前回は格差社会において“最大多数の最大幸福”を実現するためには、“富の再分配”が必要ではないか、ということを書きました。
今回はその“富の再分配”の反対意見やデメリットを考えていきましょう。
富の再分配の反対意見
富の再分配、聞こえはとても人道的で、助け合いを感じさせる優しい行為ですよね。
しかし物事を一方だけで見るのも危険なので、逆のパターンも考えてみたいところです。
まず富の再分配への反対意見を考えてみましょう。考えうる反対意見は以下の感じでしょうか。
- 経済成長があれば、低所得層もおのずと所得が増えるので必要ないから
- 本人の努力や挑戦が足りないだけで、自業自得であるから
順に見ていきたいと思いますが、書いていたら反対意見に対する反対意見を書くという流れになってしまいました。ご了承ください(苦笑)。
1.経済成長があれば、低所得層もおのずと所得が増えるので必要ないから
これは50年代後半から80年代にかけて、いわゆる“高度成長期”で実証されてきた事実です。
経済全体が成長すれば、所得もまんべんなく上がるという自浄作用的な効果があるから、経済成長だけを考えればいい、という考え方です。

パパの会社の業績が右肩上がりでさ、社員に特別ボーナスを出したんだ。
来年は新入社員もたくさんとるらしいよ!

うちのパパも少しずつお給料が増えてきてるって言ってるよ

うちの店もお客がひっきりなしで、手伝いばかりさせられてるぜ。
景気がいいって父ちゃんも言ってた
このようなスパイラルが続くイメージです。たしかに理想的な形かもしれません。
ただし、これは経済成長と雇用のバランスがかみ合っているという前提が必要です。
しかし今後は人的リストラが顕著な、いびつな経済成長格差社会に突入すると思われるので、過去の法則・経験則は通用しないかもしれません。

パパの会社、自動化・効率化・AI化で利益が右肩上がりでさ、株主や幹部社員に特別ボーナスを出したんだ。
もう新入社員を入れなくても会社が回るってさ!

そうなのかぁ…うちのパパの会社なんて、どんどん人が辞めさせられているらしいんだ。
“次は自分かも”ってすごく悩んでいて、可哀想で見ていられないよ…

うちの店も○マゾンにお客を取られちゃってさ…手伝いをする必要すらないぜ。
父ちゃんと母ちゃんの機嫌も悪くてたまんないよ…
このように、スネ夫の近辺だけが潤うだけの経済成長がまかり通ってしまうかもしれません。
2.本人の努力や挑戦が足りないだけで、自業自得であるから
所得が低いのは、本人の努力不足、実力不足であるという論理です。これはねぇ~、もっともな意見だと思うんですよね。
突き抜けた所得を得ている方々って、確かに常人の域を超えた努力とリスクを背負った挑戦の結果で今の地位を築いていることが多いんですよ。
そうした方々から見れば、リスクを回避し、挑戦をせず、枠を狭く設定して生きている人々が低所得層となるのは、当然だと感じるのでしょう。
それは自分が選んだ道であり、自己責任ということになります。
さらに言うと、勤労意欲もなく、自堕落に生活しているからこそ低所得層となっている場合もあるでしょう。
そんな人たちを、身を削って努力して所得を得てきた人が、なぜに救わねばならないのか。
それはまさしく自業自得であり、富の再分配は、こういった層を逆に甘やかしているのではないのか、と不満に思う気持ちはわからないでもありません。

よし、ボクの会社の売上は順調に増えているな。
利益もいい感じだ

いいなあ…うらやましい…

野比くんも事業を起こせばいいじゃない

いや…ボクは頭も悪いし、失敗するのも怖いし…

大丈夫だよ、学校で学んだことを応用すれば、誰だって十分起業できるよ

そ、そうかな…(いや、ぜんぜん勉強してないんだよ…)

そうだよ、楽しいよ。
やりたいことを仕事にすると、土日の休日も仕事したいくらいさ!

そ、そんなものかな…(いや、毎日昼寝したいんだけど)

そうだよ、なんでみんな起業しないのかなあ?

だ、だったらさぁ……ボクに軍資金をくれない…?

