ピエール・ガスリーとホンダを称えたい(後編)。

オレ流雑感
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 先日アルファタウリ・ホンダ(旧トロロッソ・ホンダ)のピエール・ガスリーが、イタリアグランプリで初優勝しました。そんな“ガスリーとホンダを称えたい”ということで、ホンダが2015年にF1復帰してからの、両者のこれまでの歴史や関係性を紐解き、その波瀾万丈なレース史を振り返るシリーズの後編です。前編を見逃した方は、こちらからどうぞ。

スーパーフォーミュラ期(2017シーズン)

 2017シーズンより、ガスリーとホンダはスーパーフォーミュラで接点を持つようになります。その時の両者のコンディション相関グラフが、下に図示したものです。中央やや左側ですね。

 その範囲だけピックアップし、横に広げたのが下のグラフです。

ガスリー、F1昇格を見送られスーパーフォーミュラ参戦へ

 GP2の年間チャンピオンとなり、2017シーズンのトロロッソ昇格は確実だといわれていたガスリーですが、レッドブル首脳陣はそれを見送ります。不振だったトロロッソのドライバー、ダニール・クビアトにもう一年残留のチャンスを与えたのです。

▲F1昇格見送りに納得がいかないガスリー

 これにガスリーは激昂するも、どうにもなりません。彼のレース人生で、初めての挫折といえるでしょう(グラフ青の①)。まさしくF1浪人(苦笑)となった彼は、1年間キャリアを他所で積まねばならなくなり、その白羽の矢が立ったのが、日本で開催されているスーパーフォーミュラでした。

 当時のスーパーフォーミュラは、“コーナーではF1より速い”と言われており、自動車王国である日本のトップメーカー、トヨタとホンダが運営に大きく関わってしのぎを削っていたため、レースイベントとしての質が高く、F1直下カテゴリーのGP2と遜色がないレースカテゴリーと評価されていました。

 ここでガスリーはスーパーフォーミュラという予備校(笑)に通うために来日し、ホンダ系のチームに所属することになります。ここでガスリーとホンダの接点が生まれ、現在に続く関係性が構築されていくわけです。

▲ホンダユーザーのチーム無限に所属。やはりマシンはレッドブルカラー

 そしてガスリーはこのスーパーフォーミュラでも再度、F1昇格を賭けた査定を受けることになります。キン肉マンで例えるならば、ウルドラマンの辞退で超人オリンピック日本代表に空きができ、そこに収まるかと思われていたものの、その実力評価の低さからそれを見送られたキン肉マンに、ロビンマスクが査定の闘いを企画した、という感じでしょうか(笑)。

 ガスリーは初戦、第2戦こそ環境の変化からか、目立ったリザルトを残すことはありませんでした。しかし第3戦で7位、第4戦で5位と調子を上げていき、とうとう第5戦のツインリンクもてぎでスーパーフォーミュラ初優勝を獲得。第6戦でも優勝し連破を達成(青の②)。第7戦でも2位となり、ドライバーズランキングも総合2位まで浮上。最終戦でのシーズンチャンピオン獲得も現実的となり、さすがはGP2チャンピオンという面目躍如を果たします。

▲スーパーフォーミュラでもその実力を発揮

 そんな絶好調のガスリーに、F1は突然その扉を開けました。不振のダニール・クビアトと交代という形で、マレーシアGPからトロロッソのドライバーとして彼を招聘したのです(青の③)。浪人査定中のシーズンにおける、突然の推薦合格獲得。一度は大きな挫折を味わったものの、わずか1年弱でこぼれ落ちたチャンスを引き戻したわけです。

 このことは、彼がどん底に落ちようとも、腐らずキャリアを構築していく精神力があること、技術向上に真摯であること、そして時流に乗るツキを持っていることを示していると思います。そしてF1昇格を言い渡された彼は、

いやーおみごと。素晴らしい成績を残したガスリーくんは、立派なF1ドライバーですよ!

