街というものは生き物で、時代と共にその様相を変えていくことは、皆さまご実感されていることと思います。
あれっ? あの店潰れちゃったんだ
ということは、日常茶飯事で起きていますよね。
特に飲食店はその入れ替わりが激しく、5年生存率はかなり低い数字となるのではないでしょうか。有名なチェーン店ですら、10年生存は怪しいところです。
そんな激戦を強いられる商店戦争の中、個人的に感じるのが、
ということです。まああくまで感覚的な主観なので、数値的な根拠があるわけじゃないんですけどね。
というのもですね、先日の夏休みに以前住んでいた街並み探訪に出たんですよ。ええ、ノスタルジストが行う特殊な“街ブラ”です(笑)。懐かしい街を訪ねて思い出にふけるという、後ろ向き度100%の独自イベントです(苦笑)。
そこで目立って印象に残ったのが、床屋のトレードマークたる赤白青のくるくる、いわゆる“サインポール”だったんですよ。
今回の探訪でも飲食店を筆頭に、かなりのお店が消え去ったり入れ替わったりしており、少々残念な気分になったのですが、こと床屋に関しては、あのサインポールが元気に回転していたんですよ。
あ、あそこの床屋、まだ続いているのか!
あ、あそこも。あ、あそこも…!
みたいな感じで、昭和、平成を生き抜いたそのサバイバル力に元気をもらった次第です。
と同時に考えてしまうのですよ。
なんで床屋は根強いんだろう?
と。そこで町の床屋が潰れない要因を、自分なりの想像で考えてみたいと思います。ご興味ありましたらどうぞ。
利益率が高い
長年床屋に通っている目線での印象ですが、床屋は利益率が高いのでは…と感じています。その理由は以下のような感じです。
自宅が店舗であることが多い
街の床屋さんは自宅兼店舗がほとんどだと思われます。
この場合、テナントによる賃借料が発生しないないため、毎月数万~数十万円の賃借料が発生する都市部のテナント商店と比べ、毎月のランニングコストを大幅に削減することになり、利益率にとてつもない威力を発揮していると思われます。
さらにいうと、もし親の代で店舗の減価償却が完了し、子どもの代でそれを引き継いでいたとしたら、その利益率はもっと上がることになります。
人件費を節約できる
町の床屋さんは経営者兼技術者なので、自分一人、もしくは奥様と合わせて二人の人件費で経営ができます。いわゆる家族経営ってやつですね。
ですので、理容師資格をお互いが持っている夫婦は、店舗経営においてかなりの強みを持っていると言っていいでしょう。
あらたに人を雇う必要がない、というこの強みは、経費の横綱たる人件費を極力削減できることを意味しており、このメリットは床屋の利益率アップに多大な貢献をしていると思われます。
組合で料金が統一されている
理容組合に加入している理容室は、だいたいが同じ料金で営業をしています。これは業界団体の
安値合戦で業界の首を絞めるのはやめよう
という意思表示であり、業界を守るための知恵であるともいえます。
もちろんそれが自由競争を阻害している、それにあぐらをかいてサービスの質が落ちる、等の批判が生じたり、デメリットとなる可能性もあります。それこそカルテルのような批判を受けかねません。
しかしこれによって経営者が値段競争や店舗営業に余計な神経を使うことなく、その時間をサービスや技術の向上に使うことができる、ともいえます。
いずれにせよ、ある程度の利益を確保した上での“組合価格”だと思われますので、経営者としてはいかに出銭を抑えるか、回転率を上げるか、ということに注力すれば、利益は確保しやすい業種なのではないかと思われます。
設備投資効率がよい
床屋を開業するためのイニシャルコストがどのくらいなのかはわかりませんが、
- 電動座椅子
- 洗面台
- パーマ器具
- タオル用保温器
といったような設備は、素人目に見ても
…長持ちはしそうだな
と感じます。
それが事実だとすると、これらの設備は減価償却が完了した後は、経費として考慮する必要がなくなり、利益率をさらに押し上げる大きな要因になると思われます。
結果的に経費が少なめである
その他、石鹸や整髪料といった消耗品は消費期限が長く、“完全に使いきる”という利用法が可能です。
それは食材等、足が早い材料を取り扱う飲食店と比べて、仕入リスクと消費ロスを極限まで減らした営業が可能であることを意味しており、結果経費が安くすむという利点につながります。
以上のように、床屋さんは
という特徴が、他の業界と比べて顕著であるように感じますね。
需要が生理現象に起因している
髪が伸びるということは生理現象のため、人が生きている限り必ずそれを切るという需要は存在します。この“需要が生理現象に起因する”という特徴は、ものすごい強みです。
もちろん人口の減少、店舗を構える土地の隆盛によって、景気に差が出てくるとは思います。
しかしながら、サービスの付加価値という観点からみると、あれやこれやと懸命になってサービスを生み出す業界と比較すると、床屋はかなりシンプルな付加価値を提供しており、しかもその価値がナチュラルに高いレベルに位置していることは間違いありません。
