第67回 ビューティー・ローデス

オレ流超人批評
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ニューヨークの帝王といわれた超人評議会のチャンプ。アメリカンドリームを掴んだはずの彼だが、実際に掴んだのはさまざまな苦難だった? そんなローデスを悩ます苦難をひとつずつ考察!
出身 アメリカ
超人強度 55万パワー
必殺技

エルボー・ドロップ
エルボー・スタンプ
パンチ攻撃

主な戦績

ハルク・ドーガン○
ザ・マシンガンズ△
宇宙一凶悪コンビ●

トレンドの真逆をいく超人

 ロビンマスク、ウォーズマン、バッファローマン。

 彼らはキャラクター人気投票でトップをとった実績もある、人気上位ランクイン常連超人たちです。

 そうなる理由はさまざまあるでしょうが、共通していえることは、逆三角形の美しい肉体美を伴う洗練されたフォルムを持つ超人である、という点でしょう。

 それは裏を返すと、そのような外見的カッコよさを伴わない限り、人気キャラになることは難しいことを指し示しています。

 もちろん外見の優劣を凌駕するような、圧倒的な個性やエピソードを伴えば、その法則に抗うことはできるかもしれません。

 しかし結果を統計的に見る限り、それはとても至難の業であることは明白なわけです。

 そう考えると、人気の出るキャラクターというのは

  1. スマートでシャープなデザイン
  2. 美しい肉体美
  3. 個性あふれる必殺技
  4. 心躍るエピソード
  5. 好感の持てる人間性

という要素が必要不可欠であるわけです。

 そんな必須要素の真逆をいく超人が、かつて存在していました。

 ビューティー・ローデス。彼こそがその超人です。彼は『アメリカ遠征編』において、超人評議会のチャンピオンとして登場しました。

 “ニューヨークの帝王”、“アメリカンドリーム”という触れ込みで、見開きページを使って派手な誌面デビューをはたした彼でしたが、それを見たほとんどのちびっ子は

…なんかデブだな…

カッコわりい

と、彼への興味をバッサリと斬り捨てました(苦笑)。

 “人の第一印象は見た目で9割決まる”とよくいいますが、人生経験の浅いちびっ子にとっては10割決まる、といっても過言ではないでしょう。

 もちろんその見た目がカッコよくなくても、ステカセキングやスプリングマンのように愉快なものであれば、好意的に受け入れられる可能性は高いです。

 しかしながら、彼は人間タイプのオーソドックスな超人でありながら見た目がよろしくない、という、いわば悪い状況に悪い要素を掛け合わせたような超人だったのです。

 この状況では、彼が読者人気を得るという可能性は限りなく小さいものとなり、もはや“デビューした瞬間に詰んでいる”という、なんとも気の毒すぎる立ち位置であったことがわかります。

ちびっ子に“大人の色気”は理解不能だったか

 彼のモデルが当時のアメリカの人気レスラーであったダスティ・ローデスであることは、誰の目にも明らかだと思います。

 と言いつつ、この“誰の目”の中に、当時『キン肉マン』を読んでいたちびっ子の目は含まれておりません。ちびっ子はダスティ・ローデスなんて知らなかったからです。

 私はプロレス好きだったので、なんとか彼の存在を知っていましたし、アメリカで人気があることも伝え聞いていました。ただ

なんであのルックスで人気があるんだろう?

アメリカ人ってのはわからんな

と感じていたものです(笑)。

 このように、その存在を知っている私ですら彼の魅力がわからないのだから、彼の存在を知らない者ならば推して知るべし、でしょう。

 つまりビューティー・ローデスは子どもに知名度のないダスティ・ローデスをモデルにしていた時点で、すでに詰んでいたわけです。

 今思うに、ダスティ・ローデスの魅力というのは、いわゆる“大人の色気”だったのだと思います。

  • ワルあがりのケンカ屋
  • 派手でポップな洒落者
  • 時にコミカルなキャラクター
  • 人を食ったムーブとファイトスタイル
  • 流血どんとこいの荒々しさ

 このように、オシャレで愛嬌のあるワル、といったキャラクターがウケ、彼は全米を席巻したのだと思われます。

 日本で言うならば”傾奇者”といったところでしょうか。つまり彼はルックスが

カッコいい!