と、レッドブル上層部に認められたことになります。まさにロビンマスクの査定をクリアしたキン肉マンといったところでしょうか(笑)。

▲スーパーフォーミュラシーズン中に、F1昇格をたぐり寄せた

 ちなみにスーパーフォーミュラの最終戦は台風で中止となり、結果、彼は限りなくシーズンチャンピオンに等しい年間2位で、予備校を卒業することになりました。

マクラーレンとのタッグ解消、トロロッソとの提携へ

 2017シーズンのホンダは、2015年型パワーユニットを土台にした改良では成長性に限界があると判断し、そのコンセプトを根本的に変更した新型パワーユニットで挑むことを選択します。ガラガラポンに近いですね。

 この選択は過去の2年の経験を捨て去ることに等しいものだったので、勇気のある選択だったと思いますね。結果は短期的、長期的な視点で変わってくるのですが、

  • 短期的視点…トラブル続出でさんざんな結果
  • 長期的視点…コンセプトをアップデートし続け、優勝できるほどの結果

となりました。マクラーレン・ホンダ時代では、残念ながら短期的視点の結果となってしまいます。まあ当たり前と言っちゃ当たり前ですよね。ガラガラポンということは、テスト期間の絶対数が足りないということになり、本番すらテストランにするしかないですから。

 そんな感じだったので初期不良が発生し、シーズン序盤にはパワーユニットの不具合でスタートすらできないリタイアも多く、スタートしても途中で不具合が生じる等とても不安定な状況の中、チームとしては最悪のダブルリタイヤも複数発生します(赤の①、②)。

▲MGU-Hの不具合でスタートができないバンドーン

 これによりホンダの評価は依然として低空飛行を続けることに。ただこの頃には「実はマクラーレンのシャシー(車体)も相当悪いんじゃない?」という話もささやかれ、「ホンダのエンジンは言うほど悪くない」と評価する関係者も現れてきます。実際ホンダパワーユニットは7月のハンガリーグランプリでダブル入賞し(赤の③)、後半はやや持ち直した感がありました。

 しかしマクラーレン側は2017年6月に、ホンダとのパートナーシップ解消を示唆。そして9月に2018シーズンはルノーのパワーユニットを採用することを発表し、正式にホンダとの決別を決定します。

▲参戦前のこのような期待感は、もはやなかったことのように

 これによってホンダはパワーユニットを供給する先がなくなり、来期のF1活動継続ができなくなるという危機に。実は2018シーズンにはマクラーレン以外に、ザウバーにもパワーユニットを供給する契約となっていたのですが、ザウバーの首脳陣が変わった途端に、その契約は反故にされていたのです。

 まるでそれは『宇宙超人タッグトーナメント』に参加をするキン肉マンが、そのタッグパートナーとして絶対の信頼をおいていたテリーマンにタッグ結成を断られ、次善の策であったモンゴルマンにも断られたかのようです(苦笑)。

 そんなピンチに陥ったホンダを救ったのが、レッドブルが所有する2つのチームのうちのひとつであるトロロッソでした。まさにホンダにとってのカメハメ師匠ということになります。トロロッソは前述したように、「ホンダのエンジンは言うほど悪くない」と評価していた内のひとりでした。

▲タッグ結成を発表するホンダ(左)とトロロッソ(右)

 そしてそのトロロッソは前述したとおり、シーズン終盤にガスリーをドライバーとして招聘します。すでにスーパーフォーミュラでガスリーとホンダのパートナーシップは確立していましたが、2018シーズンもトロロッソというチームを介して両者の関係性が続いていくことになります。この流れは必然ではなかったため、両者の因縁を感じずにはいられませんね。

F1二人三脚期(2018シーズン~現在)

 さて、いよいよF1におけるガスリーとホンダのタッグが始まります。現在(2020年9月)までで2年半が経過していますが、ここでも紆余曲折がありました。そのグラフです。右半分になりますね。

横に広げます。

一言で言うと、ガスリー乱高下期、ホンダ上昇カーブ期となります。

トロロッソ・ホンダとしての幸先よいスタート

 マクラーレンとのタッグを解消し、トロロッソとタッグを組んだホンダ。それはそのパフォーマンスによっては、トップチームであるレッドブルとのパートナーシップに発展する可能性がある、査定のシーズンでもありました。そしてそのリニューアルコンビの成果は、早くも2018シーズン第2戦のバーレーンGPにおける、ガスリー4位フィニッシュという形であらわれます(青と赤の①)。

▲当時は優勝に等しい価値のある4位でした

 これはホンダが2015年に復帰して以来の最高順位。表彰台まであとひとつに迫った、記念すべきレースです。この時点でトロロッソには、マクラーレンとのタッグ時代には見られなかった、パートナーとしての信頼感、リスペクトが見て取れ、ホンダものびのびとレースを行っている雰囲気が、視聴者であるこちら側にも伝わってきたことを覚えています。

