キン肉マンの親友かつベストパートナーであったテリーマンを父親とし、メイン女性キャラであったナツ子を母親とした二世キャラ。その出自ポテンシャルは彼の華々しい活躍の将来を確約していたかに見えたが、それは突如横から現れた男により大きく翻弄されることに…。

出身 | アメリカ |
超人強度 | 105万パワー |
必殺技 |
テキサス・クローバーホールド |
主な戦績 | レックス・キング○ スカーフェイス● スパイクマン○ ハイドマン○ 鬼哭愚連隊○(ジ・アドレナリンズ) 世界五大厄●(ジ・アドレナリンズ) |
父を全否定して登場
彼はテリーマンの息子として、『キン肉マンⅡ世』の初期から登場しました。
親が前作のメインキャラという恵まれたステイタスを有したその登場は、他の新参超人と比べると、破格のアドバンテージを有していたと言えるでしょう。
それを思うに、彼の立ち位置というのは親世代同様、

万太郎と深い結びつきを伴った“ベストパートナー”のポジションを担うのだろうな
という直感を抱いた読者が多かったのではないかと思います。
なぜならば、世代を超えた息子同士の熱い結束に、過去を偲ぶキン肉マンファンは大きなロマンと心地よさを感じてしまうからです。
しかしそんな気持ちの良いノスタルジー温泉(笑)につかっている我々に対し、彼は

キン肉マンの影となったために、正当な評価を受けられなかった親父のようにはならない!
と、強烈な冷や水を浴びせます。

それはサポートの役割が強かったテリーマンの生き様を全否定し、自分はメインストリームに躍り出るんだという確固たる意思表示であり、

万太郎から主役の座を奪う!
という、万太郎に対する宣戦布告でもありました。
また、その姿は『夢の超人タッグ編』の初期段階において

やさしさなどという甘っちょろい感情のせいで、二度もチャンスを逃した

友情などかなぐり捨てて、ジェロニモとともに優勝目指して突っ走る
と非情になった時のテリーマンを彷彿とさせ、それがデフォルトのような設定だと感じさせるデビューでしたね。
伏兵、現る!
全方面で上回る男
このように、登場した途端に壮大な“反骨&野望花火”を打ち上げたキッドですが、なんとその花火は横から突如放たれた別の花火にかき消されてしまいます。
その別の花火を放ったのが…
であったのは、皆さんご承知の通りでしょう。
彼もまた父親や家訓に大きな反骨心を抱いてドロップアウトし、超人界のトップの座を独力で勝ち取ろうという野望を持っていました。それは皮肉にもキッドと同じ“反骨&野望花火”だったのです。

これによりテリーマン、ロビンマスクという二人の旧作メインキャラの息子同士が、進路の方向性で丸被りするという異常事態が生じます。
それはまるでたった一つの大学進学の指定校推薦枠を、二人の生徒が争っている状況だったともいえるでしょう。そして二人の成績は

おっしゃ、主要五科目の評価合計22!
これはもらったな!

評価合計24…
チッ、あのセンコーめ…一科目だけ4評価にしやがって…!!

評価合計24…!?
失点わずか1?
という状況だったといえます。そして指定校推薦を勝ち取ったのは当然…ケビンマスクでした。
このたとえ話は、キッドファンにとっては耳の痛い話でしょう。ただ『キン肉マンⅡ世』という作品におけるケビンマスクの活躍ぶりを見るに、ここはそれを受け入れざるを得ないと思うんですよね。
では彼はなぜケビンマスクの花火に、指定校推薦入試の争いに敗れてしまったのでしょうか。それを知るために、二人の“反骨&野望”をその設定面や環境面から比較してみましょう。
反骨する対象

父親の控えめな性格や生き様

父親を含んだ家系や格式
反骨のための行動選択肢

正義超人学校での修行

悪行超人学校での修行
のし上がるための戦法

ライバルと切磋琢磨したうえでの№1

ライバルを再起不能に蹴落としての№1
実戦経験

ほぼなし

数多くのSFあり
自己演出

態度の大きい悪ガキ

屠った相手の数だけタトゥー
これを見ればわかる通り、目指す方向性は同じなのですが、残念ながらすべての面においてケビンの方が一回り、スケールが大きいんです。
しかもケビンは野望達成のために、その所属をアウトローのステージに移してすらいます。これは野望達成のための覚悟、もしくは決意表明としては、かなり大きなインパクトがあったと言わざるを得ません。
ライバルがこのような覚悟を見せてしまうと、その比較論から

キッドはまるで温室内でガキ大将を目指しているみたいだ
という、彼にとってはひじょうに厳しい見え方すら発生してしまうのです。

このようなスケールの違い、秩序と無秩序という環境の違いは、“反骨&野望”という勝負において、キッドを著しく不利な立場に導いたのではないかと思われます。
不同一始点という罠
そしてもう一点、彼がケビンマスクの後塵を拝した理由はこれなのではないかと、私が考えていることがあります。
それはケビンマスク批評その6でも書いたことなのですが、
キッドは万太郎と同一始点ステイタスを保持していなかった
という理由です。
何を言っているかというと、

