実は、この時点ではなかなか予想がつきづらかったと思われます。

クロエの功績

 そんな謎めいた登場をはたした彼は、結果的にはこの『超人オリンピック・ザ・レザレクション編』において、大きなドラマを提供する中心人物となりました。

 強者が一堂に会し、トーナメントにて最強を決めるという王道で胸熱な展開をシリーズの縦軸とするならば、彼のもたらした人間ドラマは、その縦軸に深みを与えた高精細な横軸といえるでしょう。

 そしてその両軸が折り重なることで生じるキメの細かいストーリーが、このシリーズを大きく盛り上げ、私たち読者から高い評価を受ける結果となったのは間違いありません。

 そう考えるとその横軸を提供したクロエの功績はとても大きく、闘いの当事者ではないキャラクターが、ここまでシリーズにおけるキーポイントプレイヤーとなるのは極めて珍しいことといえます。

 では具体的にクロエがシリーズにもたらした功績とは何だったのか、考察していきましょう。

シリーズ全体に謎と緊張感を与えた

 前述したように、彼は出自不明のステイタスで突然誌面に現れた謎の超人です。ただメインキャラであるケビンマスクと行動を共にするということで、

何か大きな秘密があるキャラなのだろう

というイメージを植えつけることに成功します。

 それは両者の関係性をあれこれと詮索する楽しみを与えることにつながり、試合そのものを楽しんだり、勝敗の予想をするという楽しみに加え、もう一つの楽しみを読者に提供したことになります。

 そしてケビンがトーナメント決勝戦まで勝ち進んだため、彼の謎はシリーズ全体をも包み込むことになりました。

 さらに一試合ごとにその謎の一部を開示していくというスタイルは、長丁場におけるシリーズの弛緩を防止し、セクションごとに読者を引きつけることで作品からの離脱を阻止する効果があったと思われます。

…誰なんだ、クロエって…

あの言動…ひょっとして…アイツか…?

あっ! これは決定的瞬間では!?

オレわかっちゃったよ!

こんな感じでしたかね、皆さん(笑)。

 とはいえ、シリーズ中盤からは

クロエ=ウォーズマン

ということは公然の秘密となっており(笑)、謎解きという点では易しかったかもしれません。

 しかしながら、その答え合わせを最後まで引っ張ることで読者を惹きつけ続けたテクニックは見事というほかはなく、

答えはわかってるんだけど…それがハッキリするまではやめられねえな!

という人間の心理を突いた戦略タクティクスは、コンピューター超人の面目躍如といったところでしょうか(笑)。

 そしてその戦略は、物語の最後に閃光とともに訪れるウォーズマンの登場シーンを、よりカッコよく印象深いものにしているのです。

セコンド対決という新たな対立構造を作った

 彼は常にケビンマスクのセコンドとして試合に帯同し、適宜戦略やアドバイスといったフォロー行動を貪欲に行いました。

 そして決勝戦では万太郎のセコンドについた農村マンと、リングサイドから選手を最適に行動させる“セコンド対決”を繰り広げています。

 この“セコンド対決”という描写はひじょうに珍しい対立構造であり、ある意味バトルマンガの表現技法における発明であったともいえるでしょう。

 というのも、バトルマンガにおける闘いとは、とんでもない能力者同士のガチンコ対決が基本です。

 よってその試合展開や勝敗については、そのキャラ自身が持つ特性や技術、修練や精神に大きく左右されます。

 そして闘いにおける攻防の選択権はすべて闘うキャラ自身にあり、言うなれば闘いとは自己責任行動の極みなわけです。

 そのような描写特性が多いバトルマンガの中で、

  • セコンドが闘いの攻防選択権の比率を高く持ち
  • 相対するセコンドと適切な指示技量を競う

という“リング外での高度な駆け引き”を対立構造化し、バトルの柱のひとつにまで押し上げた表現描写は、このケビンマスクvsキン肉万太郎が初めてだったのではないでしょうか。

