80年代前半まで少年を魅了したデコ自転車
圧倒的なカッコよさを感じた自転車
まずはこの自転車をご覧ください。

懐かしい! これに似たの乗ってたよ!!
と感激する人もいるでしょうし、

なんじゃ、このヘンテコな自転車は!?
と感じた人もいるでしょう。
この自転車はスーパーカー自転車(正式にはジュニアスポーツ車)といわれ、70年代~80年代前半を生きた少年たちの憧れの的となった自転車なんですよ。
そのモチーフは70年代後半に大ブームとなったスーパーカーです。
ランボルギーニ・カウンタック、フェラーリ512BB、マセラティ・ボーラといった、少年たちを魅了して熱狂させたツーシータースポーツ車がそれにあたります。
そのエッセンスを自転車に取り込み、“スーパーカーには乗れないけど、せめてその気分を自転車で味わいたい”という少年たちの需要に応えた商品が、このスーパーカー自転車なのです。
スーパーカー自転車の市場はブリジストン、ナショナル、カワムラ、丸石などのサイクルメーカーが参入してしのぎを削っており、その過熱ぶりはさながら“スーパーカー自転車戦国時代”の様相を呈していました。
私も『サーキットの狼』の影響でがっつりとスーパーカーにはハマりましたから(笑)、当然このスーパーカー自転車はどストライクゾーンの商品でしたね。

マジ、カッコいい~~~っ!
と思いましたからね、実際。
ただし、お値段の方もスーパーだったんですよ(苦笑)。当時の値段で5~8万円くらいしましたからね。
おそらく現在(2021年)の貨幣価値で7~11万円に相当するでしょうか。
仮に誕生日プレゼントで買ってもらったとしても、破格の金額ですよね。ニンテンドースイッチ2、3台分くらいですから。
ですので、残念ながら私はこの自転車を手にした経験はありません。それだけに、それを手にした友達を見るにつけ