キッドよりも、ケビンの方が万太郎と同一のステイタスを保持している

だから万太郎と対をなすキャラは、ケビンの方がやりやすい
という理屈です。
わかりやすく項目だてると、ケビンは万太郎と比較して
- 王族 or 貴族
- お坊ちゃん
- 親父が偉大
と、初期ステイタスが近しいです。しかしながらキッドは
王族 or 貴族お坊ちゃん- 親父が偉大
と、上の二項目が万太郎と一致しません。
この初期ステイタスが完全合致しているという設定は、かたや陽の当たる王族のボンボン、かたや闇落ちした陰りある貴公子と、その後枝分かれした二人の境遇差を際立たせるのに、大いに効果的だったと思われるのです。
しかもこの比較表現は、万太郎とケビンとの間に表裏一体の関係性を演出することになり、ケビンを作品の“もう一人の主人公”にまで押し上げてしまいました。
これによりキッドは、万太郎のライバルキャラどころか、前作における“正義超人三羽烏”という、スグル、テリー、ロビンとそれぞれの活躍がバランスのよい正三角形となっていた、三者均等の関係性の再現すら難しい立ち位置に追い込まれてしまったのです。

この予想外の強力すぎる伏兵の出現に、キッドは自身の思い描いていた超人キャリア計画を大きく狂わされ、その計画の変更を余儀なくされるわけです。
そしてこのレールの切り替えをスムーズに行えるか否か、それが彼の超人キャリアを輝かせることができるかどうかの大きなターニングポイントになったと言ってもよいでしょう。
彼の最善手とは
では彼はどのルートに超人キャリアをシフトすればよかったのでしょうか。物語初期~中期段階で言うならば
の一択だったと、個人的には思っています。
というのも、キン肉万太郎とのタイマン勝負のライバルは、残念ながらケビンマスクが第一コンテンダーとなってしまったのは明白なわけです。
となると、彼に残された道は、主人公のベストパートナーとしてのポジションをしっかりと確立することだったと思うんですね。
そして彼はその出自の優位性とその時点での万太郎との関係性から、やろうと思えば万太郎の正パートナーのポジション、野球で例えるならば正捕手の座を得ることは、わりと容易くできたはずなんですよ。
出自の点で言えば、前述した通り親同士が無二の親友かつ伝説のタッグチームであるので、彼らが同様の道を歩むのはとても感慨深い展開となり、基本的にそれを反対する人はいません。
関係性の点で言えば、物語の途中から彼に万太郎を過度にライバル視するギスギスした感じは薄まってきていたし、一緒につるんで遊び回るくらい仲良しにもなりました。
さらに万太郎が特訓をするときなどは率先して同行し、その特訓パートナーとして協力を惜しまないくらいの、厚い友情関係すら構築していたのです。つまり

万太郎、オレと組もうぜ
とキッドが一声かければ、

よしキッド、やろう!
という展開になる可能性はとても高く、タッグを組むことについてそれほど大きな障害はなかったのではないでしょうか。
そして『火事場のクソ力チャレンジ編』、もしくは『悪魔種子編』において、強引にでも前に出て行き、タッグ戦に持っていく環境を自分で作り出すべきだったと思うのです。
キッド、痛恨のミステイク
ところが…彼にはそれができませんでした。それは彼の心の奥底にある

キン肉マンの影となったために、正当な評価を受けられなかった親父のようにはならない!
という父親の生き様批判は健在であり、そこだけは拭い去れなかったからなのかもしれません。
彼の心境を野球で例えるならば

親父はずっとキャッチャーだった。
でも目立つのはピッチャーばかり

だからオレはピッチャーしかやりたくない
という心理状態だったと言えるでしょう。これは裏を返せば、彼が
という将来になると恐れていたことを示しており、だったらタッグ結成だけは避けよう、という防衛本能だったとも言えます。
しかしながら、防衛のために自身の先天的な優位性を活かさないという選択は、結果的に大きなミステイクであったと言わざるを得ません。
というのも、彼がその権利を放棄している間に、なんとケビンマスクが万太郎と反発しあいながらも、バッテリーを組みだしたからです。
しかも彼ら二人のバッテリーは、キッドがおそらく思い描いていたであろう、万太郎がピッチャー、ケビンがキャッチャーという固定的な役割分担ではなく

お前ダメだな。ちょっと代われ
とケビンがピッチャーになる場合もあるし、

お前こそダメだ。交代
と、またもや万太郎がピッチャーになるというような、交代制バッテリーだったのです。
この状態は先ほども書きましたが、彼らが“表裏一体の主人公”として描かれたことを表しているに他なりません。
これにはキッドも