というよりは、

仕草や言動がセクシー

という“大人の色気”で、人気を得たキャラクターだったのでしょう。

 ただ…日本のちびっ子には、残念ながらまだまだ“大人の色気”を理解する思考回路は育っていませんでした。

 ですので、ダスティ・ローデスをモデルにし、その個性をも踏襲したビューティー・ローデスがウケるはずもなく、

  • まずモデルを知らない
  • 魅力がちびっ子に伝わりづらい

という二重苦の中、彼は誌面での活躍を余儀なくされたわけです。

絵柄に見るローデスの扱いの変遷

 上記のような理由で、おそらく人気が出なかったであろう彼を、どうすれば魅力的に表現できるか、当時のゆで先生も相当悩んだと思われます。

 ただ目まぐるしく流れる週刊誌連載の中で、彼の魅力を掘り下げるべく熟考するにはあまりにも時間がなかったことでしょう。よって泣く泣く彼の成長を切り捨てた節が感じられます。

 それは彼のビジュアルの変遷を見ることでなんとなく予想がつくんですよ。

 初登場時はダスティ・ローデスにかなり寄せた“食えないヤツ感”を丁寧に描写していたのですが、ストーリーが進むにつれてそのフォルムはより丸くなり、アンコ型の体型ながらも時折醸し出ていた“色気”を、どんどん失っていったように感じます。

 そして『アメリカ遠征編』が終了した後も、彼はちょいちょいモブキャラ的に登場しますが、その体形はますます丸みを帯びていき、ぬいぐるみのようにコロコロとしたフォルムで描かれています。

▲ローデスの変遷 ©ゆでたまご

 また、ゆるくパーマのかかった印象な髪型も、モクモクとしたふきだし図形のような、ものすごくディフォルメされたものになり、

ローデスがピクトグラム化している…?

というないがしろ感を、さらに感じましたね(苦笑)。

 これを“かわいくなった”とポジティブにとらえることも可能なのですが、やはり“大人の色気”で売りたかった彼にとっては、大願が成就したとはいえないでしょう。

アメリカ遠征編におけるローデスの扱いの変遷

シャネルマン潜入編での扱い

 ではビジュアル面ではなく、ムーブについての彼の扱いについてフォーカスしてみましょう。

 見開きの大ゴマを使った派手なデビューこそはたした彼ですが、その直後からけっこう散々な目にあっています。

 まずシャネルマンとして会場にいたスグルに

その体でよく動くな。

ハイマンナンでも飲んだほうがいいんじゃないの⁉

と、そのアンコ型ぽっちゃり体型をディスられています。

 ちなみに“ハイマンナン”とは、当時ブームになったダイエット商品です(苦笑)。

▲“たべた~い、でもやせた~い”のハイマンナン

 この煽りと皮肉は、そのキャラクターをこれから売っていきたい彼にとって、大きな冷や水を浴びせられたと言わざるを得ません。

 読者たるちびっ子が

ローデス…なんかデブいな

という第一印象をほんのりと得ているのに、それを主人公が念押しをした形になってしまったわけです。

 さらにその直後、ローデスはシャネルマンの不意打ちを食らい、挙句の果てに失神KOされる、という失態まで晒しています。

 これも彼にとってはひじょうに印象が悪く、派手なデビューを完全に無きものにされてしまいました。まさにキャラクター潰しといってもよいでしょう。

 そしてラスベガスでのシャネルマン騒動では、共闘を約束していた超人同盟のエースであるスカル・ボーズの裏切りにあい、上唇から額まで顔の皮を剥がされる、というとんでもなく悲惨な目にもあっています。

タッグ選手権編での扱い

 その後のタッグ選手権ではフランス出身のジャンヌ・スティムボードとタッグを組み、『ジ・エンペラーズ』というタッグチームで挑みます。

 この一連のリーグ戦を俯瞰してまず感じることが

ローデスの影が薄いな…

ということです。

 このシリーズは総じて派手な必殺技があまり出てこない、という特徴があるのですが、それにしても彼の地味なファイトは気になるところです。

 フォルムで大きなハンデを背負っていただけに、ファイトスタイルで“これは!”という個性がないと、なかなか注目を得るというのは難しいでしょう。

 そもそも“アメリカンドリーム”、“マジソンの帝王”という、派手な路線でキャラクタライズされるはずだった彼が、タッグ選手権が進むにつれてどんどん地味になっていく様は、

まさにキャラクターのフェードアウト!

と揶揄されるのもいたしかたないかな、と感じるところです。

 さらに彼はここでもまたスグルに

脂肪太り!!