いいなあ…
と、指をくわえていた部類ですね(苦笑)。
ジャンプ裏表紙に見るスーパーカー自転車
では世の中的に、このスーパーカー自転車がどれだけ少年たちを熱狂させていたかがわかる資料を提示しましょう。
それは…週刊少年ジャンプの裏表紙広告です。いやホント、ジャンプ裏表紙広告における自転車の掲載率はハンパないですよ。
正確な統計をとった人はいないと思うのですが、相当な割合を弾き出すはずです。
そして雑誌広告で1、2を争う高額スペースが裏表紙だという事実にも注目です。
土地で例えれば銀座ともいえるスペースを、惜しげもなく押さえるという気合の入れようですからね。
さらに言うと、当時ジャンプは少年マンガ雑誌でトップの発行部数となっていたので、その広告スペース料金はかなりのものだったと思われます。
裏を返せば、それでもここで宣伝をすれば費用対効果的にはバツグンの威力を発揮する、という評価が各自転車メーカーにはあったのでしょう。
この惜しみない広告宣伝費投下にも、スーパーカー自転車戦国時代の激烈さが見てとれますね。
これ必要? と感じるギミックのロマン
スーパーカー自転車の特徴は、
- 艶消しブラックの車体
- シャープな三角柱ヘッドライト
- オートマチック車を思わせるシフトチェンジレバー
- セミドロップで低い位置のハンドル
といった点でしょうか。
それらの基本スタイルを踏襲した上で、各メーカーはさらなる差別化を図るべく、オリジナルのギミックを色々と装備しました。
ではそれらギミックを少しご紹介しましょう。ようわからん単語が頻出するので、私なりの翻訳もつけておきますね。
デジタルメモリーシフト
超性能サイクルピューターギヤチェンジ機構<デジタルメモリーシフト>-デジメモ。
数字素子による発光ダイオードのデジタル表示とインジケーターでシフトの段数がバッチリ確認。電子ブザーつきでシフトしたとき「宇宙音」が発信。
シンクロメモリーMAXのはたらきで、停車中に希望ギヤにセットしておけば、発進と同時にギヤチェンジ、シフトレバーとディレーラーの動きが完全に同調。こいつはすごい!
“超性能サイクルピューター”という単語がパワーワードすぎます(笑)。いまだかつて“サイクルピューター”なる言葉は聞いたことがないですからね。“宇宙音”も相当ですけど(笑)。
ただデジタル数字とそれっぽい音の組み合わせにより、コンピューター感をとても感じさせますね。少年たちにあふれる未来感を与えたギミックといえます。
リトライト&Wリモコンレバー
新発明のダブルリモコンレバー、ライトの開閉もダイナモ起動も手元で操作。両方のレバーを同時に操作すればダイナモ連動でライト照射。スーパーカー感覚がゴキゲンなライティングシステムだ。
“スーパーカー感覚”と書いてある通り、ライトの開閉ギミック『リトラクタブルライト』を装備しているようです。
この“ライトの開閉”というのは、カウンタックや512BBに憧れた少年たちにとってはたまらなさ過ぎるギミックでしたね。
いつの世も“変形”、つまりトランスフォームは少年たちの大好物です(笑)。
カラー液晶セーフティモニター
走りの未来を予感させ、FFセンサーが「セーフティモニター」を身につけた。走行スピードを鮮やかな3色カラーで知らせる“カラー液晶パネル”。
カラー液晶だから夜はもちろん、昼もくっきり! 「グリーン」「イエロー」「レッド」へとエキサイティングに変化し、最適ギヤ位置もカラー表示する。
テクノ魂は走りをここまでスーパーにした…。
モニターを自転車に搭載するという、なんとも夢のあるギミックです。さらにポイントは“カラー液晶”であること。
当時はゲームウォッチをはじめとする液晶ゲーム機が全盛でしたが、その表示はすべてモノクロでした。
ゆえに“液晶=モノクロ”というのが常識だった中での“カラー液晶”なんですよ。これは心躍ります。
ただ現在のカラー液晶とはまったく違って、モノクロ液晶の上に、カラープリントをしたフィルムを貼ってカラーっぽくしているだけなんですけどね(笑)。
しかし少年たちにとってはテンションあがるギミックです。
でもこれに気をとられていると、前を見なくなって全然“セーフティモニター”じゃないと思うんですけど(苦笑)。
実はこのよそ見系統で私は大きなしくじりを犯すのですが、それについては後述しますね。
LSシステムライト
6灯同時点灯
メインランプ・サブランプの4灯同時点灯によって遠近両方を同時に照射、一段と明るく安全。さらにサイドランプが自動装置により点灯し、6灯が同時点灯する新しいシステムライトだ。サブランプ
疲れているときには、サブランプだけで、ヘッドライトの使用がOK。電池電源ですから、ペダリングも軽く、ラクラク走行。フォグランプ、パーキングライト
霧や雨、夕暮れ時…の走行中の安全にはフォグランプ、停車中にはパーキングライトとして使えるサイドランプ。パッシングライト
スイッチ操作でサイドランプやサブランプをパッシングライトへ。電子音の発信も自由自在。
自転車にフォグランプやパーキングライト、パッシングライトが必要なのかと言われると、必要ないです(笑)。
でもですね、少年たちはピカピカ光るのが大好きなんです。それが電子音と合わさり、いろいろなビームを照射できるという選択肢の多さ。
例えそのうち面倒くさくなり、基本の照射パターンしか使わなくなったとしても(笑)、そこにあふれるロマンには抗えませんね。
ソーラーダイオードテール
ブリヂストンの先端技術が、ついに太陽をとらえた。昼間は太陽エネルギーを蓄電し、夜間はそのエネルギーを利用してダイオードを点滅させる画期的なテールランプ。こんな光、見たことない。
これも少年たちが大好物な点灯ものなんですけど、テールランプの電気点灯は意外と実用的かもです。
夜間走行時の安全性で考えたら、反射板よりは全然視認性もいいし安全だよなあ。これは現在でも採用されていいんじゃないかな?
ギミックのまとめ
以上、スーパーカー自転車におけるギミックをいくつかご紹介しました。キーワードは
- カタカナ専門用語
- デジタル数字
- コンソール
- モニター
- 変形
- 点灯、点滅
といったところでしょうか。
特に車の専門用語を自転車に落とし込み、