………なんで?
耳が痛いですね(苦笑)。
しかしながら、高い所得や地位といったものは、社会全体が安定すればこそ価値があるものです。そして格差社会では持たざる者による治安の悪化が考えられます。
防護壁、防犯システムでガチガチに守られた生活よりも、そんなことを気にせず仕事に邁進できる世の中の方が健全です。
自己防衛のために多額の費用をかけるくらいならば、それを富の再分配に振り替えた方が精神衛生上もいいし、社会的意義が高いように感じます。
富の再分配のデメリット
では富の再分配のデメリットについても考えてみたいと思います。
デメリットについては、以下のような感じでしょうか。
- 度が過ぎた再分配は、勤労意欲を削ぐ
- 高所得層に不満が募る
- 制度の在り方によっては、機能しない場合がある
1.度が過ぎた再分配は、勤労意欲を削ぐ
度が過ぎた平等主義は、勤労意欲を削ぎ、生産性を低下させます。
“必死に働いてもさぼっても給料が変わらないから楽しよう”と、楽な方向に流されて怠け者が増え、結果生産性が下がって国力が低下するわけです。
ソ連の崩壊がそれを証明しています(それだけが原因ではないでしょうけど)。
ですので、再分配のさじ加減というのは、とてもバランスをとるのが難しいといえます。
また、それは人によって考え方が違うため、どんなによいシステムを確立したとしても、ある方面では必ず不平不満が生まれます。
それは答えのない答えを探すようなもので、為政者にとってはなかなかに頭の痛い政策だと思われます。
2.高所得層や高利益企業に不満が募る
富の再分配のために潤沢な財源を用意するには、累進課税制度は切り離せません。
所得が多ければ多いほど、高い税率がかけられるのが累進課税ですが、この税率が高すぎると、今度は高所得者層や高利益企業からの不満が募ります。当たり前ですけどね。

なあみんな、これからみんなで遊ぶ道具は、カンパしあって買わないか?

さんせ~い!

じゃあ1,000円のサッカーボールをみんなで買おう。
まずはオレが100円…と

じゃあボクも100円

私も100円で

どら焼きを1日がまんして…はい、100円

じゃあスネ夫は残り600円な

……! なんで⁉

…それが累進課税さ…
こんな感じでしょうか(苦笑)。
しかしながら、仮にその所得や利益が人的リストラをしたことが大きな要因であり、過去例がないくらいの所得格差が社会的に生じているならば、その累進税率は高くせざるを得ないような気がします。
これまでの所得のあり方と、人的リストラ格差時代の所得のあり方は、まるで非なるものだからです。

パパの会社、自動化・効率化・AI化で利益が右肩上がりでさ、株主や幹部社員に特別ボーナスを出したんだ。
もう新入社員を入れなくても会社が回るってさ!
これですね。
ただこれによって高所得層や企業が過度な防衛に回ると、より税率の低い国(タックスヘイブン)にそれを逃す“租税回避行為”がはかどることとなり、結局富の再分配に必要な財源が確保しづらくなるという現象が生じてしまいます。
これでは意味がないので、世界的に累進税率の足並みを揃えるか、租税回避行為に対する罰則を強くせざるを得ません。
ちなみについ最近(2021年7月10日)、G20で最低法人課税率を15%にするという新たな国際ルールが決定されました。
これは世界の累進税率の足並みを揃えるという意味では、かなり画期的なことだと思います。
どちらにせよ、人的リストラによる所得格差社会での、高所得層と高利益企業の高い累進税率については、

有無を言わずに飲んでくれ
という、かなり粗いお願いをしなければならないのかなと、個人的には感じています。
3.制度の在り方によっては、機能しない場合がある
仮に潤沢な財源があったとしても、それが効果的に分配されないと意味がありません。
もしもそれが政治的な思惑によって操作され、真に必要な層にそれが届かず、一部の層に過剰な集中が行われる結果ともなれば、その公平性すら保てません。
このように“最大多数の最大幸福”につながらない分配システムならば、高い累進税率を突きつけられた高所得層も浮かばれないでしょう。
また、財源を作るうえでの課税・徴収ルールについても、弱者がより疲弊する結果を招くルールでは本末転倒です。
つまりいかに高尚な政策・制度でも、その運用の仕方そのものがデメリットとなってしまう恐れがあるわけです。
効果的な富の再分配はベーシックインカムなのか
では富の再分配に対する反対意見やデメリットを解決し、効果的にそれを実行する方法には何があるのでしょうか。
このような議題で常に上がるのが“ベーシックインカム”です。
皆さんも耳にしたことはあるかと思いますが、“政府が国民一人一人に最低下の生活が送れる程度の現金を定期的に支給する”という仕組みです。
言うならば、“国民総仕送りシステム(苦笑)”です。
これができたら夢のような世界が待っている気がしますよね。
実現すれば、前回格差社会で問題視した
- 消費社会は維持できなくなる
- 世の中の秩序と治安が乱れる
- 学力水準が下がり、有能な人材が減る
- 起業を中心としたチャレンジがしづらくなる
- できるだけ多くの人が幸せだと嬉しい
がすべて解消できるような希望をもてます。
しかしながら、甘い言葉には必ず裏があります。次回はベーシックインカムのデメリットを確認してみましょう。ではまた。

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