それはとても効率的に高い付加価値を提供できることを意味しており、この業界の大きなストロング・ポイントとなっていると言えるでしょう。
セルフ処理のハードルが高い
また“その作業がセルフではとても面倒くさい”という事実も、その需要を押し上げているといえるでしょう。
- うまくカットするのが難しい(面倒くさい)
- 後ろが見えないのがイライラする(面倒くさい)
- まき散らかされた髪を掃除するのが面倒くさい
- バリカンを掃除するのが面倒くさい
といったように、“髪を切る”という作業は“面倒くさい”のデパートです(笑)。
それだけに、それをすべて引き受けるという専門店の存在は全人類にとってとてもありがたく、人がいる限りその需要が廃れないことを意味しています。
ヒーリングとリセットができる
床屋では髪をカットし、髪型をつくってもらうだけではなく、肉体的なヒーリングと精神的なリセットを得ることができます。
肉体的なヒーリングとは、床屋のサービスに含まれている
- 顔剃り
- マッサージ
がその大きな要因となっています。
顔剃りは横たわっている間に産毛を剃ってもらうシャリシャリ感がたまらないし、洗髪中の頭皮マッサージや、洗髪後の肩もみは、日ごろの疲れを癒してくれます。
これらは簡易的なリラクゼーションサロンに近く、床屋の大きな付加価値となっています。
また、整った髪、ムダ毛が剃り落された顔、もみほぐされた肉体は、精神的なリセット感を強烈に感じさせ、
…よしっ! また頑張るか!
といった、初心にかえったような前向きな気持ちを毎度与えてくれます。
このような床屋の付加価値は、リピーターとして再度店に足を向けさせる大きな要因となっていると思われます。
実際の話、この付加価値が好きで私は美容院から床屋に回帰しましたからね。20代の頃は色気づいていたので美容院をよく利用していましたが(笑)、結局は床屋に戻るんです。
この感じ、共感していただける方も多いと思うんですけどね(笑)。
情報を売っている
結局のところ、この業界の強さってここかな、と思うんですよ。
このサービスはある一定の時間をかけてマンツーマンで作業するため、自然と会話が生じてきます。というか、会話なしで成立する方が難しい仕事だといえるでしょう。
もちろん極端にしゃべらない人や、座ったとたんに寝てしまうお客も多いかもしれませんが(笑)、基本的に床屋さんとお客さんとのコミュニケーションありきのサービスなんですよ。
となると、さまざまな情報が集まってくる床屋は自然と地域情報のターミナルとなるわけで、情報と情報をつなぐ地域ハブとしての機能が顕著となるわけです。
これが昔から
銭湯と床屋は町の社交場
と言われる所以であり、このサービスの大きな特徴なわけです。
つまり床屋は“髪を切る”、“気持ちと体をリフレッシュさせる”という価値の提供以外に、
という付加価値の提供が顕著でもあるわけです。
その情報は下世話な噂話から、地域の企業情報や、産業情報までと、幅広いでしょう。ひょっとしたら口の軽い経営層がポロっと話した、特A級の情報もあるかもしれません(笑)。
そして客層がその地域に住んでいる人がほとんどであるならば、その狭くて深い情報は、その町で生活する上ではとても貴重な情報である可能性が高いわけです。
このように、床屋は作業をしながら多くの情報をお客に売っている、とも言えるんですね。
また、床屋では情報を得るだけではなく、自分の情報を話す側面もあります。
これは話すことでストレスを解消したいという、人間の心理欲求なのかもしれません。その内容は聞き手にとってはどうでもよい自慢話である場合も多いでしょうし(笑)、本当にためになる話である場合もあるでしょう。
いずれにせよ、
人に話すとスッキリするし、気持ちいい
というお客のニーズを受け入れる側面を、床屋は持っていると言えます。
飛躍した考えかもしれませんが、それはキリスト教の教会における“告白部屋”に似ているようにも感じられます。
もちろん告白部屋での会話の方が、内容がディープで深刻なわけですが、結果的に“話すことで気が楽になる”という点においては、同様の効果を発揮しているのではないでしょうか。
おわりに
以上、私なりに考察した“町の床屋が潰れない要因”についてでした。
その要因をまとめると、
- 高利益体質
- 不滅の需要
- セルフが面倒
- ヒーリングとリセット
- 濃厚ローカル情報販売
の5点に集約されます。
もちろんこれはあくまで私の想像の範疇での要因考察であり、実際の関係者から見れば
いやいや、そうじゃないんだよ。
わかってないなあ
と、一笑に付されてしまう考察かもしれません。
ただ町の床屋さんのしぶといまでのサバイバリティ(笑)にいたく感銘を受けたのは事実で、この業界の力強いシステムには大変強い興味を持ちました。
そしていつまでもその町に根づき、ノスタルジストの郷愁を刺激し続けてくれることを願ってやみません。ではまた。
コメント