言葉の意味はわからんが、なにやらスゴそうだ…!!
と少年たちに思わせる演出が顕著ですね(苦笑)。
あと基本的に光らせておけば大丈夫です(笑)。そう考えると、デコトラに近い価値観があるのかもしれません。
ただこれらのギミックが実用的かつ必要かどうかと問われると…必要ではありませんね、絶対に(苦笑)。
でもロマンは満ちあふれていたと思います。そのロマンだけで毎日を楽しく過ごせました(笑)。
スーパーカー自転車のトラウマ
このように魅力あふれるスーパーカー自転車ですが、自分の物にはならなかったものの、その乗り心地を確かめられるチャンスが訪れます。
そうです、友達のマシンを試乗させてもらうパターンです。
憧れのスーパーカー自転車を運転できるというシチュエーションに、私の興奮度はマックスでした。鼻息を大量に出しながら

公園の周りを何周かさせて
と懇願し、颯爽とそれにまたがって走ったんですよ。
やはりスポーツ自転車というだけあって、風を切るスピード感が素晴らしく、夢中にペダルをこいでいました。
そしてシフトチェンジレバーが斬新すぎて、必要もないのにガチャガチャやるわけです(笑)。
そんなスピードが出ている状態で、シフトレバーをいじくるというよそ見をしたものだから、目の前に路駐していた車の存在に気づくのが一瞬遅れたんです。
そしてそれを避けようとするものの、バランスを崩し、自転車左サイドを路駐車に擦りつけるように激突。その反動で路上に横転ですよ。
そう、私は借り物の自転車でクラッシュするというしくじりをやらかしたんです。
友達の自転車は左サイドに金網型のカゴが、折りたたみ式で装着されていました。そこがちょうど車と激突し、歪んでしまいました。
車の方は、自転車と接触した部分の塗装が剥がれていた記憶があります。
もう泣きましたね。すっころんだ肉体的な痛さと、借り物の自転車をひん曲げてしまった罪悪感がおりまざって、軽くパニック状態ですよ。
しかもよりによって試乗させてくれた友だちのマシンは新車でした(苦笑)。
いうなれば、新車のスポーツカーを借りてドライブし、見事に事故ってしまったようなものです。考えたくない光景でしょう?
一応友達にはきちんと謝ったのですが、これは相当なトラウマとなりましたね。
事故の事後処理を親がどうしたのかは詳しくは聞いていませんが、自転車も車も弁償したんだろうな。
でも今から考えると、自転車はおそらくカゴを取り替えるだけで大丈夫だったと思いますけどね。
どちらかというと、車の弁償のほうが深刻だったんじゃないかな(苦笑)。今度聞いてみよう。覚えてないかもしれないけど(笑)。
ブームの終焉
そんな少年憧れのスーパーカー自転車でしたが、80年代中盤あたりから急速にその姿を消していった記憶があります。
モデルとなったスーパーカーも、とうにブームが終わっていましたから、当然といえば当然です。
その代わりに出てきたのが、ドロップハンドルのロードレースに適したスポーツ自転車と、MTB自転車といわれるオフロード性能に適した自転車です。
要はデコトラ的ギミックのない、スポーツ競技車に人気が移っていったんですね。
個人的にはもうその頃には自転車に多くの性能を求める欲求はなくなっていて、ぶっちゃけママチャリで十分だという価値観に代わっていました。
だからロードマンやMTBにはいうほど魅力を感じなかったし、物欲も出ませんでしたね。
ただスーパーカー自転車が廃れたことに対しては、ちょっとしたもの寂しさを感じたのは事実です。
おわりに
以上、私のスーパーカー自転車に対する思い出でした。
今こういった自転車を見ると、あらためて

やっぱりカッコいいな~
と唸ってしまいます(笑)。なんででしょうかね。
おそらくは各メーカーの“少しでも子どもたちのテンションを上げたい”という情熱が、そのギミックとなってほとばしるほどに表れていたからなんでしょうね。
そしてたとえそれらが実用上は必要のないものであったとしても、その派手さゆえ目に見えてわかりやすい形で少年たちの心をとらえたのでしょう。
そんな技術者たちの努力と頑張りが、子どもの時は気づけなかったけれども、しっかりと心に刻み込まれていたのかもしれません。
そしてフリーズドライのように刻み込まれていた技術者たちの想いが、私たちが大人になることで解凍され、あらためてその魅力を感じさせるのかもしれませんね。


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