 この描写によってケビンと万太郎の決勝戦は、1対1のシングルマッチからタッグマッチとはまた異なるテイストの、2対2の闘いとなりました。つまり

  1. ケビンvs万太郎(フィジカル戦)
  2. ケビンvs農村マン(心理戦)
  3. クロエvs万太郎(心理戦)
  4. クロエvs農村マン(心理戦)

といった、1フィジカル戦と3心理戦という4つの対立構図ができあがったわけです。

 これによりこの試合は4名のキャラの思惑が深く入り混じった濃密なシングルマッチとなり、超人オリンピック決勝戦にふさわしいドラマを彩った、心に残る名勝負となったわけです。

ケビンの更生を導いた

 ケビンマスクの超人オリンピック出場は、それまで悪行に手を染めていた彼がそこから脱却し、本来あるべき正義超人という枠組みに復帰するための重要なイベントでした。

 彼が悪行超人から足を洗ったのは、万太郎 vs MAXマン戦後に所属していたデーモンプラント(d.M.p)に愛想をつかしたこと、そして万太郎と旧友たるスカーフェイスとの一戦を観て何かを感じたことが大きな理由だと思われます。

 それはプロレスの用語でいうところの“ベビーターン(フェイスターン)”であり、彼にとっては“更生”という人生の大きな転換点であったわけです。

 そんな転換期において、クロエはトレーナーとしてケビンを指導することで復帰の道筋を照らし、彼の更生を大きく導くことになるのです。

 その関係性は師弟でありながらも、多分に“不良少年と保護司”といった側面も感じさせ(笑)、ドロップアウトした息子を放置したロビン(笑)の代わりに、それこそ

コーチ料はタダでいい

と、クロエがボランティアでケビンの更生を手助けしたことになります。

▲ケビンも無事に更生

 このあたり、後述する“師匠への恩返し”という彼の心意気が強く表れていて、前作からロビンと彼の関係性をよく知る我々にとっては、とても胸熱い展開だったわけです。

 そして見事な復帰を飾ったケビンが、その後正義超人として獅子奮迅の活躍をしたことを考えると、その礎を作ったクロエの指導法と手腕、そしてその義理堅い心意気は、ひじょうに高く評価されるべきだと思います。

三世代にわたる稀有な描写を行った

 クロエは“セコンド対決”という新しい対立構造を確立したこと以外にも、“孫弟子育成”という、バトルマンガにおいては初となるかもしれないムーブメントを起こしています。

 そしてそのムーブメントは

ロビン➡(ウォーズマン)クロエ➡ケビン

の三世代に渡る格闘技術の伝承という、ひじょうにロマンあふれるストーリーを読者に提供してくれました。

 前述した通り、師弟関係にあるキャラクターというのは『キン肉マン』という作品において、多数のペアが見受けられます。それは他の作品においても同様です。

 つまりそれは“ありふれた設定”であると言い換えることもでき、目新しさという点ではそこまで革新的な表現とはいえません。

 しかしこのクロエとケビンの関係は同じ師弟関係の中でも、“第2世代➡第3世代”にかけた師弟関係であり、ありふれた“第1世代➡第2世代”という従来の師弟関係描写とは大きく趣が異なっています。

 そして私はこの“第2世代➡第3世代”にかけた師弟関係の描写を、クロエとケビンとの関係性以外、他に知りません。もちろん

いや、そういう設定の作品もあるよ?