という蔑みを受けており、外見蔑視ルッキズムによるキャラ潰しに拍車がかかりました。

 そして挙句の果てには、新参者のパートナーであったジャンヌ・スティムボードに、完全にスポットライトを奪われるという屈辱を得るに至り、試合ではスカル・ボーズに顔面を火だるまにされるという憂き目にあっています。

 その有様を見る限り、

ちょっと報われないキャラだったかなあ…

という同情をも感じてしまうキャラでしたね。

彼は本当に魅力がなかったのか

 しかしあれから40年という歳月が経ち、我々も大人になりました。

 当然子どもの頃の感性とは違いますし、さまざまな経験を積むことで、ゆで先生が狙っていたキャラ設定を理解した上で、ビューティー・ローデスを再評価することが可能です。

 というわけで、ここでは“彼には本当に魅力がなかったのか”という点にフォーカスしてみたいと思います。

 先ほども書いたように、彼が狙っていたキャラは、仕草や言動がセクシーという“大人の色気”であり、そこに人を食ったようなチョイワルな“茶目っ気”を加えた人間味だったのだと思います。

 まず“セクシー”という点であらためて注目してみると、初登場時の彼のビジュアルは

…意外とラフで色気あるかも⁉

といった感じです。個人的見解ですけど(笑)。

 登場当時は、トレードマークであった“ゆるパーマ”が丁寧に描写されているんですよ。そのゆるさでセクシーさの強弱がつけられるんですよね。

 そして第2ボタンまでは開いているだろうと思われるポロシャツの着こなし。そしてのぞく胸元にキラリと光るネックレス。

©ゆでたまご

 とてもベタなファッションなのですが、中井画伯が彼のセクシーさを表現しようと挑んでいるのが伝わってきますね。今あらためて見ると、ですけど(苦笑)。

 チョイワルな“茶目っ気”という点では、彼の“受け口”が大きな表現力となっています。

 この受け口が“ニヤリ”と歪んだり、引き締まったりするギャップで、人を食った表現の加減ができるんですよ。

 ですので、初期のローデスはこの受け口の緩急で、表情を縦横無尽に変化させていることに気づかされます。

 これをこのまま有効活用できれば、彼の個性の表現は可能性にあふれていたと思います。しかしながら…皆さんご存知のように、その口はスカル・ボーズに無残にも剥がされることに。

 個人的にはこれよって彼の“チョイワル”表現はほぼ死んだと思っています。

 代わりに“顔の中央に鉄板をはる”というサイボーグ的な個性を手にしましたが、緩急をつけられる口元表現と天秤にかけると、明らかにマイナスの方が大きかったと思いますね。

©ゆでたまご

 もちろん中井画伯は口元が動かせないキャラに無理やり表情をつける達人なので(笑)、画伯の技術をもってすれば、鉄板ローデスでもなんとかなるのかもしれませんが(苦笑)。

 ファイトムーブでも人を食ったようなものがありましたね。

 お得意のパンチで相手を翻弄するムーブなんて、ぽっちゃり体型の大きなおしりを“クイッ”と歪ませたりしてますからね。バカにしてますよ、相手を(笑)。

 このあたりはモデルであるダスティ・ローデスのムーブを取り入れたのだと思うのですが、今見るととても味がある動きだと思いますね。

 以上のようにあらためて彼を見ると、さまざまな部分で魅力の伸びしろがある原石だったことに気づかされます。

彼が人気キャラになるためには

 では彼が人気キャラになるためには、いったい何が必要だったのでしょうか。

 実はよくよく考えてみると、彼と同様に“見た目”で苦戦する境遇にいながらも、他の個性で大人気キャラとなっているキャラがいることに気づきます。

 そうです。主人公であるキン肉スグルです(笑)。

 彼は逆三角形の体こそ手にはしているものの、顔はブタ面、コスチュームはツギハギという、圧倒的なネガティブスタートキャラの代表格なんですね。

 となると、ブサイク人気キャラのロールモデルたるスグルが人気を博する要因を、ローデスも取り入れればいいわけです。

 ブサイクキャラであるスグルが愛される要因は

  • 逆転ファイターであること
  • 普段は臆病で情けないが、やる時はやるというギャップ
  • 闘いを通じて結果的に相手を篭絡する人たらしぶり
  • 底の見えない愛と優しさ