そんなん、アリなの⁉
と、面食らったと思うんですよ(苦笑)。バッテリーとは一度ポジションが決まれば、それが永遠に固定化されると思っていたからこそ、彼はその状態を避けていたわけですから。
それがまさかケンカしつつ、場合によってはバッテリーの役割交換が行われるなんて、夢にも思わなかったんですね。
その様はまるでWボケを売りにしている笑い飯の漫才のようでもあり(笑)、それに面食らっている間に、キッド自身は自身のポジションをどんどん落としてしまうのです。

その落ち方というのは、少し厳しい言い方かもしれませんが、

セカンド→センター→代打→代走
といったコンバートをどんどん指示されていき、最終的には

キッド、サードコーチャーに入って
という役割に収まってしまった、そんなイメージがあるんですね。
事実、彼は『ニュージェネレーション入れ替えマッチ』でスカーフェイスに敗れたあと、シングルマッチを一試合も行っていません。
そしてその役割は“格闘”ではなく、“解説”や“サポート”、そして“応援”といったものにシフトしていったのです。その姿は皮肉にも

キン肉マンの影となったために、正当な評価を受けられなかった親父のようにはならない!
と批判した父親の生き様を、より高く、より深いレベルでトレースした形となってしまいました。
このような結果を見るに、彼は根底に残っていた父親批判をさっさと拭い去り、ケビンマスクよりも早く、万太郎のタッグパートナーポジションに収まっているべきではなかったのかなあと、感じてしまうんですね。
キッド、二度目のミステイク
しかしながら、そんな苦い経験をしてきたはずなのに、彼はケビンが一軍登録抹消された『究極の超人タッグ編』において、またもや同じミステイクを犯してしまいます。
そう、彼はこのシリーズにおいても、万太郎との『センチュリー・マシンガンズ』の結成を拒んでしまうのです。
ケビンの登録抹消…これは他のキャラにとっては、その活躍場所を拡げる大チャンスだったわけです。それこそキッドに関しては、絶好のセカンドチャンスでもありました。
彼が選択したロビンマスクとのタッグ『ジ・アドレナリンズ』を否定するつもりは毛頭ありませんが、

オレは親父と違ってピッチャーで目立ちたい!
という自身の確固たる信念を実現したいのであれば、彼は格闘界の笑い飯たる『坊っちゃんズ』を間近に見て

ピッチャー交代、ありなんだ!
という、よりフレキシブルで目立つタッグの在り方の学びを得たのだから、ここは是が非でも万太郎と組むべきだったんですよ。そして

お前ダメだな。ちょっと代われ
といってピッチャー交代のチャンスを探り、その機にグイグイと前面に出るべきだったんです。
しかし彼はそれをしなかったがために、結果的にそのポジションをカオスに、そして最終的にはまたもやケビンに奪われてしまったわけです。
そしてもしもキャラクターの価値を、活躍すること、目立つことだけで評価するのであれば、残念ながら彼はケビンマスクに完敗したキャラだったと言わざるを得ないでしょう。
彼は失格キャラなのか
以上のように、彼については

どちらかと言えば不遇なキャラだった
というイメージを感じています。
特に私はケビンを6回にもわたって考察してきたので、キッドがキャラとしてどれだけ割を食ったかが誰よりもわかってしまうのです(苦笑)。
とはいえです。これで彼がキャラとして失格の烙印を押されてしまったわけではないと思うんですよ。

テキサス禿鷲は二度飛翔する!!
と、彼も言っているじゃないですか。
というのも、私はこんな不遇な環境だからこそ輝けるキャラクターを、彼は体現していたのではないかと思っているんですね。
ではそんな彼が輝くキャラクターの本質とは何なのか。後編で考察してきたいと思います。ではまた。
※今回は牛丼一筋30歳さん、tomohiroさん、Azumaさん、テニス大好きさん、ザ・農村マンさん、TKマンさん、キノキノさんほか、たくさんの方からリクエストをいただきました。ありがとうございました。
【リクエストはこちらから】


コメント
初カキコです。いつも楽しく読ませていただいてます。
> 二度もチャンスを逃した
という父親の要素も、〝 二度目のミステイク 〟って形でトレース…w
20世紀に行った時、父親を〝その奥ゆかしい態度がどうの〟と罵ってましたっけ。
ケビンと比較する発想自体が無かったです! スカーの噛ませ犬になってしまったのも痛かったでしょうね…。
pppさん、こんにちは。
キッドはいろいろと背伸びして反発したけれども、結局は父親に似てしまった、というイメージが強いですね。そして父親に似るというのは、けして悪いことではなくて、誇り高いことだったのかもしれません。
…でももう少し試合と勝利数がほしかったなあ(泣)。