というご意見もあるかもしれませんが、彼ら三世代ほど多くの時間を割き、濃厚かつ丁寧にその師弟関係を描写したキャラクター群というのは、かなり稀有なパターンだと個人的には感じています。

 そしてその“稀有なパターン”こそが彼ら師弟における大きな価値の一つであり、それは『キン肉マン』という作品が世紀を超えて連載が続いている作品だからこそ、はじめて可能な表現だと思うわけです。

恩返しという崇高な話を添えた

 これまで様々なクロエの功績をあげてきましたが、何と言ってもこれが一番大きな功績でしょう。

 彼がケビンのトレーナーを買って出たという動機は

ロビンに受けた恩を返すため

であったと、彼自身が口にしています。

 彼は地下に埋伏してやさぐれていた自分を見出し、師匠としてアイドル超人という陽の当たる場所に導いてくれたロビンに深く恩義を感じていました。

▲陽の当たる場所に躍り出たウォーズマン

 そして前述した通り、彼はロビンがさじを投げたケビンの更生を買って出るとともに、ロビン&ウォーズマンでは達成できなかった、超人オリンピックの優勝およびキン肉族打倒を、世代を超えて達成することで、その恩返しとしたわけです。

 このように見返りを求めない彼の行為は、

なんて高尚な…

という大きな感動を読者に与えました。

 そしてその行為はシリーズに崇高なストーリーを添えることとなり、試合を遠くから見つめていたロビンに

あいつ…粋な真似をしおる…

とホロリと呟かせるほどの深みを、物語に与えることにつながったわけです。

まだまだ終わらないクロエ考察

 以上、『超人オリンピック・ザ・レザレクション編』においてクロエがもたらした功績についての考察でした。

 これだけでもクロエの魅力を存分にご紹介できたと思いますが、まだまだ彼には魅力の引き出しがあります。

 ということで、『オレ流超人批評』においては初となる前後編に分けて彼を語ろうと思います。

 次回は本懐を遂げた彼の手腕についてクローズアップしていきたいと思います。ではまた。

今回はルシアさん、小森さん、高橋さん、戦争LOVEさん、サナさんほか、たくさんの方からリクエストをいただきました。ありがとうございました。

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    コメント

    1. つかさ より:

      超人批評初の続編で斬新さを感じました
      毎回 楽しみに拝見させて頂いています
      確かに初登場のクロエをウォーズマンと見抜いた読者は少ないと思います

      因みに 三世代の師弟関係で
      ブロッケンマン ⇒
      ブロッケンJr. ⇒
      ジェイド
      と言うのを思い付いてしまいました
      ブロッケン親父の活躍が少ないので微妙でしょうか?

      更に
      スニゲーター ⇒
      スニゲーターJr.(本名不明?) ⇒
      MAXマン
      …と言うのは論外ですかね? (笑)

      • アキラ アキラ より:

        つかささん、こんにちは。

        私も初見ではクロエがウォーズマンであるとは見抜けませんでしたね。超人なのか、人間なのかすらわからなかったですから(苦笑)。

        そして3世代師弟関係ですと、おっしゃる通りのキャラがいるのですが、濃厚な師弟描写があるという点では、やはりロビン⇒ウォーズマン⇒ケビンだけになるんですよね。

        ぜひ後編もご期待ください。

    2. ケビンマスク より:

      二世好きなので批評をやってもらえて嬉しいです。
      今更ですけどクロエは親友の息子である万太郎のマスクをケビンが剥がそうとしてるのを止めなかったりしたのが気になりました。後はイリューヒンを上空から叩き落とすのを容認したのも正義超人としてどうなのかと思いました。

      リクエストどこに書いていいのか分からないのでここに書かせてもらいますが私はケビンマスクをお願いしたいです。

    3. たけ より:

      ケビンマスクがロビンマスク系の技とウォーズマン系の技を両方使えるのだから(パロスペシャルのようなウォーズマンのオリジナルホールドもロビンが教えたことになってしまったけど)、万太郎もラーメンマン系の技も使えるようになっていれば、面白かったと私は思いました。というか、これじゃケビン、チートに強すぎなので、万太郎もそのぐらいじゃなきゃ対抗できないだろうと思ったのが本心です(笑)

      • アキラ アキラ より:

        たけさん、こんにちは。

        そうなんですよね、ケビンってかなり“いいとこどり”のキャラなんですよね。たしかに恵まれています。
        実は後編で万太郎とラーメンマンの師弟関係について、少しだけ言及しております。お楽しみに!

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