といったところでしょうか。他にも山ほどあるので書ききれないですが(苦笑)。

 ですのでこれをローデスが行えば…いや、ハードル高いな、これ。

 というのも、これを彼が行うには、多くの描写シーンが必要不可欠なんですよ。キャラをじっくりと熟成させないと表現できませんからね。

 そのためには、まずレギュラーキャラになることが必須となります。だだレギュラーキャラになるためには、初登場時にある程度の人気が必要なわけで…。

 そう、皆さんお気づきでしょうか。ここにローデス人気キャラ化計画のパラドックスが生じるわけです。卵が先か、鶏が先か、のようなパラドックスです。

 これがあるから、ローデス人気キャラ化計画はハードルが高いんですよ。

 しかも『アメリカ遠征編』は、『キン肉マン』という作品自体が打ち切りの危機にあった、いわくつきのシリーズでしたからね。

 そんな切羽詰まった中で、読者人気を得るのにハードルが高いとわかっている一人のキャラクターを、じっくりと育てているヒマなんてないですって(苦笑)。

 とはいえ、彼の人気を高めるノウハウは、ゆで先生がよ~~~くご存知なわけですよ。私などに言われるまでもなく(笑)。だって一番得意な分野ですもん。

 ですので、ゆで先生がその気になれば、彼が人気キャラになるなんてあっという間だと思いますよ(笑)?

 つまりローデスは“まだ本気を出していないだけ”なんです(苦笑)。

おわりに

 以上、幻のアメリカンドリーム(笑)、ビューティー・ローデスの考察でした。

 つぶさに彼を追ってみて感じたことは

かなり不利な設定を与えられた、多重苦超人だったんだな…

ということでしょうか。

 それは演劇において演出家から

“大人の色気”を存分に出してくれる?

ただし観客は小学生中心だから、そこのところヨロシクね!

あとビジュアルは天パのぽっちゃりだから

観客動員数も下降気味だから、上げるように

という無茶ブリを一方的にされたのに等しいでしょう(苦笑)。

 そしてそれに対して

大人の色気を…小学生相手に…⁉

天パぽっちゃりで…⁉

さらに動員数を上げろ…??

と驚愕しつつも、

…わかりました。

やってみます

と答えざるを得なかったローデスの、逃げ道のない不憫さが可哀想でなりません(苦笑)。

 ですので、いつか彼が本当の“アメリカンドリーム”をその手につかむことを、願ってやまないですね、はい。

今回は上野さん、ミスターポテロングさん、のりたまさん、ショコラティエさんほか、たくさんの方からリクエストをいただきました。ありがとうございました。

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    コメント

    1. uzuki より:

      確かアニメだとストーリーが大幅に変えられて
      ロボットにされたんでしたっけ?(うろ覚え
      そこら辺にもアメリカ遠征編の不人気っぷりがうかがえます

      ビューティ出すなら意外と”今”だと思うんですよ
      読者が基本的に大人になってるし超神相手に余裕綽々なムーブかます姿は
      きっと今の読者にも刺さるはず!
      …と言いたいけど、やっぱりそもそもの知名度がないだろうから
      よっぽどディープなファンでもない限りは
      「誰やねん、このおっさん?」になりそうなのが悲しい

      • アキラ アキラ より:

        uzukiさん、こんにちは。

        ローデス、少しは報われてほしいですよね。今のゆで先生だったら、いい役割でカッコよく料理してくれると思うんですけどね~。

        ただローデス以前に料理すべき超人もたくさんいるので、けっこうな順番待ちかな(苦笑)?

    2. つかさ より:

      今回も素晴らしい考察ですね
      アダルトなカッコ良さを求めたキャラとは考えもしなかったです

      アメリカ遠征編
      実在レスラーをモデルにしたキャラが多数登場
      海外(アメリカ)のレスラーを知らない読者には受けなかったでしょうね
      しかも 何故にローデスをモデルに?
      テリー・ファンク同様
      ゆで先生の推しのレスラーだったとか?

      復活しての活躍も期待したいですが
      テリーマン同様 元ネタが実在レスラーの比率が高いので地味になりそうです

      • アキラ アキラ より:

        つかささん、こんにちは。

        よ~~くローデスを凝視していると、「意外とセクシー」と思っちゃったんですよね(笑)。

        ゆで先生は誌面をアメリカの雰囲気でいっぱいにしたかったんでしょうね。そのためには当時アメリカマット界で人気があって、ゆで先生自身が気に入っていたレスラーをモデルにして登場させたのではないかと思います。

        でもその嗜好はちびっ子とまるでリンクしなかったと(苦笑)。

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