良さに気がついたのは大学1年のときです。たしか家の風呂釜がいかれたとかの理由で、仕方なく行ったのがはじまりでした。

2~3日は銭湯で我慢して
と母親からいわれたときは

えーっ、ふざけんなよー、銭湯かよお。めんどくせーなー
というのが率直な感想でした。
というか、見知らぬ人にチ○コをみられるのが嫌だったのが、その理由の8割でした。19歳というのもまだまだ思春期なんだなあ。いやー、青い青い(笑)。
というわけで、致し方なく銭湯に通ったわけですが…あれ? なんか…イイ。想像してたのより、全然イイ。
私が通った銭湯は、駅近くの昔ながらの銭湯で、壁に富士山が描いてあるような典型的な銭湯でした。それがまたよかった。

「男」と染まったのれんをくぐり、まず目にはいる入り口の下駄箱。そこに備え付けられた、やたら大きい木製のカギが、暖かい情緒を感じさせる。
そしてドアを開けた瞬間に感じる、ノスタルジックな空間。『時間ですよ』とか『こち亀』にでてくるような銭湯シーンが心をよぎる。
番台のおばちゃんはお金を受け取ると、正面に据えられた小型テレビに目をもどす。番組は相撲だったりする。
ほのかに暖かく湿った空気が充満し、板張りの床をロッカーに向かって進む。籐で編まれた籠が、数個重なっておいてある。その雰囲気がたまらなく良かったが、今回は使用せずに衣服をロッカーにしまう。
浴場の入り口手前に、これまた“これでもか”というくらい銭湯的な体重計がおいてある。ちょいと周りを見てみると、『丹波哲郎の大霊界』の色あせたポスターが壁に貼ってある。

いつのポスターだよ、いったい…
と苦笑しつつ浴場にはいる。…広い。いや、決して広い銭湯ではないのだが、家の風呂と比べたらとても広い。

夕方に訪れた銭湯の客は、老人と子どもが数人しかいなかった。
カポーンという、桶を置いたときに響く音、ザアーというかけ湯の音。すべてが反響音のせいか、とても心地いい。
そして普段味わえない湯船の広さ。足をのばして入浴できることの、予想以上の快感。そのとき私は思った。これは…ヒールスポットだ…。
まずノスタルジーあふれる空間・アイテム作用により、精神をヒーリング。反響音のシンフォニーで脳をヒーリング。入浴で肉体をヒーリング。この三位一体の織り成す効果には、あなどれないものがある。
浴場をでると、天井に備え付けられた扇風機の風をうけながら体を拭く。心地よい。
籐の椅子に座りながら、ジュースで一服。基本はフルーツ牛乳だ、いや、コーヒー牛乳だと諸説あるが、私はイチゴ牛乳がお気に入り。
壁に設置された鏡にむかって軽くマッチョポーズなどしているうちに、ほてった体がじょじょにクールダウンしてくる。

外に出ると、また予想外の気持ちよさがある。自転車のペダルをこぐたびに濡れた髪を通り抜けていく風が、非常に心地いい。銭湯は夕暮れ時にかぎる。
それ以来、私は銭湯大好き人間になりました。一時期は常にお風呂セットを持ち歩いていた時期があります(学校帰りにちょいとひとっ風呂浴びれるように)。
最近はなかなかいけませんが、たまにいくと、今でも私にセピア色の体験をさせてくれます(笑)。


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