 これはトロロッソのチーム代表であるフランツ・トストが、かつて日本に在住した経験があり、親日家であったことも幸いしました。彼はホンダとパートナーシップを組むにあたり、日本文化をチームに学ばせるためのセミナーを開くなど、日本とイタリアの文化をそれぞれ尊重してチームを形成していくというマネジメントを行ったのです。ホンダにとっては、何とも気配りのきいた対応だったと、感謝することしきりだったと思います。

▲フランツ・トスト。この方のバックアップなしに、今のホンダF1はありません

 このような良好な関係性の構築は、ガスリー優勝という喜ばしい結果を得るにおいて、その感動をさらに大きなものにしているといえるでしょう。ただこの時点においては、そこまでは想像すらできなかった時代です。

 バーレーンGPの4位獲得以降、ガスリーは予選でのQ3進出、本戦でのポイント獲得(10位以内フィニッシュ)を定期的に達成し、トロロッソ・ホンダのエースドライバーの地位を着実に確立していきます。

レッドブルとのパートナーシップが成立

 2018年5月のカナダGPで新スペックエンジンを導入したホンダは、パワーサーキットとわれるこのレースでガスリーが7位入賞し、6月にレッドブルが2019シーズンでホンダのパワーユニットを採用することを決定、次年度のパートナーシップを発表します。

▲とうとう本丸のレッドブルと提携するホンダ

 これにてホンダはマクラーレンに三行半を突きつけられてから、約1年でレッドブルというトップチームとタッグを組むところまで復活。2018年9月のロシアGPではダブルリタイアを喫してしまいますが(青の②)、アップデートするスペックは順調に戦闘力を上げていきます。

 そして3年前の日本GPでアロンソに

アロンソ
アロンソ

GP2! まるでGP2エンジンだよ!

と酷評されたエンジンは、2018年10月、同じ日本GPでスペック3を投入し、予選でハートレーが6位、ガスリーが7位という、ダブルでのQ3進出を果たします。本戦は戦略のミスでガスリーが11位、ハートレーが13位と悔しい結末となりましたが、スペック3の評価は高く、次年度のレッドブルとのパートナーシップに向けてその弾みがつくことになります。

ガスリー、とうとうレッドブルへ昇格

 6月にレッドブルは来季のホンダとのパートナーシップを発表しますが、それを受けてレッドブルのドライバーであるダニエル・リカルドが、来季のルノーへの移籍を発表。予想外の移籍騒動で、突然2019シーズンのレッドブルのシートが空くことになります。

 ここで白羽の矢が立ったのが、トロロッソで印象的な活躍をしていたガスリーでした。ガスリーはトロロッソ在籍中の8月にその連絡を受け、とうとうトップチームのマシンを駆る権利を獲得(青の②)。意気揚々とトロロッソの後半戦を迎えることになります。

▲ガスリー、念願のトップチーム昇格

ガスリー、レッドブルでのつまずき

 ガスリーは2019シーズンより、レッドブル・ホンダの正ドライバーとなります。相方は天才・マックス・フェルスタッペン。すでにF1最年少での優勝を経験しており、レッドブルのエースドライバーとなりつつありました。相方の能力が人間離れしているだけに、ガスリーがそれに準ずるドライブができるのかどうかに注目が集まります。

 また、ホンダにとってもトップチームにパワーユニット供給する初年度となり、マクラーレン時代のような下手はうてないというプレッシャーにさらされていました。このように、ガスリーとホンダともにトップチームの壁に挑んでいくという形で2019シーズンは始まり、2月のバルセロナテストが開始されます。

 ここでホンダのパワーユニットは大きなトラブルを起こすことなく、多くのマイレージを稼ぐことに成功。タイムも悪くなく、第一関門はまずまずの成績でクリアできました。

 しかしガスリーはトップチームマシンを操作する焦りからか、致命的なクラッシュを2度も起こしてしまいます(青の③)。それはチームのテストプログラムを大幅に遅らせる原因となり、そのつまずきによってレッドブルはシャシーのアップデートに遅れを生じるほどの影響を受けてしまいます。

▲クラッシュするガスリー
▲上層部(ヘルムート・マルコ)からお叱りを受けます

 これはガスリーのレッドブルにおけるポジションを悪くすることになり、本戦開幕前からガスリーに大きな試練を突きつけることになります。

ホンダパワーユニット、念願の2015年以降初勝利

 一方、2019シーズンのホンダは苦難の4年間を経て、その努力がようやく花開きます。開幕戦のオーストラリアGPにてフェルスタッペンが3位となり、早速表彰台を獲得。2015シーズンにF1参戦してから、まったく手が届かなかった位置に到達します。

▲跳ね馬をコース上で抜けるようになりました

 その後スペック2,スペック3と少しずつパワーユニットのアップデートを繰り返し、ようやく2019年6月、オーストリアGPにて念願の初勝利を挙げます(赤の③)。ドライバーはフェルスタッペン。その弾丸のような走りにかつての“GP2エンジン”の影はなく、王者・メルセデスと真っ向勝負するホンダパワーユニットがそこにはありました。

▲ホームレースのオーストリアGPでついに優勝

 そして表彰台の頂点に立ったフェルスタッペンは、レーシングスーツの左胸にプリントされているHONDAのロゴを指差しての登壇。粋な計らいをみせます。また、表彰台の脇には、優勝したチームの現場の人間も立つことができるのですが、レッドブル陣営はそこにホンダのテクニカルディレクターである田辺氏を送るという、これまた粋な計らいを見せ、ホンダが栄光をつかむまでの苦難に満ちた道のりを称えます。

▲キャッチコピーに重みがありすぎる

 そんなホンダの姿は、まるでダメ超人、ダメ超人と蔑まれつつも、様々な闘いを経て世界中から称賛される超人にまで成り上がったキン肉マンそのものであり、とても長い間熟成されたカタルシスでした。

 そしてそこからレッドブル・ホンダはそのパフォーマンスを加速度的に上げていき、ドイツGPではフェルスタッペンが優勝、クビアトが3位と、レッドブルとトロロッソで1-3フィニッシュを達成。2チーム表彰台という快挙を成し遂げ(赤の④)、トロロッソに11年ぶりの表彰台をプレゼントします。ホンダのF1継続危機を救った恩人に対し、恩返しをした形となりました。

▲雨のサバイバルレースを勝ち抜いての1-3フィニッシュ

 さらに次のハンガリーGPでは、フェルスタッペンがポールポジションを獲得し、予選でもメルセデスを破るという快挙を達成します。本戦では惜しくも2位となりましたが、ホンダパワーユニットが安定して優勝争いができるポテンシャルがあることを、満天下に示したことになります。

降格と友人の死

 バルセロナテストでのクラッシュで早くもイメージが悪くなってしまたガスリーは、それを引きずってしまったかのような、開幕から今ひとつぱっとしない成績が続きます。マシン性能がよいので、トロロッソ時代よりは上位の成績をコンスタントに取りますが、トップチームが要求するレベルには到達しないレースが続きます。

 エースドライバーのフェルスタッペンにはタイムとレースクラフトでまったく歯がたたず、そこには大きな断層が発生。王者メルセデスに挑むというよりは、ミッドフィルダーに追いまくられ、いつ格下チームに食われるか、というような心配を上層部にさせるような苦しい闘いが続きます。

▲思ったようなパフォーマンスを発揮できないガスリー

 ガスリーとしてはトップチームのマシンをドライブすれば、すぐにでも表彰台争い、優勝争いができると自信満々だったはずなのに、いざフタを開けてみると、表彰台への壁はとてつもなく高かったという感じです。“こんなはずではなかった”というのがガスリーの要らざる気持ちだったと思うし、ここまで思うようにいかないのは、彼のレース人生において初めてのことだったのではないでしょうか。

 キン肉マンで例えるならば、人間なのに超人を倒すという類い希なるポテンシャルをもったジェロニモが、とうとう念願の超人に転生して無敵の快進撃を始めるかと思いきや、そのキャリア不足と超人プロレスの奥深さに戸惑い、一気に失速してしまった感じに似ています。

 そしてレッドブル上層部は、そんなジェロニモガスリーに厳しい裁定を下します。それは2019年シーズン後半から、レッドブルのガスリーと、トロロッソのアルボンをスイッチするというものでした。つまりガスリーはシーズン後半は再びトロロッソでF1に参戦することとなり、これは事実上の降格を意味していました(青の④)。

▲わずか半年でレッドブルを去ることになったガスリー

 さらに悲劇がガスリーを襲います。後半戦最初のベルギーGPにおいて、F2に参戦していたアントワーヌ・ユベールがレース中に事故死するという悲劇が発生(青の⑤)。このユベールとガスリーは幼少期からカートで切磋琢磨してきた仲であり、アパートの同じ部屋で暮らし、通った学校も先生も同じという過去がある14年来の親友でした。

▲親友でライバルだったアントワーヌ・ユベール(左)

 さらにガスリーがトロロッソ降格をレッドブルから言い渡されて落ち込んでいるときに、「またキャリアを積んで見返してやればいい」と励ましたのがこのユベールだっただけに、その直後の親友の死という悲劇は、彼に想像しがたい精神的ショックを与えたと思われます。

ガスリー、どん底からの復活と初表彰台

 2019シーズン後半開始前から、立場的にも精神的にもどん底に落ちたガスリー。しかし彼はここで腐ることなく自分のレースに集中し、印象的なレースを頻発させます。ファン視点でも「彼はトロロッソでドライブする方が性に合っているのでは?」という印象でしたね。のびのびとレースをしている感じでした。なにか吹っ切れたのかな、と思わせるドライビングでしたね。

 ホンダは上昇カーブを描いていたものの、後半戦からやや失速。サマーブレイク後にフェラーリが急激にパフォーマンスを上げてきたことが大きいです。そんな停滞モードを払拭したのが、ブラジルGPでのフェルスタッペン、ガスリーによる1-2フィニッシュでした(青の⑥と赤の⑤)。

▲ホンダパワーユニットが1-2を達成
▲まずは表彰台という目標をクリアしたガスリー

 これにより、ガスリーは念願の初表彰台を達成し、ホンダは28年ぶりの1-2フィニッシュという快挙。特に絶対王者たるメルセデスのハミルトンを、フェルスタッペンはコース上でオーバーテイクし、ガスリーは最終コーナーからフィニッシュラインの全開区間で同じくハミルトンを抑えきるという、とても印象的なレースとなりました。ある意味このレースだけは、ホンダパワーユニットがメルセデスを超えたと言ってもいいかもしれません。

ガスリー、とうとう栄冠をつかむ

 そして2020シーズン、ガスリーはそのままトロロッソ改めアルファタウリ・ホンダでの出走となります。コロナショックによって開幕が4ヵ月も遅れるという異常事態でしたが、いざ開幕すると、ガスリーは昨年後半の調子を維持するような、安定したパフォーマンスを発揮。予選Q3への進出、本戦でのポイントフィニッシュを高確率で決めます。

 一方、前評判が高かったレッドブルは思いのほか車体が安定せず、メルセデスに対抗できない状態。しかしそれでも第5戦の70周年GPでフェルスタッペンが優勝を果たし、ストップメルセデスを達成します(赤の⑥)。

▲2020シーズンで初めての勝利

 そして2020年9月、イタリアGPにおいて、とうとうガスリーが優勝をつかみとります。それは様々な幸運が作用したものでしたが、彼はそれをすべて味方にし、レース後半は25周もの間、リーダーとしてミスをすることなく、見事なレースクラフトを発揮しての初優勝となりました(青と赤の⑦)。

▲トップでチェッカーを切るガスリー

 この“一度は失格の烙印を押されてからの復活劇”は、キン肉マンにおけるビッグボディかレオパルドンか、といったところでしょうか。両者とも多分に恥をかかされて散ったものの、現在は長年の年月を経て、その恥を雪ぐ活躍をしています。

 また、ガスリーの粋なところが、目標としていた表彰台、優勝を、2軍チームであるアルファタウリ(トロロッソ)・ホンダで達成しているところでしょうか。普通に考えれば、それらはトップチームたるレッドブル・ホンダに昇格することで得られる確率の方が絶対に高いのに、それをあえての下位チームで達成するという事実。

▲どん底からの見事な復活劇
▲ホンダの山本MDもガスリーを祝福

 これは彼がそういったツキを持っているキャラクターだとも言えるし、それを逃さないための、血の滲むような日々の努力がもたらした結果だとも言えるでしょう。そしてそれはちょっとした反骨精神を垣間見ることもでき、そういったストーリーが好きなファンにはたまらない結果となりました。

 そして何と言っても、亡くなった親友のアントワーヌ・ユベールの「またキャリアを積んで見返してやればいい」という励ましに応えられたことが、何よりも嬉しかったのではないのかな、と私は思います。

▲ユベールの励ましがガスリーを立ち直らせたとも言えます

 ホンダとしてもトロロッソとのタッグ結成からちょうど50戦目という節目のレースで、恩ある彼らに12年ぶりの優勝を贈ることができたため、このイタリアGPは記録にも記憶にも残る、とても印象深いレースになったと思われます。

▲50戦の絆の証です

 そしてガスリーとホンダの、共に苦渋を舐め、共にもがき、共に悩み、共に励まし、共に喜びを分かちあってきた、腐れ縁ともいえる二人三脚からの大きな成果。これを称え、今後も両者が協力して多くの喜ばしい結果を得ることを、私は期待してやみません。

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